【研究者紹介】
論文を書き続けることが自らの使命

商学部 戸田 裕美子 准教授

研究
2019年12月18日

ダイエー関連で学会賞2度受賞。現在は西武流通グループを徹底研究

戸田 裕美子 准教授

商学部 戸田 裕美子 准教授

勢いに乗る気鋭の若手研究者だ。かつて「価格破壊」を旗印に安売りスーパーを全国展開したダイエーが、高品質のプライベートブランド(PB、自主企画商品)戦略を試行した新たな史実を論文にまとめ、学会賞を受賞した。さらにダイエー創始者の故中内㓛氏が進めた流通革命をめぐる議論を再整理し、今日的な視点から分析して別の学会賞にも輝いた。

その後、中内流の流通革命に批判的だった西武流通グループの故堤清二氏について、その経営実践と経営思想の変遷をまとめた。現在は、堤氏が残したスーパー西友のPB「無印良品」を展開する良品計画について、やはりこれまでにない視点で徹底的な研究を進めている。戸田准教授は自らの使命を「論文を書き続けること」と強調する。

独創的と評価

ダイエーの高品質PB戦略の論文は「ダイエー社とマークス・アンド・スペンサー社の提携関係に関する歴史研究」。

それによると、ダイエーは日本のPB開発の先駆的存在。PB戦略を洗練化するために、1970年代後半から80年代にかけて、英国のトップ小売業、マークス・アンド・スペンサー社(M&S)から多くを学び、低価格PBから脱却し高品質PBを開発する方策を模索した。

戸田准教授はダイエーとその関係者へのヒアリング調査を重ね、M&Sの一次資料を駆使し、米国に学んだと思われてきたダイエーのPB戦略が、実際にはM&Sの多大な影響を受けていたことを実証した。

日本流通学会はこの業績を「独創的」と評価し、2015年10月に「第6回日本流通学会論文賞」を授与した。

新たな分析視角

もう一つの受賞論文は「流通革命論の再解釈」。日本マーケティング学会から「マーケティングジャーナル2015/ヤングスカラー賞」を受けた。

論文によると、流通革命の象徴的な存在だったダイエーが、イオンの完全子会社になったことなどから、約50年前に出現した流通革命の概念に再び関心が寄せられるようになった。関連するさまざまな文献を調べたところ、その解釈をめぐり、多様な議論が展開されたことが明らかになった。

戸田准教授はこれらの議論を五つの問題群に再整理し、そのつながりを考察した結果、主体としてのコンビニ、方法としてのPB開発、PB開発における協調的な組織間関係という形で解釈できるとした。具体的には、1980年代の店舗出店規制などを背景に、総合量販店が小規模なコンビニの形をとって積極的にPB開発をし、流通革命を実現してきたとして、今日的な流通現象に新たな分析視角を与えた。

職人芸

国際学会で

国際学会のレセプションで

研究者としてスタートした当初は、米国のマーケティングの歴史がテーマだった。そこから日本のマーケティング史にテーマが移り、さらにM&S、ダイエー、中内氏、堤氏へと移った。現在のテーマである良品計画は、凡百の関連書籍とは異なる視点で研究中だ。

戸田准教授によると、論文を書く力は職人芸と同じで、書かないと腕が鈍る。最低でも年に1本の論文を執筆することを自らに課している。論文を書くために研究する力は、学生を指導する力でもある。論文を書く力が衰えると、学生に指導ができない。学生に最も重要な学びは、論文を書くプロセスの中にあり、それはものを考える作業でもあるため、2年生から1万2千字の小論文を書かせ、4年次の卒業論文の準備としている。

地唄筝曲

研究に行き詰まると、地唄筝曲の世界に浸る。琴や三味線を弾きながら、ゆったりと歌う。中学1年生の時にクラブ活動で始め、現在は師範級の腕前だ。年に数回の演奏会が迫り、プレッシャーを感じると、逆に研究に入り込む。両方のバランスをうまく取っている。

商学部
戸田 裕美子(とだ・ゆみこ)教授

平成11年青山学院大経営学部卒業。
16年慶応大大学院商学研究科博士前期単位取得満期退学。19年同博士後期単位取得満期退学。商学博士。本学商学部専任講師を経て27年准教授。
経営史学会、日本流通学会、CHARM ASSociation、日本マーケティング史研究会、日本商業学会に所属。東京都出身。42歳。