2024年1月2日・3日に開催される第100回箱根駅伝に、4年ぶり90回目の出場となる日本大学陸上競技部特別長距離部門。本選まで2週間余となった12月16日(土)に日本大学文理学部キャンパスで共同取材を行い、新雅弘監督と選手たちがその意気込みを語った。

 

 

14時から始まった共同取材には、新監督と共に、11日(月)のチームエントリーで登録された15選手が登壇(シャドラック・キップケメイ選手は欠席)。
冒頭、新監督は「監督就任から5ヵ月という短い期間で、選手たちが目いっぱい努力し、節制して力強い走りをしてくれたことが予選会の好結果になったと思う。箱根駅伝は私も選手たちも初めての体験となるが、この勢いをもってしっかり襷をつないでいきたい」と挨拶。
さらに、下尾悠真主将(文理・4年)が「一本の襷を最後までつなげるという目標を達成できるよう、チーム一丸となって頑張っていきたいと思います」と決意を示し、続いてマイクを握った選手たちも本選へ臨む思いを力強く語った。


 

主将・下尾悠真(文理・4年)
「最初で最後の箱根駅伝。4年分の思いを襷に込めて、これまで応援してくださった方々に感謝の気持ちを伝えるような走りをしたいと思っています」

副主将・西村翔太(文理・4年)
「この1年、副主将としてエースとしてチームを引っ張ってきました。他大学の主力選手たちに負けない走りをして、チームに貢献したいと思います」

久保昇陽(法・4年)
「4年間の集大成として、今までやってきたことを信じ、最初で最後の箱根駅伝を楽しみたいと思います」

土井拓実(商・4年)
「チームのため、自分のために、後悔のないように全力で走り抜きたい思います」

山中泰地(法・4年)
「今まで応援してくれた人たち、支えてくれた人たちに結果で恩返しができるよう、最後まで諦めずに走りたいと思います」

安藤風羽(文理・3年)
「“好きを全力で楽しむ”ということをモットーとしているので、レース後に“楽しかった”と胸を張って言えるように、全力を尽くして走りたいと思います」

大橋 優(法・3年)
「駅伝を含め大きな大会は初めてなので、これまで練習してきたことを最大に発揮できるよう頑張ります」

大仲竜平(スポーツ科・2年)
「自分の力を最大限発揮できるよう残りの期間を大切にして、チームに貢献するために頑張ります」

鈴木孔士(法・2年)
「今まで支えてもらった両親や大学の友達、日大OBの方々に恩返しができるような走りをして、レースを全力で楽しみたいと思います」

冨田悠晟(法・2年)
「力強い走りをして、チームに貢献できるよう頑張ります」

中澤星音(経済・2年)
「初めての箱根駅伝ですが、感謝の気持ちを忘れず、チームに貢献できるよう頑張ります」

山口月暉(法・2年)
「チームに貢献できるように、自信を持って箱根路を駆け抜けたいと思います」

天野啓太(文理・1年)
「チームに貢献できるよう精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いします」

片桐禅太(法・1年)
「今まで支えてくださった方に恩返しができるよう、粘り強く走っていきたいと思います」

山口聡太(文理・1年)
「チームに貢献する走りをできるように頑張りたいと思います」

「箱根路を、伸び伸びと、楽しく走ってほしい」

フォトセッションの後には新監督と選手の個別取材が行われた。メディアからは、5月以降、チームや個人がどう変わったかという質問が相次ぎ、選手たちは緊張の面持ちで答えていたが、いずれもその言葉の端々から、この7カ月間で培われた自信があふれているように感じられた。

下尾悠真主将(文理・4年)

 

「4年生6人全員でチームを引っ張っていこうという気持ちで、この1年やってきました」と胸を張った下尾主将。新監督の就任で変わった点を問われると、「練習量が昨年の倍くらいになりました」と答え、4年間で一番辛かったことも「今年の夏合宿ですね。走行距離が全員倍くらいになりました」と話し笑いを誘った。
入部後は苦しい日々が続いたが、2年生の時に指導を仰いだ故・小川聡監督に掛けられた「お前がこれから中心になってやっていけ」という言葉を糧として頑張ってきたという。今の心境は「ずっと目標にしてきた舞台なので楽しみだなというのが一番」と言い、「しんどい練習を積み重ねてきたので、結果にもこだわりたい」。そして「チームの流れを作るという意味でも、自分のスピードを生かせる区間でチームを勢いづけられるような走りをしたい。きっと小川さんも空から見てくれていると思うので、本当に強くなったぞという姿を見せたいです」と力を込めた。

