アスリートインタビュー

4月、競泳の日本選手権(東京辰巳国際水泳場)の女子200mバタフライに、16年リオ五輪代表の長谷川涼香選手が出場。
力強い泳ぎでレースを制し、2年ぶり2度目の優勝を飾ると共に、7月に行われる世界選手権(韓国・光州)の出場切符を手にした。
不調だった昨シーズンの苦しみを乗り越えてつかんだ復活の勝利。
東京五輪に向けて、自分との戦いはさらに続いていく。
世界選手権の代表に入ることが第一の目標だった日本選手権。長谷川選手は、前日の準決勝で派遣標準記録を0秒28上回る好タイムを出し、全体1位で決勝進出を決めていた。

「準決勝はすごくいい感覚で泳げて、2分7秒2が出た。決勝は6秒台もいけるかなと思っていたので、久々に気合が入ったレースでしたね(笑)」

その言葉通り、決勝も前半から積極的な泳ぎを見せる。序盤こそ3コース・持田早智選手(法学部・2年)、5コース・大橋悠依選手(イトマン東進)に先行を許すも、50mのターン後すぐに先頭に立つと、日本記録を上回るペースでレースを引っ張っていった。

「人生で一番スピードが出ていた」という前半は日本新ペース。最後は準決勝よりタイムを落としたが「いつもタッチ差で負けていたので逃げ切れて良かった」と安堵していた。

「最初の50mが28秒5なので、いつもより速く入っていけました。6秒台を出すには、100mのところで後ろにいては残りで抜けないと思っていたので、それまでに前に出ようと…。レースプランとしては良かったと思います」

150mで日本記録から遅れを取ったが、体半分リードして「ずっと課題にしている」というラスト50mへ。スタミナ強化の練習を積んできた成果を発揮して最後まで粘り切り、大橋選手の猛追を僅差でかわして逃げ切り優勝。2分7秒44のタイムで派遣標準記録を突破し、世界選手権の代表入りも決めた。しかし、優勝者インタビューに答える長谷川選手は「うれしいけれど、タイム的には悔しい。世界で戦うにはまだ足りないと思う」と、素直に喜べないようだった。

「泳いでいる間は自分に集中していて分からなかったけれど、絶対に悠依さんが来るだろうというのは予想通り。レースに勝つことはできましたが、“ラスト50mを上げて来い"ってコーチに言われていたところができなかった。“6秒台を出す"ことを有言実行できなかったというよりも、言われたことができなかったのが一番悔しかったですね」

本学入学直後の昨年の日本選手権(2位)以降、試合では自己ベストから2秒以上遅い8秒台のタイムが続いた。8月のパンパシフィック水泳(東京)、銅メダルを獲得したジャカルタ・アジア大会など日本代表として戦いながらも、精神的には苦しい日々が続いた。

「練習では悪くないのに試合だけがダメで、自分でも何がダメなのか分からない状態。4月から半年ぐらいはずっとそんな感じでした。“星奈津美(200mバタフライ日本記録保持者)さんの後継者"と言われていたことを思い出しては“自分にはなれない"って思いましたし、中途半端にやっていても意味がないと思って練習もしたくないし、試合にも出たくなかった。母には“やめたい"ってことも言いました。でも、代表に選ばれているからにはやるしかないって、7月頃にギリギリなんですけど思い始めました」

スランプ脱出への足がかりは、日頃から練習を見てくれていた飯塚コーチからの提案だった。考え抜いた末、小学生の時まで指導を受けていた父・滋さんに再び指導を仰ぐことを決め、10月から二人三脚でハードな練習に取り組んできた。

「上野先生や母とも相談して、どうなるかを一度やってみるのもいいのではということで、父の元に戻りました。それまで4〜8人で練習していましたが、今はマンツーマンなので、自分のやりたいことができるというのが一番大きい。練習メニューは父が考えますが、これが足りないとか、こうした方がいいよねって2人で話し合いながらやっています」

さらに環境の変化でメンタル面も吹っ切れた。

「去年は試合でタイムが出ないのでずっと落ち込んでいましたが、ある時から実はずっとタイムが安定しているのに気づいて、“これ以上は下がらない、上がるしかない"って、少し前向きな気持ちになりました。練習の種類やきつさは全く違いますが、全力でやるという練習に対しての気持ちは変わりませんでしたね」

そして半年後、ラスト50mを乗り切るスタミナと下半身の強化を図ってきた努力が実を結んだ。

「今回、いいタイムが出たことについてコーチからは、“去年と明らかに泳ぎが違う。練習のタイムがどうこうではなく、ただ単に泳ぎが崩れていただけ"と言われました。体重移動やバタの左右差とかもそうですし、キックを入れ始めたことも、あまり噛み合っていませんでしたが、今回少し合ってきたので、そこは今後にとって大きいと思います」

レース後、憧れの星奈津美さんから「おめでとう。まだまだ頑張って」とメッセージが届き、「うれしかったです」。

自身2度目の出場となる世界選手権は、東京五輪の代表選考にも関わる大会。金メダルを獲れば、オリンピック代表内定となる。

「世界選手権でも納得のいく泳ぎをしたいと思いますが、どちらかと言うと今はメダルより記録ですね。自己ベスト(2分6秒00)を出さなくてもメダルを獲れるなら狙いますが、自己ベストを切らないとまだメダルに手が届かない。まずは2分5秒台を出すことが目標です」

さらに目指すのは、リオ五輪に同じバタフライで出場した星奈津美さんの日本記録(2分04秒69)の更新だ。

「今回もそうですが、毎回私のレースの解説では“100mまでは日本記録ペースでしたが”って言われるので、次は“150mまでは”って言われるようにして、それを少しずつ伸ばしていきたいですね」

もちろん、その先までのイメージもできている。

「今年の試合は、2020年のための試合になる。来年のことを考えながら、この1年でさらに成長して、来年に日本新記録を出せるぐらいの位置までいきたいと思います」

自己ベスト、日本新記録、東京五輪代表、そして表彰台へ。長谷川選手の思い描くストーリーは、いよいよ佳境へ入っていく。

Profile

長谷川 涼香[はせがわ・すずか]
スポーツ科学部2年
2000年生まれ。東京都出身。淑徳巣鴨高校卒。フィットネスクラブ東京ドーム所属。3歳から本格的に水泳に取り組み、ジュニアの様々な大会のバタフライ種目で優勝。2016年、高校2年生でリオ五輪に出場(200mバタフライ9位)。翌年の日本選手権200mバタフライで初優勝し、世界選手権にも出場(200mバタフライ6位)。本学に入学した昨年は日本選手権200mバタフライ2位で、パンパシフィック水泳(東京)の代表に選出されるも200mバタフライ4位。さらにアジア大会(ジャカルタ)で銅メダルを獲得したが、記録は自己ベストに遠く及ばなかった。10月から父・滋さんをコーチに迎え、親子タッグで練習に励む。今年4月の日本選手権200mバタフライで優勝し、7月の世界選手権代表に選出された。