自分のスタイルにこだわり、 ミラノでメダルを。平野 海祝 選手

「トリプコーク1440」で世界の頂点に立った歩夢選手と共に、こだわりのビッグアエアーで世界を驚かせたのが4歳下の弟・海祝選手。8年前のソチ五輪で兄が銀メダルに輝いたその姿を見て、小学6年生の海祝少年は本格的にスノーボードに取り組み始め、ずっと兄の背中を追い続けてきた。最初はとてつもなく遠かったその距離は、弛まぬ努力の積み重ねによってこの1年でぐっと縮まり、2021年4月には初めて全日本の強化メンバーに選出されて海外合宿に参加。兄弟揃っての雪上練習でも、「自分にしかできない挑戦」に黙々と取り組む兄の姿を目に焼き付けた。そして2022年1月、世界最高峰の舞台X Games Aspenで3位となり敬愛する兄と同じ表彰台に立つと、「自分の夢だった」という兄弟での北京2022 冬季五輪出場も決定した。
「いっしょに遠征で海外を周っていた中で、練習にストイックに取り組む姿を間近で見ていて、兄弟ではあるけれど学ぶことがとても多かった。いっしょにスノーボードをやっていたからこそ、自分が五輪に出られるまでに成長できたんだと思います。五輪の決勝の舞台に兄弟で立てたというのは、なかなかできない経験だと思います」

「エアーの高さにこだわっていきたい」。その言葉通り、決勝では予選のルーティンから構成を変え、1本目のファーストヒットから高く飛び上がった。最高到達点7.4mでのトリックは、金メダルを獲った歩夢選手よりも誰よりも高く優雅な舞いであり、全米メディアが「カイシュウ・ヒラノが世界記録を打ち立てた!」とツイートするほどインパクトの強いものだった。2・3本目は転倒して得点を伸ばすことができず9位という結果に終わったが、試合後は自らのSNSで「自分らしい滑りを最後までして、高さでは記録も記憶にもどっちものこせたと思うし、何より自分を表現でき、楽しめたので悔いはないです!!」と納得のコメントを投稿した海祝選手。「4年後も五輪の舞台に立ち、次は兄ちゃんと2人でメダルを獲って、スノーボードをもっと盛り上げたい」と見据えるミラノ・コルティナダンペッツォ五輪で、金メダルを手にするのは果たして兄か、弟か。

平野海祝選手 スペシャルインタビュー

三軒茶屋キャンパス1Fの吹き抜けに、世界新記録7.4mを示す等身大ボードが設置され、その高さを実感できる。

─ ビッグエアーの7.4mが世界新記録だと知ったのはいつですか?
試合会場で7.4m飛んでいたのはわかっていたのですが、それが新記録だとは思っていなくて、宿舎に帰ってきてからネットに載ったメディアの記事を見て知りました(笑)。

─ 誰かに記録を更新されたとしたら、さらに高く飛ぶことはできそうですか?
自分としてはあの高さが限界じゃないかと思っています。あの試合では完璧なハーフパイプで、五輪だからちゃんとワックスマンがいてと条件は整っていたので、他の選手たちもみんな高さが出ていましたけれど、普段のハーフパイプだったら、あそこまでの高さは誰も出せないんじゃないですかね。

─ あれだけの高さを飛ぶと、着地の際の衝撃で体に影響はありませんか?
昔から体がとても強かったんですが、気持ち的にハングリーなところもあったので痛いとか言っていられなかったですね。以前、X Gamesの公開練習でミスして腰を痛めたこともありましたが、五輪の時は自分はきれいな所に着地できていたのであまり影響もありませんでした。それでも決勝の翌日は今まで感じたことのない疲労があって、太もものあたりの筋肉がはちきれそうでした。

