スポーツ科学部・競技スポーツ学科 小松 泰喜教授
「アスレティックリハビリテーション」
スポーツ科学部・競技スポーツ学科 小松泰喜教授
近年、授業の在り方が問われている。現場では、各教員が自身の科目に合った教育方法を創意工夫し、学生の理解向上を目指して日々努めている。それぞれの科目ではどのように学生と向き合い授業を進めているのか。その手法と実践にフォーカスする「教員の教えるテクニック公開」。
今回は、スポーツ科学部・競技スポーツ学科の小松泰喜教授の授業を紹介する。
リハビリテーションには「メディカル」と「アスレティック」の二つがある。前者はケガをして入院、治療や手術後に行うリハビリのことで、日常生活を送れる状態になるまでの期間を指し、一般人であれば、ここまでで100%の回復と見なすことができる。しかしアスリートを対象とする後者は、それでは十分ではない。日常生活レベルでは25%程度の回復にすぎず、競技復帰をして初めて100%に近づく。つまり、アスレティックリハビリテーションは、アスリートにおける25%から100%までのリハビリ期間を意味する。
多くの学生アスリートが在籍するスポーツ科学部において、「アスレティックリハビリテーション演習」は人気講義の一つで、アスレティックトレーナーの資格を持つ小松泰喜教授が担当をしている。
「簡単に言うと保険診療ではできないのがアスレティックリハビリテーションです。実際にケガを負っていたり、身体に不安を抱えている学生も多く受講していますから、実践的な話をするように心掛けています」
アスレティックリハビリテーションにおいて、各競技の特徴的な動作を理解することは必要不可欠だ。授業では、どの段階で負荷がかかり、ケガの原因になるのかということを教える。
「例えば野球なら、有名なプロの投手の成績の良い時期と悪い時期の連続写真を学生に見せ、違いを把握させます。他競技でもケガの原因になりやすいのが、よく行う動作であることから、どのように観察し、どこが悪いのかを言葉で表現できる力として身に付けてほしいのです」
スポーツにおいてよく使われる表現に「コツ」や「カン」などがある。小松教授もそれらを否定はしていないが、スポーツ科学の本質は「言葉で表現できること」であると小松教授は捉えており、学生にもその重要性を説いている。
2つのリハビリテーションの違いを示した図
小松教授が学生に常々伝えている言葉がある。それは「予防に勝る治療はない」だ。一見リハビリとは相反するように思えるが、身体に痛みが出るメカニズムを理解し、それを防ぐための知識を得ることはアスレティックリハビリテーションにおいても重要な要素だという。そのためには人の筋肉、姿勢、動作、制御などを正しく理解する必要がある。
「授業の最初にステイトメントテストを行って自分の実力を知ってもらい、最後に覚えてもらいたい筋肉を紹介します。名前とその筋肉の作用、どのような競技に必要かということを伝えます」
予防という観点で、小松教授がもう一つ重要視しているのが金属疲労だ。使い過ぎにより身体に繰り返し微細な外力が加わり(使い過ぎ症候群)、結果として疲労を起こし筋肉や骨にひずみが生じる故障のことを金属疲労に例えてそう言っている。競技スポーツで大きな問題になるのはこの故障で予防が最善策である。
学生自身の競技生活にとってはもちろんだが、将来学生が指導者になった際にも大切なポイントで、特に若年層への指導ではしっかりと気を配る必要があると伝えている。
<プロフィール>
スポーツ科学部
小松 泰喜(こまつ・たいき)教授
信州大大学院工学系研究科生物機能工学後期博士課程修了。東京大大学院特任研究員、東京工科大医療保健学部理学療法学科教授などを経て、平成28年から現職。専門領域はスポーツリハビリテーション医学。