副主将の西村翔太選手(文理・4年)

副主将の西村翔太選手(文理・4年)は、前回99回大会で関東学生連合のエントリーメンバーに選出されたものの、1区を走る他大学の選手のサポート役としてその役目を終え、「メンバーに選ばれたことはとても光栄でしたが、そのぶん走れなかった悔しさは大きかった」。しかし、「箱根駅伝の現場に身を置くことができ、出走する選手と話をしたり聞いたりする機会もあったので、そこで得たことを意識して練習してきました。ほかのメンバーよりは、プレッシャーも少なく当日を迎えることができるかなと思っています」。
スタミナ面の強化を課題として取り組んでいたが、新監督の就任により「今までとは比べ物にならないぐらい距離を積んできた」と笑う。実際に11月の記録会では10000mの自己ベストを更新し、「自分の思っている以上に走力がついている。やってきたことは間違ってなかった」と感じると共に、「ほかのメンバーも結果が出ているので、チームとしても今はすごい勢いがあると思います」。さらに本選では「今持っている最大限の力を発揮することが重要」と話し、「体調管理や細かいミスがないように、チーム全員が高い意識を持って真剣に取り組んでいきたい」と表情を引き締めた。

久保昇陽選手(法・4年)

「この3年間は、補助員として正月を迎えることが多かった」という久保昇陽選手(法・4年)。「見る側から走る側に立場が変わり、どういう準備をして挑めばいいのか、チーム全員で探り探りの状態」と言うが、「気負うものもないですし、思い切って走るだけです」と前を向く。新監督には「生活面での規律を徹底的に教えていただいた」と言い、「レースに落ち着いた気持ちで臨めるようになったのは、毎日同じことを積み重ねていくという生活面での心の持ち方から来てるんじゃないかなと思っています」。
そんな久保選手も2年生の冬には、環境の変化や同期の退部などがあって心が折れそうになったという。だが、相談に乗ってもらった高校時代の恩師の言葉に勇気をもらい、「結果ではなく、最後までやりきることが恩返しになる」と考え直した。小さい頃から目標としていた箱根駅伝出場という夢を捨てることができず、「そのモチベーションで乗り越えることができた」と笑う。そして、苦しい時を支えてくれた家族に「これまでやってきたことをすべてを出して、成長した姿を見せられるように走りたい」と力を込めて話した。

山中泰地選手(法・4年)

10月の予選会は「故障のため間に合わなかった」とメンバー外だった山中泰地選手(法・4年)は、急ピッチで調整して臨んだ11月の記録会で好タイムを出し、エントリーメンバーに名前を連ねた。「自分でやれることはやったと思っていたので、メンバー入りできて良かった」と話し、「粘り強く走るという自分の特長が、コース最後のアップダウンで生きると思う」と、「山を下って来た選手の勢いを後続に引き継ぐ大事な区間」だと考える7区での出走を希望する。「まだわかりませんが、自分の体を万全な状態にして、あとは待つだけです」
この7カ月で「練習に対しての能力が向上し、長い距離への耐性がついた」と実感しているが、「それよりも陸上競技に対する姿勢の変化が一番大きかった」と振り返る。「新監督は陸上に対して熱い思いを持っていらして、それを言葉にして伝えてくださったり、選手一人一人を見てくださるので、選手としても熱い気持ちを持って取り組むことができている。駅伝に対する思いがすごく高まり、気持ちの面で良い方向に変わっていったなと思います」
そして山中選手は静かな口調で闘志を燃やす。「皆んなで一緒に頑張れる最後の大会なので、4年生6人で協力して、箱根駅伝に向けてしっかりチームを引っ張っていきたい」

鈴木孔士選手(法・2年)