─ 技よりも高さを追求するということで、練習も変わってくるんですか?
練習量はちょっと他の選手と違うというのもありますけど、本数を飛ぶというより、どちらかというと根性ですね(笑)。「みんなに見せるぞ」という思いとか、記録を出すのではなく「一番高く飛んでやろう」とか、誰よりも強い心を持つというところであって…。他の選手がやらないこの技に賭けるとなったら、それだけ練習もやらなければいけないので、そういう強い思いで取り組んできましたね。

─ エアでの技(トゥイーク)が、空中で静止しているように見えました。
一番高いところにいくと止まっているように見えますが、エアーは上に飛んでいるように見えて実は横にも飛んでスライドしているので、なかなか降りてこれないんです。しかもあの時は、ただ板をつかむ(グラブ)のではなく、自分の好きなスタイルでバチンと今までで一番いい形をつくれたので、自分としては100点満点の出来でしたね。

─ もっと点数が出てもいいのではと思いましたが?
採点の基準が変わってきている中で、僕のランは1つの技の高さにこだわったものだったので、それが主流だった時代であれば、もう少し点数が出たかもしれませんね。今は回転技の方が点数が伸びる傾向にありますが、年齢に関係なくスノーボードをやっている誰もが好きそうで、シンプルでわかりやすい技だと思うし、スノーボードの歴史を作ってきたレジェンドたちがやってきた技なので、そこは点数が出ないけれどかっこいいものをやりたいという部分でのこだわりですね。

─ 他の選手のランは見ていましたか?
いえ、ほとんど兄のしか見ていなかったです(笑)。今回は全選手のレベルが結構高かったので、誰が勝ってもおかしくない感じでしたから、ちょっとヒヤヒヤしましたね。
 
─ 滑る時に聞いている音楽はどういうジャンルですか?
ヒップホップ系の音楽ですが、派手な感じの曲ではなく、落ち着けるタイプです。あまりアゲ過ぎてしまうと気持ちが空回りしてしまうし、滑る時は根性的なものだけではなく冷静さも必要なので。でも、聴いている時に失敗したら、勝手にその曲のせいにしてしまうこともあります(笑)。

─ プロのスノーボーダーの方々も海祝選手のSNSをフォローして盛り上げてくれています。
はい、日本だけでなく海外からも、レジェンドのような昔から憧れていたライダーの人たちがコメントをくれたりシェアしてくれたりしていて…。自分も認められてきているのかな、近づけているのかなと思うと自信になりますね。そういう選手たちを追い越したという思いもあるし、憧れの選手といっしょに滑ってみたいなという気持ちもあります。
 
─ SNSにレジェンドの1人、ショーン・ホワイト選手とのツーショットをあげていましたね
そうですね。ショーンはやはり憧れの選手なんですが、単にファンだと思われるのが嫌だったので、これまでは写真を撮ってほしいとは言えなかったんです。でも今回、彼の最後の試合で共に戦って、僕の滑りも見てもらったので、終わってから一緒に写真を撮ってもらいました。その時に「あのエアーは凄かったよ」と言ってもらえたのでうれしかったし、ショーンにも他のライダーの人たちにもそう思われているんだとわかって、あの技をやって正解だったなと感じています。
 
ありがとうございました。

Profile

平野 海祝[ひらの・かいしゅう]スポーツ科学部1年
2002年生まれ。新潟県出身。開志国際高卒。12歳頃から本格的にスノーボードに取り組み始め、2017年のJOCジュニアオリンピックカップで優勝、2018年世界ジュニア選手権3位、2020年冬季ユース五輪で銀メダル獲得、2021年全日本ジュニア優勝、全日本選手権3位。2022年のW杯ラークス大会までの成績により北京2022 冬季五輪代表に内定。続いて初参戦したX Games Aspenでは銅メダルを獲得して歩夢選手と共に表彰台に立ち、世界の注目を集めた。北京五輪の決勝で見せた高さ7.4mのビッグエアーで、従来の記録を超える世界新記録として高い評価を受けた。