第98回日本学生選手権水泳競技大会 競泳競技
池江璃花子、最後のインカレへ

思い返せば、激動の4年間だった。ずっと泳いでみたかったインカレは、自分が思った通りの場所だった。
 
池江璃花子選手(スポーツ科・4年)は、4年という歳月をかけてそれを実感した。仲間と共に高みを目指す喜びと、仲間と共に分かち合う悔しさ。その全てが心地よかった。
 
これからも水泳という世界で生きる池江選手にとって、かけがえのない宝物となったインカレを振り返る、第1回。

チームで戦うことこそが池江選手の原点

「人生の中で、水泳ができる時間なんてほんのひと握りしかない。チームのために頑張ったこのインカレは、その水泳人生の中で大きな思い出に残る大会になりました」
 
インカレ最終日、自身最後のレースとなった女子4×200mリレーを終えたあと、報道陣からの質問に対して池江璃花子選手は、ゆっくりと言葉を噛みしめるようにそう応えた。

4×200mリレーでは逆転で銅メダルを獲得した。左から古井丸日菜(スポーツ科・2年)、黒部和花(法・1年)、池江璃花子、小堀倭加(スポーツ科・4年)

4×200mリレーでは逆転で銅メダルを獲得した。左から古井丸日菜(スポーツ科・2年)、黒部和花(法・1年)、池江璃花子、小堀倭加(スポーツ科・4年)

4×200mリレーでは逆転で銅メダルを獲得した。左から古井丸日菜(スポーツ科・2年)、黒部和花(法・1年)、池江璃花子、小堀倭加(スポーツ科・4年)

4×200mリレーでは逆転で銅メダルを獲得した。左から古井丸日菜(スポーツ科・2年)、黒部和花(法・1年)、池江璃花子、小堀倭加(スポーツ科・4年)

もともとチームで戦うことが大好きだった池江選手には高校時代、こんなエピソードがある。
 
とある大会で自分のレースが終わった直後、インタビューをしようと詰めかけた報道陣に向かって「チームの応援をしたいので、取材はちょっと待っててもらえますか?」と言い、レース用の水着のまま、ジャージを羽織りスタンドのチーム席に戻り、大声でチームメートたちを応援していたのだ。
 
皆で楽しく、わいわい盛り上がるのが大好きだった。それが、自分自身への力にもなっていた。インターハイに出場した時も、個人種目2種目にリレー3種目とフル稼働。それでも疲れた顔など一切見せず、淑徳巣鴨高校のチームメートたちと全力を尽くし、全力で応援し、応援される池江選手の姿があった。

チームで盛り上がるのが好きな池江選手。今大会も全力でチームメートを応援する

チームで盛り上がるのが好きな池江選手。今大会も全力でチームメートを応援する

チームで盛り上がるのが好きな池江選手。今大会も全力でチームメートを応援する

チームで盛り上がるのが好きな池江選手。今大会も全力でチームメートを応援する

国内の大会だけではなく、国際大会でもそうだった。日本代表というチームの中で、世界を相手取って皆で立ち向かう。一人だと緊張する場面も、チームのみんながいれば笑顔でいることができた。個人種目で結果が残せなかった時よりも、リレーで結果が残せなかった時のほうが悔しかった。
 
そうやって“チーム”で育ってきた池江選手だったからこそ、インカレは絶対に出たい大会の一つだったのだ。
 
それもそのはず。インカレは日本国内の競泳大会の中で、最も盛り上がる大会だと言われている。さらに『水の覇者・日大』として向かうインカレは、特別な思いを抱かずにはいられなかったのだ。

大病からの復帰の後押しをしたチーム日大の存在

1年時は白血病の治療中だったが、本人の強い希望で病院の許可を得てインカレに駆け付けた

1年生の時は、急性白血病の治療中だったため出場は叶わなかったが、主治医の指示を仰ぎながら、会場に足を運ぶことができた。そして目にしたのは、2007年の第83回大会以来となる、実に12年ぶりに男子が総合優勝を果たした瞬間であった。
 
天皇杯を手にし、涙し、全身で喜びを表す男子のチームメートたち。最後の集合写真に加わることができた池江選手は、そんな記念すべき日に水泳の会場にいられたことが幸せだった。だが、それと同時に悔しさもこみ上げてきた。

12年ぶりに男子総合優勝を果たしたチームメートたちと

12年ぶりに男子総合優勝を果たしたチームメートたちと

12年ぶりに男子総合優勝を果たしたチームメートたちと

12年ぶりに男子総合優勝を果たしたチームメートたちと

『今の自分はただの傍観者。来年は絶対に、選手としてこの舞台に立つんだ』
 
大病から復帰へと向かう池江選手を後押ししたことの一つには、確かにこのインカレへの思いがあった。
 
そして2年生になり、念願の出場が叶った。新型コロナウイルス感染症という大きな壁にも負けることなく、池江選手は1年前に誓った通り、選手としてインカレの舞台に立ったのである。

初めて選手として参加するインカレの1レース目はさすがに緊張したという

選手として、チーム日大として出場する初めてのインカレ。「泳ぐ前から、いろんな感情が沸き起こりました」
 
女子50m自由形の予選を6位で通過し、決勝はタイムも順位も上げて4位でフィニッシュ。メダルまでは100分の4秒だっただけに悔しさは残るレースだったが、それよりも戦いの場に戻って来られたこと、そして念願のインカレに日大のチームの一員として参加できたことの喜びが上回った。

「1点でも多く取って、チームに貢献したいと思っていました。昨年は応援だけでした。でも今年は選手として泳げたことがとてもうれしいです。4位という結果は少し悔しいですけど、今の私の状況を見れば上出来だと思います。それに、100分の4秒でメダルを逃した悔しさでモチベーションが上がりました」

急性白血病から復帰したばかりで、公式戦は2戦目だった池江選手。1戦目は泳げるだけで満足、2戦目のインカレはチームの一員として出られるだけで満足。だが、そこにこのインカレで味わった“悔しさ”というスパイスが加わったことで、この後に池江選手がアスリートとしての純度を高めるスピードを速めたことは間違いなかった。

Profile

池江 璃花子[いけえ・りかこ]スポーツ科学部4年
2000年生まれ。東京都出身。淑徳巣鴨高卒。ルネサンス所属。高校1年生でリオ五輪に出場し、100mバタフライで5位入賞。高校3年時にはアジア競技大会で6冠を達成し大会MVP。2019年2月に急性白血病であることを公表し治療に専念。2020年から復帰し、2021年4月の日本選手権で50m、100mの自由形とバタフライの4種目を制覇、東京五輪への代表権を獲得。2019年に本学進学後、2年生の時に初めてインカレに出場。3年生で50m自由形優勝、4×100m、4×200mリレーで優勝。最終学年は50m、100m自由形で個人種目2冠を果たした。50m、100m、200m自由形と50m、100mバタフライの現日本記録保持者。