【研究者紹介】
口腔と全身むすぶ公衆衛生学

松戸歯学部 有川 量崇 教授

研究
2019年11月01日

疫学や食材含め幅広く、人生100歳時代視野に

有川 量崇 教授

松戸歯学部 有川 量崇 教授

大学3年の授業で、衛生学という学問に目覚めたことが契機となった。
「一本の虫歯を治療するより、地域住民のために何ができるか?」の教えに感銘を受けて、ボランティア団体の歯科保健医療国際協力協議会(JAICOH)に参加。その年のカンボジアを皮切りに、学生時代の休みはミャンマーやタイの山奥を訪ねて回った。

いずれも診察や治療だけでなく、歯科教育の手伝い、実習の手伝いが目的だ。そして世の中の理不尽さや健康格差を肌で感じてきたという。

以来、同協議会には25年間所属して、いつの間にか副会長に。大学卒業後に1年半ほど都内の歯科医院に勤めたものの、再び大学へ舞い戻ったのは公衆衛生学をさらに極めたかったからである。

口腔乾燥の予防法まで

研究として最初に取り組んだのは、高齢者の口腔環境と医療費の問題。80歳のお年寄り千人を対象に、保持する歯の本数と総医療費の関係を分析すると、本数が多いほど医療費が少ないことが分かった。

口の中が健康ならば、何でもバランスよく食べられるため、医療費も少なくて済むということなのだろう。研究対象はそこから全身の健康状態との関連性を探る疫学分野に広がった。

千葉市歯科医師会との共同研究によると、口腔状態の良好な高齢者ほど、「外食が多い」「いろいろなものが食べられる」「食事が楽しい」の回答が多い。口腔はQOL(生活の質)と密接に結びついていることを証明するものだ。

そこで浮上したのが、高齢者に多い口の中が乾燥するドライマウス患者である。加齢を重ねてさまざまな病気にかかるにつれ、唾液も減っていくわけだが、原因の一つとして生活習慣病から来る酸化ストレスが挙げられるとか。

有川教授の研究によると、酸化ストレスを少しでも消して唾液の分泌を促進するには、抗酸化物質のビタミンC、コエンザイムQ10などが有効。とはいえ錠剤だけを飲んで済ませたのでは、食生活上のバランスに欠ける。

とりわけ人間の歯は野菜や肉をすりつぶす奥歯から無くなっていくため、食生活が偏ったものになりかねない。そのまま生活習慣病がエスカレートし、より深刻な病気に陥る危険性もあるわけだ。

このため教授は衛生学だけでなく、口腔疾患に効果的な食材や機能性食品の開発にまで手を伸ばし、女子栄養大学の客員教授まで務めているほどだ。

これまでの研究では、納豆菌の免疫力に着目。一方で、口腔内の保湿効果の観点から中鎖脂肪酸やビタミンDなどの有効性を認めた論文を発表している。

千葉と岩手で共同研究も

有川教授と学生たち

国際ボランティアの学生達と一緒に

現在は千葉県歯科医師会と一緒になって、健康寿命延伸事業の「8029(ハチマル肉)」研究に取り組んでいる。80歳になっても肉を食べる元気な高齢者を増やしていこうという運動の一環で、75歳時の後期高齢者検診の膨大なビッグデータを分析研究。その成果を高齢者が陥りがちな虚弱体質の克服に向けた有効な方策作りに生かす狙いである。

さらに昨年からは、岩手県100歳健康長寿調査にも参画した。同県内の100歳を迎えたお年寄り約20人を戸別訪問して、長生きの秘訣を探ろうという研究だ。

衛生学から臨床予防の疫学分野、果ては食材研究と、教授の研究分野は幅広いが、それぞれが深く結び付いているわけだ。

「全部に共通するのが、世直しとか世の中を変えたいという思い。鹿児島の地域社会に積極的に貢献していた両親と、途上国でのボランティア活動に熱心だった産婦人科医の叔父に触発された影響でしょう」。有川教授が述懐するのは、当初からの熱い志である。

松戸歯学部
有川 量崇(ありかわ・かずむね)教授

平成9年本学松戸歯学部歯学科卒。
1年半の歯科医院勤務の後、10年に松戸歯学部助手。専任講師、准教授を経て30年教授。歯科疾患の予防と公衆衛生の向上が研究の基本方針。
日本歯科医療管理学会、日本口腔衛生学会、日本抗加齢医学会などに所属。鹿児島県出身。50歳。