日大アスリートの挑戦 ~明日の覇者へ

相撲部

スポーツ
2021年03月29日

圧巻のインカレ団体V30 「常勝」の誇り胸に土俵へ

学生相撲界に誰もが認める王者として数十年間にわたって君臨し続けているのが相撲部だ。2020年もインカレ団体戦で2年連続優勝。他校を大きく引き離す優勝回数は30回に達した。「学生横綱」も25人誕生し、プロ入りして大相撲で活躍する力士も数多い。「常勝」の誇りを胸に、部員たちは前を向いて力強く土俵に上がる。

2020年11月8日、インカレ団体戦(5人制)決勝の日体大戦。本学の1―2で後のない副将戦の土俵に川副圭太(文理3年)が上がった。大熱戦の末、土俵際に追い込まれる。絶体絶命。その瞬間、川副の体がしなり、相手の体がフワリと宙を舞った。十八番の「うっちゃり」だ。劇的な勝利に沸く本学勢。2―2の大将戦を川渕一意(文理1年)が制し、本学が2年連続30回目の団体優勝を成し遂げた。

相撲は個人競技。しかし、学生相撲では、仲間たちと戦う団体戦にこそ価値がある。なかでもインカレは特別だ。マスコミの注目は学生横綱を決める初日の個人戦だが、学生には2日目の団体戦がクライマックス。ほかの大会で全て負けてもインカレだけは優勝したいと願う。

そんなインカレ団体戦に、本学は王者として君臨し続けている。創部は大正時代の1921年。41年に初優勝し、60年代後半から優勝の常連に。82年から空前絶後の7連覇を達成。優勝30回は2位拓大の9回を引き離すダントツ1位だ。

女子相撲部員の稽古

女子相撲部員の稽古

プロで活躍する卒業生も多い。学生相撲出身初の横綱輪島(輪島博、1970年卒)をはじめ、50人を超える関取(十両以上)を輩出しており、現役は遠藤(遠藤聖大、2013年卒)、翔猿(岩﨑正也、15年卒)らがいる。

「王者」は男子だけではない。女子相撲部は女子相撲の先駆として創設され、インカレ団体戦では7回中5回優勝。プロのない女子にとって最高の舞台となる世界選手権には2019年、日本代表として現役学生3人が出場し、久野愛莉と山下紗莉奈(ともに現在文理3年)が団体戦で準優勝、個人戦では久野が重量級3位、奥富夕夏(現在文理4年)が軽量級3位に輝いている。

「黒まわし」はレギュラーの証し

副将戦で川副が決めた鮮やかなうっちゃり

インカレ団体戦決勝、日体大戦の副将戦で川副が決めた鮮やかなうっちゃり。見守る部員たちの表情が、この勝利の価値と、インカレにかける思いの深さを物語る

JR中央線の阿佐ヶ谷駅から徒歩8分。相撲部の寮は閑静な住宅街にたたずむ。1階は2面の土俵を持つ稽古場のほか、調理場と、食事スペースとして使われる広間。食べるのもトレーニングのうちとの考えから、3人のマネジャーを中心に、朝と夜の一日2回、栄養のバランスを考えた食事を提供し、部員の体を作る。地下1階はトレーニングルーム。2階と3階は男子部員(49人=2020年度)の寮室。近隣の寮で暮らす女子部員(6人)も、稽古や食事のためにここに通う。

稽古は基本的に毎日行われる。時間は時期などにより異なり、授業のある平日の男子部員の稽古は午後6時から。四股、すり足などの基本運動から始まり、数人が勝ち抜きで相撲を取り、実戦力を養う「申し合い稽古」、仕上げに行われ、押しと受け身の型を身につけ、スタミナを養う「ぶつかり稽古」などに励む。

本学相撲部の象徴が「黒まわし」だ。一般的なまわしの色は白。しかし、レギュラーに近い10人ほどだけが「黒」を許される。憧れの黒まわしのためには無理もいとわない。だからこそブレーキをかけることも大切だと木﨑孝之助監督は明かす。

「勝ち抜きの申し合い稽古では、負けると下がるのが基本ですが、『もう一丁』と言って残ろうとすることもある。認めることもありますが、格下の相手に負けてカッとしたときなどはケガをしやすい。そこを見極め、止めるようにしています」

受け継いだ「常勝」の誇り

木﨑監督

木﨑監督は奄美大島出身。鹿児島商業高を経て本学に入学し、学生時代はインカレ個人戦準優勝の実績を持つ。重量挙部の難波謙二監督は経済学部の同級生

木﨑監督は、インカレ団体7連覇の最初の2回の優勝を3、4年生として経験。黄金時代を築いた田中英壽監督(現理事長)の後を引き継いで2013年に監督となった。就任早々、痛感したのが「常勝」ゆえの重圧だ。

「3年目で初めてインカレ団体優勝したのですが、その後3年間、優勝を逃しました。苦しかったですね」

重圧をはねのけ、2019年に4年ぶりに優勝。20年も優勝し連覇を果たした。原動力は、日大に強い憧れを持ち、入学した学生たちだ。

近年、高校相撲の有力選手が大学に進まずプロ入りする例が増えている。今年度のインカレ団体戦でうっちゃりを決めた川副も、当初は高校卒業後すぐのプロ入りを考えていた。しかし、常勝のプライドを胸に闘う日大相撲部員の姿にひかれ、憧れを募らせて入学した。

川副の1学年上、今年度の主将の佐藤淳史(法4年)は石川・金沢学院高時代、世界ジュニア重量級優勝などの実績を持つ。高校の先輩で同郷(石川・穴水町出身)の遠藤に憧れ、迷いなく本学に進み、1年から黒まわしを許されて活躍。しかし、腰を痛めて手術。主将を任された今年度も万全には戻らず、インカレ団体戦出場は予選のみで、決勝トーナメントはメンバーから外れた。それでも立派に主将の務めを果たしてくれたと木﨑監督は語る。

「試合に出られなくても、稽古では彼が一番引っ張ってくれました。4年生はインカレ団体戦で大きな重圧がかかります。私自身、決勝で負けました。だからあえてメンバーから外すことも多い。そんな4年生が稽古の雰囲気をつくり、部をまとめてくれることが大きいんです」

インカレ団体戦決勝で1年生ながら大将として勝利した川渕は、佐藤と同じ金沢学院高出身。佐藤が遠藤に憧れたように、川渕は佐藤に憧れ、本学に進んだ。新年度、主将を務める川副も、初めて後輩を迎える川渕も、1年間、苦しみながら主将の役割を果たす佐藤の姿を目に焼き付けてきた。

受け継いだ常勝の誇りを胸に、王者は3連覇を目指す。