イスラエル・パレスチナ問題にどう向き合えばよいですか?

危機管理学部 小谷 賢 教授

研究
2023年12月22日

イスラエルとパレスチナの紛争をめぐり、ガザ地区の惨状を伝えるニュースや映像があふれています。私たち日本人はそれらの報道に対してどのような視点を持ち、向き合えばよいのでしょうか。

Q イスラエル・パレスチナ問題を捉えるための視点とは?

日本は法を遵守する国ですから、国際法の重視が軸になります。その点で懸念されるのは、パレスチナ寄りの感情論になりがちな日本のマスコミ報道です。今回の発端は最初にパレスチナ・ガザ地区を実効支配する「ハマス」がイスラエルを攻撃したこと。それに対しイスラエルが自衛権行使として民間施設を攻撃し、その過程で多くの民間人の犠牲者を出していますが、それもやはり国際法で認める範囲を逸脱しています。あくまでも双方が国際法を逸脱しているという事実を客観的に認めることが大切でしょう。

私たちがパレスチナ問題を肌感覚で理解しにくいのは、紛争の根底にある宗教の問題です。イスラエルもパレスチナも人々は非常に強固な宗教観を持って暮らし、戦い、他宗教は殲滅してもかまわないという一神教の教義のもとで現実的な政治や外交が動いている。一方、日本人はあまり宗教に左右されないからこそ、国際法遵守の客観的な見方ができると思います。

Q 私たちの生活に与える影響は?

危機管理学部 小谷 賢 教授

危機管理学部 小谷 賢 教授

1973年の第四次中東戦争ではオイルショックが起こり、石油価格が高騰してトイレットペーパー不足で全国的にパニックが発生しました。原油の一大生産地である中東で何かあれば、必ず日本人の生活に影響を与えます。ですが経済的な視点だけに偏ると、宗教や安全保障といった世界情勢の本質が見えにくくなりがちです。

今後、最も危惧されるのはイランとアメリカの介入によって、中東諸国を巻き込むような戦争の拡大です。一方でアジアに目を転じれば台湾問題があり、中国の侵攻が現実となれば私たちにとって対岸の火事どころではありません。自分のことは自分で守らなければならないという根本原則に戻らざるを得ない世界的な緊張の中で、日本人も意識を変え、経済だけではなく国際法や安全保障の問題に関心を持つべきなのです。

Q 世界情勢を客観的に見るためにはどうすべきですか?

スマートフォンで分からないことでもすぐに答えを出せる行為に慣れすぎず、本を読んで思考力を養うことが大事ではないでしょうか。また、客観的な情報を得るために英語のニュースを読める語学スキルも必要です。さらに、世界とつながるサイバー空間では、セキュリティや情報の真偽を見抜くネットリテラシーを身に付けることも大事です。

身近なところで、まずは定期的にパスワードを変える。日本語のニュースも特定の媒体に偏らず情報を収集する。そして、日本人の心情にありがちな忖度やしがらみにとらわれずものごとを見るよう心掛ける。インターネット上に踊る扇情的な見出しに惑わされることなく、ニュースの背景や諸外国の対応など必要な情報を自ら得て、一歩踏み込んで考える習慣をつけましょう。

イスラエル・パレスチナ問題
19世紀以来のユダヤ人迫害の中、故郷であるパレスチナにユダヤ人国家を建設しようとヨーロッパで起きたシオニズム運動を行っていたユダヤ人と、1000年以上パレスチナの地に住み続けていたアラブ人が2000年近くにわたり対立している問題。パレスチナは広さ約6,020平方ロメートルで約550万人が暮らす。そのうちガザ地区は約365平方キロメートルで約222万人が暮らしている。(2023年、パレスチナ中央統計局)

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危機管理学部
小谷 賢(こたに けん) 教授

平成8年立命館大国際関係学部卒。英ロンドン大大学院修士課程修了。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。
16年防衛省防衛研究所教官。20年10月から1年間、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)客員研究員。防衛大学校講師などを経て28年から現職。早稲田大、青山学院大などで非常勤講師を歴任。令和4年より参議院事務局客員調査員。京都府出身。