循環器病センター
2023年1月号
日本大学病院 循環器病センターの横山勝章です。
今回は「症状のない」タイプの心房細動についてお話しいたします。心房細動は、全身性血栓塞栓症とりわけ脳卒中の発症による生命予後の悪化や、心不全の発症、動悸症状によるQOLの低下、認知症や筋力低下、フレイル発症の要因となり、積極的な治療介入が必要といわれています。その結果、近年その根治治療であるカテーテルアブレーションを行う施設および症例数は目に見えて増加しております。
アブレーションの適応は症状の有無にかかわらず抗不整脈薬など薬物治療を経ずに推奨され、左室機能低下を合併した心房細動に対しても早期施行の有用性が示されました。
しかしながら無症状の心房細動は、往々にして早期の受診機会を逃し、発見された場合であっても積極的な治療介入がしづらいというケースが散見され、その結果罹患期間の延長から、脳卒中や心不全の発症確率が上がる可能性があります。
COVID-19感染拡大以降、医療施設への受診控えにより、本来治療すべき疾患の診断および治療開始の遅れが懸念されました。
当院における心房細動カテーテルアブレーション症例のうち、COVID-19感染拡大以前(2019年以前)と近年3年間(2020年~現在)を比較したところ、無症候性心房細動症例の占める割合は24%から20%に減少していました。無症候性の心房細動症例の発見の遅れにより心不全の増悪や、抗凝固薬の内服開始を逃し脳血栓塞栓発症の事態になりかねません。
これらの背景から、いかに無症状の心房細動を早期発見し適切な治療につなげるかが今後の課題となると考えております。
無症状の心房細動とは本当に「症状がない」のでしょうか。実際患者さんとお話しするなかで、発症や発見前の日常生活や運動の習慣、趣味の時系列に、わずかな変化が隠れていることがあります。
「ある時期から散歩中に一歩だすのが疲れるようになった、歳のせいと思った」、「疲れたから趣味のハイキングをやめてしまった」「ふらふらするので体操をやめた」など多岐にわたります。実際のところ、これらの自覚はあるものの医療機関にはかかりづらいのが現状といえます。
無症状とされていた心房細動例では電気的除細動やカテーテルアブレーションによって洞調律化された途端に、これまでの心不全症状から解放されたことを実感される例があり、「症状がない」わけではなかったことがいえます。
当院では心房細動の早期発見を目標として、健診センターとの連携 血液検査におけるBNP値測定、7日間長時間ホルター心電図を行います。心房細動の自己検出目的に、自宅血圧測定の習慣づけ、携帯心電計やApple watchに代表される装着型デバイスの使用をお薦めし、外来受診時に確認することで早期発見および治療後のフォローアップにも活用しています。
当院の心房細動カテーテルアブレーション施行症例は80歳以上の高齢者、器質的心疾患や心不全合併例、非心臓疾患併存例が比較的多いのが特徴です。今まで以上に安全な手技を完遂することを目的に、2022年5月より麻酔科専門医による術中全身麻酔管理のカテーテルアブレーションを開始いたしました。日本不整脈学会が行ったアンケート全国204施設のうちその導入は6%に限られており、当院は高リスク症例(高齢者、肥満、呼吸器疾患合併など)に対応する準備を充実しております。
今後ともお気軽にご相談いただけますよう宜しくお願い申し上げます。