知床の少女
らいらっく文学賞受賞作家の近作。高校受験に失敗した亜樹は、浪人中の十五歳。祖父・孝蔵の企みで羅臼に向かう。水産加工会社を経営する元気なお婆さん「さくらばあ」との出会いと、そこに集まる人々との心温まる交流を描いた成長物語。
知床の大自然の描写はもとより、ホッケの開き、アキアジのルイベ、マスのフィレ、水ダコの刺身、イクラのしょうゆ漬など地元特有のレシピの描写は秀逸。
小説の鍵を握るのは鮭である。産卵のためにボロボロになって川を遡上する鮭を目の当たりにした少女は、生命の尊さを知り逞しくなっていく。やがて、都会へともどった亜樹は、「母なる川へ帰ってくる」と心に誓う。少女から女へ―。そのプロセスを真正面から向き合う主人公の一途さには、読み終えた後も清々しい余韻を誘う。生きる希望を失ったすべての若者に贈る渾身の書下し。
書籍名 | 知床の少女 |
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著者名 | 喜多由布子・著 |
月号 | 2008年秋季号 No.117 |
価格 | 1,600円(税別) |
出版社情報 | 東京都文京区音羽2-12-21、講談社 |