日本大学×日大豊山
“桜”のプールから、世界へはばたけ!

~第2回・日大豊山水泳部の強さを生む施設・指導法~

スポーツ
2019年12月16日

令和元年、日本大学豊山高等学校水泳部はインターハイの男子総合において3年連続10回目の優勝を果たした。

それに触発されたのか、日本大学水泳部もインカレの男子総合で12年ぶりに37度目の優勝を飾った。2位に大差をつけての覇権奪還は「水の覇者」復活を大きく印象付け、その中心には豊山高出身の吉田惇哉、関海哉、吉田啓祐がいたことも特筆すべきことだろう。

昭和38年にインターハイで初優勝してから半世紀以上の長きに渡り日本高校水泳界のトップに君臨する日大豊山水泳部。その強さに秘密を探るため、井上敦雄元監督、上野広治元監督(現・日本大学水泳部監督)、竹村知洋監督に迫った。

※全3回に分けてお送りいたします。

学校のサポート・豊山水泳部の育成方法

——前回のお話で集団の力があり、その中でも学校の理解や協力がなければ強さを継続できないとおっしゃっていましたが、学校は具体的にはどのようなサポートをされているのでしょうか?

井上敦雄元監督の画像

井上敦雄元監督

井上:豊山水泳部は大正時代に創部し、当初から25mプールがありました。その当時に専用のプールを持っている学校というのは数えるほどしかなく、水泳部を支える下地が既にあったということでしょう。そして私が入学した昭和33年から有力な選手を勧誘し始め、インターハイ初優勝後に室内温水プールを作ってくださりました。立派な施設があり、有能な選手を集める、そういったサポートを長きに渡り、豊山は続けてくれています。

——豊山は校舎を建て替えたと聞いています。現在はどのような環境で練習をされているのでしょうか

竹村:新校舎は平成27年に建てられ、校舎の11階に25mプールが10コースあります。以前は6コースでしたので、高校生も中学生もゆとりをもって練習ができるのはとてもありがたいです。トレーニングルームも同じフロアにありますので、練習に集中できる環境が整っています。

——インターハイを3連覇、中学は今年全中大会で準優勝、昨年と一昨年は優勝を果たしています。何か特別な練習法が豊山水泳部にはあるのでしょうか?

竹村:練習は基本的なことが中心で、何か特別なことをしているという意識はありません。中学と高校では朝練の有無がありますし、中学生と高校生では体力が違いますから練習量は異なります。選手の実力、特性、やる気によってA、育成、Bとチーム分けもしていますが、午後の練習時間はせいぜい1時間半ぐらいで、ここで昔から行われていることを私も実践しているだけです。

——具体的にどのような練習をされているのでしょうか?

竹村:水泳トレーニングと陸上トレーニングですね。プールでは良いフォーム作り、持久力とキックを強化することを意識して指導しています。陸トレでは、ウエイトトレーニングや体幹トレーニングなどです。

——例えば高校にスポーツ推薦で入ってきた有望な選手でも、そのような基本的なことを3年間行うのでしょうか?

上野:そういう選手はスイミングクラブ出身者が多いのですが、竹村から言わせれば、基本を教わらずにここに来ているということでしょうね。

竹村:我々はやるべきことをやっていると考えていますが、スイミングクラブでは難しいのかもしれません。水泳、陸トレ、栄養管理、コンディショニングやメンタルトレーニングなど、全てを見るということが。前回井上先生がおっしゃっていた生活指導、選手との対話など、寮に住んでいる選手は特に一緒にいる時間が長いので、我々の考える指導がスイミングクラブよりも適切にできているということでしょう。

井上:それが学校教育、社会体育ということですね。

——それが自然に200人いる部員全員に行き届くというのが伝統ということですね。

竹村:もちろん私だけで指導はできませんが、コーチが5人、顧問が4人いますので、全員に目を配ることができています。

上野:先輩の面倒見がいいというのも豊山の特徴の一つでしょうね。

上野広治日本大学水泳部監督の画像

上野広治日本大学水泳部監督

——まさに前回からおっしゃっている集団の力ですね。

上野:あとは今の豊山には意欲的な選手が多いので、部内にいい雰囲気が流れていますよ。ですから、自ら考える選手も多いですよ。

——手取り足取り教えたあとに選手が自身で考えるようになるということですね。

上野:手取り足取りということはないですね。もちろん全ての面で指導は行き届いていますが、それが毎日のことなので当たり前の日常になるということですね。ですから指導者が教えすぎるということではないのです。今も一緒にトレーニングをしているよね?

