未来を拓け!実践授業

松戸歯学部 5年生の付属病院臨床実習

学び・教育
2021年12月06日

今年創設50周年を迎えた松戸歯学部では、115人の5年生が付属病院での臨床実習の真っ最中だ。合格基準の引き上げで歯科医師国家試験が年々厳しくなる中で、口腔の健康は全身の健康につながるとする「オーラルサイエンス(口腔科学)」を旗印に掲げる同学部。その先行きを占ってみた。

念願の歯科医師へ、全力投球

清水武彦教授

清水武彦教授

歯学生とはいえ、誰もが自由に患者を診察できるわけではない。基礎知識と技能の二つの能力を図るプレ国家試験「共用試験」を突破して、晴れて5年生に進級することで、臨床実習に臨める。

臨床実習では、この患者相手というのがハードルとなる。「相手は一人ひとり異なるし、時には人の生き方に踏み込み、その人生を変えてしまうほどの行為であると自覚することが大切」と、実習を統括する清水武彦教授は訴える。

隣接する付属病院は最新鋭のCT、MRI、血管造影装置などを備え、地域の中核的機能を担っており、実習環境としては非常に充実している。年間の外来患者は25万人以上、1日約900人が訪れ、厚生労働省から歯周病の高度先進医療機関に認定されている。

このため、5年生は初診時から2人の患者のマネジメントを担当しながら、治療の流れを、1年間かけてじっくり追うことができる。

各診療科を巡っての実習は目の回る忙しさ

病院での実習

病院での実習

5年生の毎日は、各診療科の実習で目の回る忙しさである。主なところでは、被せ物やブリッジ、入れ歯の補ほ てつ綴科、虫歯治療の保存科、抜歯や顎がく関節症、消炎、腫瘍切除などの口腔外科、そして歯周病治療の歯周科の4科を、2週間ごとに年3回のペースで回らなければならない。その合間には、放射線科、総合歯科診療科、小児歯科、矯正歯科、特殊歯科、麻酔・全身管理科などの実習もある。毎朝8時35分に出欠を取ってから、夕方は午後5時まで実習が続き、学生たちにとっては遊ぶ暇もない。

昨年はコロナ禍で見学中心だったが、現在では感染防止策を徹底した上で実践型に戻している。指導医の下、問診や虫歯の治療、入れ歯の設計、エックス線撮影、局所麻酔、訪問診療などの体験を重ねる。

歯科医師や歯科衛生士に混じって、白衣の5年生がスチューデント・デンティスト(SD)として診療の手順を一生懸命にのぞき込む姿は初々しい。

「自身が体験して技能を体得する。そんな〝自験〟を、可能な限り5年生に味わわせたい」と清水教授。「見ているだけと、実際に治療に携わるのとでは雲泥の差がある。患者さんは物言わぬ模型ではないし、上手にコミュニケーションを取り納得させなければならない。そのためには態度、物腰もしっかりして!」とアドバイスする。

ハードル上がる国家試験の合格基準

有川量崇教授

有川量崇教授

歯科医師国家試験は、6年生の最終盤に当たる1月末に2日間かけて実施される。今年の試験では3284人の受験者に対し、合格者は2123人。ざっと3人に2人しかパスできず、20年前の合格率90%前後から著しく低下している。

国家試験対策委員会委員長の有川量崇教授によると、歯科医師国家試験の出題は計360問。そのうち臨床実地からは100問が出題される。例えば、エックス線画像や口腔内写真に患者の問診票が示されて、「この患者の診断名・処置は?」といった問題が出される。

臨床実地問題の配点は1問3点(他は1問1点)。つまりは、臨床実習をきちんと修めないと、国家試験には通らない。

新卒合格率3年連続80%台が目標

昨年度の6年生は88人が受験して72人が合格し、合格率は81.8%。一昨年度の新卒も80.5%であり、2年連続で80%台を堅持した。

「国家試験対策委員会を中心に、教員が手厚い定期的なコンサルテーションや弱点補強のための補講、そして国家試験の予想問題としての適切な卒業試験作成・スクリーニングなどで、6年生を1年間鍛えた成果です」(有川教授)

前年の11月と12月の2回に分けて実施する卒業試験にパスした学生の90%以上が、国家試験の合格圏内に入っている。追試は翌年1月の前半だが、そこをパスした学生の合格率は50%強程度。従って、国家試験対策は12月半ばまでに整えておくのが不可欠だ。

6年生対象の講義

6年生対象の講義

このため6年生は、国家試験対策に専念することになる。2年前から主に国家試験対策に向けた実習が改善されてきたが、特に5月と6月は臨床系の国家試験対策を強化するためのカリキュラムとなった。7月からは、国家試験対策の「歯科医学総合講義」を朝から夕方まで、毎日5コマを展開している。

いくつかの部屋を転用するなどして、国家試験対策用の学修スペースも確保した。朝7時から夜10時まで利用でき、土日も利用可。

40人ほどの6年生がもっぱら利用している。コロナ禍でこうしたスペースを設けることができるのは、広いキャンパスを有する松戸歯学部ならではの強みである。

「5年生の臨床実習が大切なのは、1~4年で学んだ座学を具現化して整理できる点です。実際に患者さんを目の前にしながら、緊張感をもって勉強しなければなりません。薬の名前や材料、そして治療の方法・順序も覚えることになります」(同)

これに加えて有川教授は、「4年生までに学んだ内容の復習、定期的な見直しが不可欠」と指摘し、これを点検する「歯科医学総合講義」の意義を改めて付け加えた。

「特別研究生」制度で既卒者を積極支援

新卒が好調な歯科医師の国家試験だが、既卒も合わせた松戸歯学部の今年の合格率は60.0%(全国平均64.6%)にとどまった。

卒業したものの最初の国家試験に合格できなかった既卒者の合格率が35.1%(全国平均36.9%)と振るわないためだ。既卒者の学修管理は難しく、ほとんどの既卒者は国家試験対策の予備校に通っている。中にはいわゆる「宅浪」の既卒者もおり、一人で勉強を続けるモチベーションの維持が課題となっている。

そこで松戸歯学部では、小方賴昌学部長、卒後教育担当の平山聡司教授を中心に「特別研究生」制度を再スタートさせた。図書館など学内施設を学生同様に利用できるとともに、別教室で6年生の授業も受けられ、個別の学修スペースも確保される。さらに予備校の不得手な講座も受講可能だ。学費については予備校の3分の1程度しかかからない。これは他の歯科大学にはない、松戸歯学部独自のサポート制度だ。

この制度は一時休止していたが、昨年復活して、特別研究生の合格率は50%となった。今年も16人が参加しており、昨年以上の合格率アップに期待が高まっている。

結果に満足することなく、絶えず改善を

さらに、有川教授をはじめ歴代の国家試験対策委員長は、国家試験に出題された全科目を分析し、受験者全員と松戸歯学部の正答率を比較する取り組みを行い、その結果を学部の全教員で共有している。

昨年度の国家試験では、あくまで予備校による推計値ではあるが、松戸歯学部の平均と全国受験生の平均を比較すると、19科目中12勝7敗だった。「敗れた」科目は、その科目の中で改善を徹底し、その後の指導に反映させている。こうした取り組みの結果、以前より全国平均以下の科目は減少し続けている。

「松戸歯学部の教員は学生を非常に大事にする」と定評があるが、あえて自己評価・点検を続けている。学部創設50 周年を迎え、その視線は既に「次の50 年」を見据えて前進を続けている。

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