ラグビー部「ハリケーンズ」新ヘッドコーチ就任 元日本代表・主将 菊谷崇

1990年代から2000年代初頭にかけて屈強なFWを中心としたラグビーで、「ヘラクレス軍団」として恐れられた本学ラグビー部。昨年の大学選手権では3年連続ベスト8入りを果たすなど、かつての輝きを取り戻しつつあるが、創部100周年まであと6年となった今シーズン、さらなる飛躍を果たすため、元日本代表キャプテンの菊谷崇氏を新たなヘッドコーチとして招聘。国内外のトップチームで活躍し、日本代表キャップ数68を誇る菊谷氏は、スポーツアカデミー事業を展開する実業家(株式会社Bring Up Athletic Society代表取締役)でもあるが、ラグビーに対する情熱は現役時代と変わらず、中野克己監督とのタッグにより、ヘラクレス軍団の改革に挑む。
2022年2月24日(木)、多くの報道関係者が詰めかけた就任会見を終えた菊谷新ヘッドコーチに、チームへの思いと今後の展望を聞いた。
大きな注目が集まった会見には、新ヘッドコーチ就任が決まった菊谷崇氏のほか、本学ラグビー部の平山聡司部長と中野克己監督が同席。冒頭の挨拶では、平山部長から報道各社への謝辞と「新ヘッドコーチとともに日本大学ラグビー部『ハリケーンズ』の新しい時代を切り拓いていきたい」と決意が述べられた。続いて中野監督からは「ここ3年間は大学選手権のベスト8まで進出できましたが、もう一段高いステージへということで菊谷さんにヘッドコーチをお願いすることになりました。こうして就任していただけることを我々としても非常に喜ばしく思っております」と躍進への思いを口にした。
「この会見が新たなスタートになる」と口にした平山聡司部長。

「この会見が新たなスタートになる」と口にした平山聡司部長。

「基本的に現場の指揮はヘッドコーチに任せたい」と菊谷氏に信頼を寄せる中野克己監督。

「基本的に現場の指揮はヘッドコーチに任せたい」と菊谷氏に信頼を寄せる中野克己監督。

最後に菊谷新ヘッドコーチから就任にあたっての心境、抱負が語られた。
「日本大学の卒業生ではない私に、このような機会を与えていただいた大学関係者の方々に本当に感謝しています。近年、ラグビー部は非常に良い結果を残していますが、私が入ることによって成績を伸ばすことはもちろん、選手たちとしっかりコミュニケーションをとって、彼らが主体的に行動できる環境づくりをしていきたいと思っています。また、大学生活は社会人になるためのステップでもあるので、そうした意識の面についても社会人の先輩としてサポートしていきたいと考えています」

取材陣からの質疑応答で、菊谷氏をヘッドコーチに招聘した理由について問われた中野監督は、「彼の現役時代のキャリアとアカデミーで取り組んできたコーチングの実績、これらを評価していました。また、これからスタッフと選手が一体となって取り組むうえで、先ほど本人からの挨拶でもあった通り、主体性に重きを置くという指導方針が、さらなる飛躍につながっていくのではないかと考えました」と説明。記者から「チームに何をもたらすことができるのか」という質問を受けた菊谷HCは「コーチが一方的に『やれ』と指導するのではなく、選手が主体的に『こうしたらどうだろうか』と発言できるような空気を入れていきたい」と指導者と選手の新たな関係性を構築する方針を明かした。
大阪体育大学出身の菊谷HC。「他大学出身ですが、早くここがホームだと言えるようにしていきたいです」

大阪体育大学出身の菊谷HC。「他大学出身ですが、早くここがホームだと言えるようにしていきたいです」

会社の代表取締役を務め多忙を極めていることもあり、今回の話に対して迷いはなかったのかと質問されると、「迷いはありましたが、中野監督とお話させていただいて、ラグビー部の方向性がアカデミーの知識を活かす場として最適なのではないか」と感じたと語り、さらに「リーグワンのチームが社会貢献活動にもフォーカスし始めているように、学生も社会に出る前にそうした意識を持つことが必要だと感じています。アカデミーで培ってきたノウハウを活かし、地域との交流イベントを行うなどのサポートもできれば」と学生スポーツのこれからの可能性を感じ、決断に至ったという。

