【2020東京五輪が残したもの:Part 3】
初めて現場で見たパラリンピックの意義と今後の課題

文理学部 体育学科 金野潤 准教授

スポーツ
2021年12月27日

1年延期の末に実施された東京オリンピック・パラリンピックは、ほとんどの会場が無観客となるなど、さまざまな制約がある中での開催となった。
しかしいざ競技が始まれば、選手たちの戦う姿は人々に勇気と感動を与え、日本は過去最多のメダルを獲得した。
コロナ禍でのオリンピック・パラリンピック開催は、日本に、そして世界に何を残したのか。
今後両大会はどのように発展していくのだろうか。

本学柔道部監督を務める金野潤准教授は、全日本柔道連盟強化委員長の重職にあり、今回の東京オリンピックで素晴らしい成果をもたらした。一方、金野准教授は講義で「オリンピック・パラリンピック論」を担当し、パラリンピックの歴史などにも造詣が深いが、現場でパラリンピックを見たのは今大会が初めてだったという。パラリンピックに触れて感じたことや今後への期待を聞いた。

文理学部 体育学科 金野潤 准教授

文理学部 体育学科 金野潤 准教授

初めて生でパラリンピックを見て感じたことは二つあるという。

「一つは特に全盲の方や、全盲の上に聴覚障害もある方もいらっしゃって、一つの技を覚えるのにどれだけの努力があったのだろうと想像し、単純に障害を乗り越えて戦う姿に感動し、勇気をもらいました。自分自身ももっと頑張らなければいけないなと、強く感じました」

柔道の初日は都立の高校生が見学に来ていて、日本の瀬戸勇次郎選手が銅メダルを取ったのを見て大喜びだった。
「彼ら彼女らも私と同じように、多くのものを感じたのではないかと思います」

二つ目は金野准教授が予想していたより、競技力がかなり高かったことだ。

「特に海外勢は健常者グループに本当にひけをとりません。パラリンピックの柔道で日本が取ったメダルは銅二つだけでした。海外と日本とではレベルの差があり、強化に携わる者としてはかなりの驚きでした」

どうすればオリ・パラが人類にいい影響を与えられるか

パラスポーツ、バスケット

パラリンピックは、元々は負傷した人々や障害を持つ人々に、スポーツをすることで希望を与える、それが生きる力になるという趣旨で始まった。現在でもそういう側面が大いにあるが、一歩進んで、楽しむだけでなく、競う、金メダルを目指して戦うというもう一つの側面があると金野准教授は指摘する。出場選手の中には、企業のサポートを受けオリンピック選手同様にプロのような形で、アスリートとして競技に取り組む選手がいる一方で、仕事をしながら自分のできる範囲内で練習している選手もいる。

「競技にもよりますが、後者のようなアマチュアの方々が金メダルを取るのが難しくなってきています。このままの路線で行くのか、あるいは当初の、障害を持つ方々にとっての生きる力になるような、つまり参加することに本当に意義があるという大会に戻していくのかが課題だと思います。
これはオリンピックにも言えることです。どうしたらこのイベントが人類にいい影響を与えていくのだろうという、問題意識を持ち続けることが大切だと考えます」

授業で学生にアンケートを取ったところ「オリンピック・パラリンピックを開いてよかったと思うか」という質問に、8割以上の学生が肯定的だった。

「日本人がチームとして海外の方々をおもてなしして大会を開き、国際社会の一員としての約束を果たせてよかったと私も思います。一方、コロナ禍の中で開催されたことで、人々がオリンピック、パラリンピックって何なんだろうと改めて考えるいいきっかけになりました。それが今大会の意義だったと感じています」

<プロフィール>

文理学部 体育学科
金野 潤(こんの じゅん)准教授

1967年東京都生まれ。本学文理学部体育学科卒。大学院総合社会情報研究科博士前期課程修了。2006年本学文理学部非常勤講師。08年同准教授。本学柔道部監督。在学中に全日本学生柔道体重別選手権準優勝などの戦績を残す。卒業後綜合警備保障で選手として活躍し、全日本選手権優勝2回。16年全日本柔道連盟強化委員長に就任。東京オリンピックでは日本柔道チームに好成績をもたらした。