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競泳 寺村 美穂選手

悔しい思いを忘れずに、ここまできた。5年前のリオ五輪、200m個人メドレー準決勝は予選からタイムを落として全体9位となり、決勝進出を逃した。その後は、一時「アスリートに向いてないのでは」と自信を失いかけた時もあったが、「もう一度五輪へ」と気持ちを新たに水泳と向き合い、着実に結果を残してきた。しかし、コロナ禍の影響で代表選考を兼ねた2020年4月の日本選手権が中止となり、東京五輪も1年延期が決まると、「東京五輪を水泳人生の集大成にするつもりだった」という寺村選手は再び自分自身に問いかけた。


「延期が決まってすぐの頃は、今後どうしようかなと、すごく悩みました。でも、やっぱりもう一度五輪に行きたいという気持ちが強かったので、あと1年頑張ろうと決めました」

寺村 美穂選手

日大水泳部がとても強くなってきて、今回も五輪代表内定が5人も出たことを、とてもうれしく思います。私も後輩たちに負けないよう、頑張ろうという気持ちにさせてくれます。

昨秋は、国際水泳リーグに参加する日本チームの一員に選ばれ、海外選手とのレースを数多く経験した。さらに、12月に開催された日本選手権の200m個人メドレーで4年ぶり2度目の優勝を飾った。コロナ禍の日々も「私にとってはマイナスになったことはほとんどなかったと感じています。この1年の練習はとても充実していたので、自分に自信をつけることができました」と振り返った。


そして今年4月、代表選考レースとなる日本選手権。全体3位で臨んだ決勝レースは「やれることはきちんとやったので、あとは自分のレースをすれば大丈夫だと、自信を持ってレースに臨むことができました」と、強い気持ちでスタート台に立った。


派遣標準記録(2分10秒49)を突破し、かつ2位以内が代表内定の条件だが、そこには超えなければいけない強敵がいた。200mと400mの個人メドレーの日本記録保持者である大橋悠依選手。既に400mでは五輪代表内定を決めている大橋選手に、ここ数年のレースでは勝てていなかった。それでも寺村選手は「もちろんライバルではありますが、周りがどうということではなく、しっかり自分のレースをすることだけに集中していました」。


レース序盤、5コースの大本里佳選手と4コースの大橋選手が日本記録を上回るハイペースで飛ばしていく。3番手で寺村選手が100mをターンした時、先頭の大橋選手とは1秒以上の差があった。しかし、得意の平泳ぎに入るとスピードに乗った寺村選手は2番手に浮上し、150mは大橋選手にわずか0秒10差で折り返した。ラスト50mの自由形でさらに追い上げ、残り10mは息継ぎなしの猛スパートでフィニッシュ。大橋選手に0秒12の僅差で競り勝ち、派遣標準記録突破の2分09秒55のタイムは、リオ五輪出場を決めた2016年日本選手権以来の自己ベストだった。


電光掲示板で結果を確認した寺村選手の顔に笑みがあふれ、小さくガッツポーズをし、2種目めの代表内定を決めた大橋選手と抱き合い喜びを分かち合った。3位の大本選手も派遣標準記録を上回るハイレベルな戦いを制し、見事に日本選手権2連覇と2大会連続の五輪代表内定を勝ち取り、「本当に安心しました。延期後の1年間にやってきたことが間違いではなかったと証明できたことがうれしかった」。


五輪本番に向けての課題は「やっぱり最後の自由形の強化ですね。その上で、他の3種目のスピードをもっと上げていきたい」と話す寺村選手。「今回はきちんと決勝の舞台で戦い、メダルを目指したい。大橋選手と二人で世界と戦い、一緒に表彰台に上れるように頑張りたい」と決意を語った。

Profile

Miho TERAMURA ​[てらむら・みほ]

1994年生まれ。千葉県出身。千葉商科大学付属高卒。2017年文理学部卒。セントラルスポーツ所属。平泳ぎと個人メドレーを得意とし、4年生の時、'16年リオ五輪に200m個人メドレーで初出場も0秒16差で決勝進出を逃す。'18年のパンパシフィック水泳およびジャカルタ・アジア大会、'19年のワールドカップ東京大会はいずれも銅メダル。'20年12月の日本選手権で初優勝を飾ると、代表選考会を兼ねた'21年4月の日本選手権でも200m個人メドレーを制し、2大会連続の五輪代表に内定した。