これまで練習量の多さが特長と言われてきた本学ラグビー部。昨年の練習スケジュールに目を通したという菊谷HCは「練習する日と休む日のメリハリをつけようと思っています」と話しつつも、強豪校に勝つためには他大学よりも厳しい練習が必要になると説いた。「練習の厳しさというのは、ただやみくもに走り込みをさせる昔のスポ魂のようなものではなく、一つひとつの練習について選手全員が理解を深め、質を追求するということです」と話し、ここで突如、会場に居合わせた選手2名に対し、「この話を受けてどう思いますか?」と投げかけた。
「頑張りたいと思います」「新しい日大で前向きにまた頑張っていきたいと思います」との言葉を受けた菊谷HC。「この『頑張っていきたい』という部分を一緒に具体化させていくのが私の仕事。何をどう頑張るのか、そこを引き出し、彼らがもっと具体的に答えられるようになることがイメージしている選手の成長です」とチームの理想の未来像を提示する言葉を残し、会見を締めくくった。

左から平山部長、菊谷HC、中野監督。

左から平山部長、菊谷HC、中野監督。

─ 注目が集まった記者会見でしたが、終えられていかがでしょうか?
想像以上に多くの方に足を運んでいただいたので本当にありがたいなという気持ちと、皆さんの期待に応えたいということを強く思いました。

─ 就任に際して悩みもあったということでしたが?
幸運なことに選手引退後はリーグワンのチームや大学など、各所からオファーをいただいておりましたが、会社経営も継続していく中で、どれだけチームにコミットできるかという部分で不安があり、全てお断りするスタンスでいました。しかし、日本大学は私が手掛けている事業への理解が深く、共存の方向性を模索できると感じ、今回の決断に至りました。

─ 中野監督の印象については?
日本大学のOBではない私を快く受け入れてくれたので、とても懐の深い方だなと思いました。外部からも積極的に人を取り入れようとするのは、先を見据えている人しかできないことなので、そうした方のもとでヘッドコーチとして携われるのは幸せだと思います。

─ 今後アカデミーのスタッフが指導にあたる予定は?
スタッフには他の事業も任せているので常駐というわけにはいきませんが、スポット的に来てもらうことは考えられます。実際に足を運んでもらわなくても、私からスタッフへチーム作りをするうえでのアドバイスを求めたり、キャリアサポートであったり、さまざまな面での協力ができるはずです。

─ 選手の主体性に重きを置く理由は?
ラグビーの試合は80分間、指導者がグラウンドに立てないスポーツなので、選手たち自身の状況判断が求められます。そうした判断能力の礎として、主体性は重要になると考えています。

─ 主体性を伸ばすために、どのような取り組みが必要でしょうか?
選手たちからの提案を奨励しますが、初めのうちはそのやり方もわからず、反発や愚痴といった形で表れるかもしれません。そうした時に私が頭ごなしに否定するのではなく、問いかけをし、対話を重ねていくことで主体的な姿勢が形成されていくと思います。

─ 目指す指導者像はありますか?
私が選手時代に「自分が経験してきたことしか教えない」というタイプの指導者がいて、そうした人にはなりたくないなと思い、指導の勉強を始めました。どうしても自分の経験則に従ってレールを敷き、そのレールに沿って指導してしまうし、それが正解だと思いこんでしまう部分はあります。しかし、例えば生まれた時からスマホを手にしていた子どもに対して、ガラケーの使い方を教えても役に立ちませんよね。指導をするうえで大切なのは、選手が何をイメージしていてどう行動したいのかをまず聞き出すこと。そして、指導者自身も選手との関わりの中で学び、成長し続けるということだと思います。

─ 指導のモットーとして「FUN(楽しい)」を掲げているかと思います。
楽しむ環境づくりが私の得意なことだと思っていますし、たとえ厳しい練習メニューだったとしても、それを楽しむ空気感があれば乗り越えられます。また、練習メニューの目的を明示し、納得感を持ってもらうこともチームの良い雰囲気を醸成するために必要です。