竹村:はい。泳ぎませんが、陸上トレーニングはしています。

上野:一緒に体を動かせば、それを見て考えるようになりますからね。寮にいる選手は指導者や先輩の栄養面や休息の取り方も見て学びます。寮の選手の行動は自宅から通っている選手にも伝わる。一度ちゃんと教えて、選手がどう工夫しているかということも我々は見ていますよ。

——教えすぎないということも気をつけているのですね?

竹村:水泳選手に限った話ではないのですが、大学やその先で伸びるのが一番だと考えています。中学、高校にはそれ相応の伸び方やレベルがあり、記録においては大学で花が開くというのが理想なので、選手の伸びしろを考えると、教えすぎることの弊害もないとは言えず、その点は気をつけて指導をしています。

上野:自分で考えるようになると選手自身も楽しくなってきますし、泳ぐ意味がわかってくるんですよ。

——泳ぐ意味とは?

上野:センスだけで泳いでいた選手でも、このような生活を続けているとある日突然「これじゃいけない」と壁にぶつかることがあるのです。さらに実力を伸ばすために今の自分に何が必要か考え、変わり始めるのです。それはトレーニング、生活面の両面に言えることでしょう。

寮生活・今と昔の選手の違い

竹村知洋監督の画像

竹村知洋監督

——先ほどから寮のお話も出ていますが、こちらにはAチームの選手が入られているのでしょうか?

竹村:現在は地方出身のAチームの高校生が入っています。最大で16人がここで生活でき、現在は14人が寮生活を行っています。独身のときには私が生活を共にしていましたが、現在は顧問がここで選手と暮らしています。

——寮生活で特に気をつけていることは?

竹村:一番は食事ですね。栄養面ももちろんですが、育ち盛りの選手たちですから味も量も気を配っています。

——食事はどなたが作られているのでしょう?

竹村:今は業者に頼んでいます。私が選手のときには上野先生がご夫婦で面倒を見てくださって、井上先生の奥様や当時の顧問だった柳澤昌則先生の奥様も食事を作ってくださりました。私が指導者として寮に入ったときは独身でしたので、それからは業者に依頼しています。とにかくおいしいご飯を食べて欲しいということで、今に至っています。

——寮生活が選手に与える良い面はどこにありますか?

竹村:自然とチームワークが高まります。少し前までは先輩後輩の上下関係というのがありましたが、今はいい意味でも悪い意味でもそれが失われ、とても仲がいいですね。それが学校対抗で勝ちたい、リレーで活躍したいという気持ちにつながっていると思います。

上野:私や竹村のいたころから時代は変わりましたが、豊山ではルールがしっかりと保たれ、選手もそれを守っている。もちろん不満はあるでしょうが、将来的には寮生活が一番の財産になるでしょうね。

井上:15歳で親元を離れてくるのは、大学から寮に入るのとは全く違います。選手には素晴らしい思い出になることでしょう。上野は今でも寮の近くに住んでいて、奥様が今でもフォローしてくださっています。そういった皆様が助けてくださるのも豊山水泳部の強みでしょうね。

——部内だけでなく、奥様方など、さまざまな方があっての寮生活なですね。そのサポートを受ける選手は昔と今では何か違いはありますか?

竹村:寮の選手に限った話ではありませんが、今の選手は繊細で気持ちが安定しない子が多いように感じます。

——そういった選手にはどのようなことに気をつけて接しているのでしょうか?

竹村:様子をよく見て声をかけるということですね。寮に限らず、練習中、授業中、廊下ですれ違うときなど、表情やしぐさを含めて観察しています。生徒たちはそれぞれの場面で見せる顔が違います。家庭と学校、先生や友人など、場所や接する人が違えば子どもが見せる表情は異なるものです。こんな一面もあったのだと気づかされることは少なくありません。ですから、繊細な現代っ子に対しては、前回井上先生がおっしゃっていましたが、特にコミュニケーションが大切ということになりますし、私のように選手を親代わりのように預かっていても、子どもの全てを知っていると思い込むことがないよう、気をつけています。

~第3回につづく~