小学6年生の時、テレビで箱根の山を快走するランナーの姿を見て、「自分も“山の神”になりたいと思った」という鈴木孔士選手(法・2年)。1年生の頃は「全然走れていなかった」と言い、「いつかは山を走りたいけれど、まだ雲の上の存在のような意識があって、自分の行動に反映できておらず、ただ目標を語るだけだったかなと思います」。転機は2年生になる前のこと。あるOBから「予選会は走るんじゃなくて、戦うんだ」と、いろいろアドバイスもらったところから「戦って勝つ」というイメージで練習に取り組むようになり、そこから記録も伸びてきた。
「上りが得意」ということで5区での出走を希望している鈴木選手。「レース展開や駆け引きなどを実際に肌で感じながら、他大学との力の差などを知ることで、来年以降さらにレベルアップできるようにしていきたい」と、この先を見据えた言葉を口にし、最終エントリーで「夢を実現させることができたらいいなと思います」と笑った。

新雅弘監督

就任当初のチーム状況や指導の仕方など、メディアからの質問にいつも通りのやわらかな表情で答えていた新監督。「一番成長した選手は?」という問いには「部員全員ですよ」と即答。「彼らは成人ですから、私はヒントを与えてあとは自分たちで考えて行動してほしい。潜在的な力はあったけれど、それを結局引き出せていなかっただけなので、自分で考えて走る、考えて生活するようになったことで伸びたんだと思います。練習はそんなに変わったことをしているわけではありません」
さらに「箱根駅伝が実際どんなものか、私も選手もわからない。目標タイムを設定しても、コンディションや競り合いがあったりなどで思うようにはいかないので、とにかく悔いが残らないような走りをしてほしい」と話す新監督。「強豪校とは違って、私たちにとってはこれが最初の一歩。来年さらに進化していくために、私も選手もお互い勉強して次を目指していきたい。だから私もプレッシャーはないし、選手たちには伸び伸びと楽しく走ってほしい。楽しんで走って、その経験を来年につなげてほしいと思っています」と期待を語った。

「100回大会を走れるのは君たちしかいない」

「学生さんと雑談している時のやわらかい雰囲気が印象的でした」と新監督について語るのは、本学OBであり、2年次と4年次の2度、箱根路の9区を走った経験を持つ俳優の和田正人氏。後輩たちを激励するため取材会場を訪れ、新監督とはこの日が初対面だった。
「就任してわずか7ヵ月なのに、もう何年もやってきたような信頼関係を感じました。僕が現役の時にも、学生と監督のいい距離感というのがあって信頼関係も強かったのですが、雰囲気のいいチームというのは、そういうところから始まるんだなと再確認できた。OBとしてすごく安心したし、これからもっと応援していきたいという気持ちになりましたね」
また、意気込みを語った選手たちについても和田氏は、「初めての箱根駅伝という中で、自分としての走る意味を見つけ、しっかり何かを残そうとしているものの、浮き足だってはいない。言葉選びも素晴らしくて安心して見ていられた」と称賛。そして「いい走りも失敗した走りもすべてがチームとしての経験となり、新監督体制の中で必ず来年以降につながっていくと思う。第100回という歴史的な大会を日本大学の選手として走れるのは、後にも先にも君たちしかないのだから、レースを全力で楽しんでほしいと思います」と、熱いエールを贈っていただいた。


「エントリー日の朝のミーティングで発表した」という16名の選手選考について、改めて新監督に聞くと「予選会の後に調子が上がってきた選手が多くいたので悩みました」と言う。また「予選会を走った本間(君耶、商・2年)が故障して、『あと3週間では本番に合わせられない』というので外しましたが、今年は一致団結してやらなければいけないと本人がわかっていて、隠さずにそう言ってきてくれたことはチームにとってもプラスですし、とてもありがたい」と話し、「私の考えでは “メンバー”ということではなく、あくまでもチームなんです。選手個人のレースではなく、メンバーに入った外れたというのでもなく、サポートも含めて日本大学というチームで戦うものだと思っているし、その中でたまたま10人がレースを走るということ。全員が一丸となって戦わないといけないんです」と、その言葉に熱がこもる。
「2区以外は、まだ誰をどこで走らせるかは白紙。まだ2週間あるので、選手本人の希望や意思も尊重しながら、区間エントリーのギリギリまで適性を見ていきたい」という新監督。1月2日の本番をどんな気持ちで迎えるだろうかと尋ねると、「ワクワクですかね。どういう走りを見せてくれるのか、選手と一緒に楽しむような気持ちでは」と笑ったあと、「他校は関係ない。日本大学の伝統を守るためのレースをやるだけ」ときっぱり。そして「次につなげる戦いが今から始まる。これが最初の第一歩」と繰り返した。
東京・大手町の空にスタートの号砲が響くまで、あと2週間。

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