─ 日本代表時代、どのようなタイプのキャプテンでしたか?
日本代表というのは選手それぞれの年齢やバックボーンが異なる、言ってしまえば期間限定の寄せ集めの集団です。その環境を全員が居心地悪く感じてしまっていては、プレーにも影響が出てしまいます。そうした中で、私の役割は全員がプレーしやすい環境づくりだと考えていたので、そこにフォーカスしてプレー面に限らず、生活面でもコミュニケーションをとるように心掛けました。例えば、帰化選手だけで固まってご飯を食べないように働きかけてチームメイト間の交流を促してみるなど、些細な点にも気を配りました。

─ キャプテンに必要な資質は何でしょうか?
試合に負けた時やチームメイトが何か悪いことをした時、キャプテンはその責任を問われることが多いので、ラグビーが好きじゃないと務まりません。その役割に手を挙げてくれる選手というのは貴重な存在だと思うので、新チームではキャプテン、副キャプテンだけではなく、5人のリーダーグループを作ってその重圧を緩和したいと考えています。

─ チームの現在地をどう見ていますか?
部員約130人に対してスタッフ6人の体制で、大学選手権ベスト8という結果は十分に健闘していると言えます。帝京大学や明治大学、早稲田大学といった強豪校はスタッフを20名近く抱えています。しかし、スタッフの拡充はすぐに解決できる問題ではないので、まずはやはり選手それぞれが主体性を持って、日々の練習の質を高めていくことでカバーできればと考えています。

─ 目標については?
もちろんプロコーチとしてリーグ戦、大学選手権優勝は目指すべきところではありますが、選手それぞれが「何のためにラグビーをするのか」という意義的な目標を大切にしてほしいと思っています。支えてくれた家族のためかもしれないですし、チームメイトのためかもしれない。「勝つぞ、練習するぞ」と言うのは簡単ですが、何のためにというのは意外と難しいもので、目的意識を深く考えた経験は社会に出た時にも武器になると思います。

─ プレースタイルについてはどのような印象がありますか?
パワー系の印象でモールがとても強いです。しかし、ラインアウトからの展開のバリエーションが少なく感じていたので、スタッフにその理由を聞いたところ、「ミスをしてはいけないという前提で、確率の高いオプションしか選択していなかった」とのことでした。選択肢を増やすためにいろいろ教えられる部分もありますが、まずはミスを恐れずラグビーを楽しむという根本的なところが大切だと感じましたね。

─ BKはどうでしょう?
フレイザー選手や髙野選手が抜けてしまいましたが、水間選手、普久原選手、饒平名選手など下級生のうちから主力として活躍してきた選手が残っています。レギュラークラスはある程度固定されていると思いますが、そこを脅かす選手が台頭すればうれしいです。

─ キーマンになるのは誰でしょうか?
サモア出身でFWのマレコ選手です。これまで出場機会は少なかったようですが、インパクトプレーヤーとして期待しています。

─ 最後に改めて抱負をお願いします。
最低でも現状維持ですかね(笑)。そして、リーグ戦、大学選手権で優勝を目指すのはもちろんですが、簡単なことではないですし、初めてのヘッドコーチなので日々私自身もチャレンジしていきたいと思っています。

─ ありがとうございました。応援しています。

Profile

菊谷 崇[きくたに・たかし]
1980年生まれ。奈良県出身。選手時代のポジションはNO.8・FL。御所工業(現・御所実業)高校、大阪体育大学を経て、2002年にトヨタ自動車ヴェルブリッツ入り。2005年7人制の日本代表としてW杯出場。同年、15人制の代表にも選出されると2008年からはキャプテンを務め、2011年にW杯出場も果たした(日本代表キャップ数68)。その後、イングランドプレミアシップのサラセンズでもプレーし、2014年キヤノンイーグルスに移籍。2018年の引退後はスポーツアカデミーを運営する株式会社Bring Up Athletic Societyを起ち上げ代表取締役に。指導者として高校日本代表、U20日本代表コーチなども歴任。2022年3月1日付けで本学ラグビー部のヘッドコーチに就任した。