【研究者紹介】
コロナ後のインバウンド観光

国際関係学部 国際総合政策学科 宍戸 学 教授

研究
2024年01月29日

増加する外国人観光客の期待に応えることは
日本人の生活を豊かにすることにもつながる

街中で大きなスーツケースを引いて歩く外国人の姿を見かけることが珍しくなくなった。一方で観光地の交通機関混雑などオーバーツーリズムの弊害も。インバウンドは私たちの生活にどのような変化をもたらすのか、宍戸学教授に聞いた。

コロナ禍前後の変化

国際関係学部 国際総合政策学科 宍戸 学 教授

国際関係学部 国際総合政策学科 宍戸 学 教授

2019年に日本を訪れた外国人観光客は約3200万人だったが、コロナ禍の21年には21万人までに激減。今年になって一気に回復し、政府観光局の統計によると10月の訪日外国客数は19年同月比を超え、年末には2000万人を超える見込みに。この数字は17年とほぼ同数だが消費額は過去最高であった19年の4.8兆円を超えて5兆円に迫る勢いで、インバウンドは“ 見えざる輸出” になっている。背景にあるのは、円安・物価上昇の影響もさることながら、平均泊数の伸びと一人当たりの旅行消費額単価の増加である。米国やドイツ、オーストラリアといった欧米諸国からの観光客が10月の過去最高を更新。長期滞在客が多くなった。

こうしたインバウンド観光の質の変化を受け、政府も観光立国推進基本計画(第4次)で、人数に依存しない質の向上を強調している。高付加価値な観光プランを提供できる環境整備が急がれる中、地方においても海外経験を生かして高度な語学力と異文化を理解したサービスを提供するユニークなインバウンドプレーヤーも現れつつあり、魅力的な観光資源を持ちつつも過疎や高齢化が進む地方の起爆剤として期待されている。

課題は日本人自身の問題

インバウンドの増加に伴い問題とされるのがオーバーツーリズムだ。また、コロナ禍から回復すると、観光産業界に限らず人手不足問題が顕在化している。海外の観光先進国から学び、日本でも宿泊施設の無人化やキャッシュレス化を図るDX化が急務だ。

懸念されるのは、回復の鈍い日本人のアウトバウンド、とりわけ若者の海外旅行離れには警鐘を鳴らしたい。日本の観光人材の育成だけでなく、グローバル人材育成のためにも若者には海外で異文化交流や日本と異なる産業システムに触れてほしいと願う。モノ消費からコト消費へ、都市も地方も観光的な潜在力がある日本は、世界からの観光客を引き付けている。インバウンド需要は、少子高齢化の進む日本経済に大きく貢献できるだろう。

外国人観光客の多様なニーズに対応することができれば、必然的に日本人の余暇の過ごし方も変わってくるだろう。インバウンドへの対応は、日本の観光や各種産業をグローバル化させる千載一遇のチャンスだと考えている。

国際関係学部 国際総合政策学科
宍戸 学(ししど・まなぶ)教授

昭和62年立教大社会学部観光学科卒。平成15年同大学院観光学研究科博士課程前期課程修了。札幌国際大、横浜商科大を経て30年から現職。専門は観光・ホスピタリティ教育。国・自治体、企業等との連携や学会を通して研究・教育・事業に取り組む。
日本国際観光学会理事。日本学生観光連盟顧問。埼玉県出身。