【研究者紹介】
日本近代文学を国際的視点から見る

芸術学部 ソコロワ 山下 聖美 教授

研究
2020年03月11日

宮沢賢治研究を四半世紀続ける第一人者
この10年間は林芙美子研究にも没頭

山下教授は、今なお多くの人を魅了する作家、宮沢賢治の研究を四半世紀近く続けている第一人者である。この10年間は「放浪記」で知られる林芙美子の研究にも、没頭してきた。日本の近代文学を、国際的な視点から見ることも大きな研究テーマだ。海外のシンポジウムに積極的に参加し、宮沢賢治と林芙美子の作品を中心に、日本近代文学の魅力を訴えている。

100分de名著

芸術学部 ソコロワ 山下 聖美 教授

芸術学部 ソコロワ 山下 聖美 教授

2017年3月、NHKのEテレが「NHK100分de 名著 宮沢賢治スペシャル」を4回にわたって放送。多面的な作品群に四つのテーマから光を当て、その奥深い世界に迫った。

山下教授はこの番組で指南役を務めた。宮沢賢治の作品が、現代人の心を揺さぶってやまない理由について「彼の作品には、人間とは何なのかという問いと、本当の幸いへの探究心が込められているからだ」と解説し、視聴者をうならせた。

16年1~3月放送(全12回)の「NHKカルチャーラジオ 文学の世界 大人のための宮沢賢治再入門~ほんとうの幸いを探して」でも、名解説を披露した。このラジオ番組のガイドブックとEテレのテキストを再構成した著作「別冊NHK100分de名著 集中講義 宮沢賢治 ほんとうの幸いを生きる」(NHK出版)は、現在も売れ続けている。

師との出会い

山下教授が宮沢賢治研究を始めたのは、「文学で生きたい」と切望し、本学の大学院(芸術学研究科文芸学専攻)に入学した1996年。「宮沢賢治生誕100年」に当たり、日本中が賢治ブームに沸いた年だ。

ここで指導教授として文芸批評家の清水正氏と出会い、清水氏による20冊以上の宮沢賢治批評と関連する多数の論文に圧倒された。さらに清水氏の指示で、当時出版されていた約250冊の宮沢賢治研究書を全て読破。うち205冊について書評を書き、「検証 宮沢賢治論」(D文学研究会、1999年)にまとめた。

また、清水氏が出版社へ働き掛けたことで、初めての一般向け入門書2冊【「賢治文学『呪い』の構造」(三修社、2007年)、「宮沢賢治のちから」(新潮新書、2008年)】を書く機会にも恵まれた。その後、これまでに「わたしの宮沢賢治 豊穣の人」(ソレイユ出版、2018年など、多くの力作をものにした。

山下教授は宮沢賢治研究を「運命」と考えており、「清水先生との出会いが全て」と話している。

素晴らしい作家

タイで国際シンポに参加後、遺跡見学

タイで国際シンポに参加後、遺跡見学

文部科学省の科学研究費を配分された「林芙美子文学から見る近現代アジア諸国の研究」(2013~16年)で、山下教授は林芙美子作品のうちアジア地域を描いたものと、関連する文献のデータ化作業、解読、足跡を探る現地調査を行った。

山下教授によると、林芙美子は第二次世界大戦中、日本軍に付いて東南アジア各国を回り、各地の様子をルポ風に伝えていた。そのためか戦争協力作家などと言われて正当な評価をされず、いつ、どんな作品を書いたかという基礎研究が、ほとんどなされていなかった。

山下教授は「林芙美子の作品は、読んだ後にふっと救われるものを感じる。スケールの大きな素晴らしい作家」と高く評価している。世に出ている作品を丹念に読み込む一方で、埋もれた作品を発掘する作業を地道に進めており、生涯をかけて全集を作り上げる計画だ。

文学的まなざし

山下教授は、善も悪も、清も濁も、悩みも葛藤も、不条理も謎をも含んだ、人間の営み全てを許容する「文学的まなざし」を大切にしている。人間というどうしようもない存在を、大きく包み込むまなざしこそが、ギスギスした世の中に必要ではないかと考えている。

研究の合間には、各地で開かれる骨董市へよく足を運ぶ。さまざまな骨董品を眺めながら、過去からの時間の深みを感じ、心の平安を得る。

芸術学部
ソコロワ 山下 聖美(やました・きよみ)教授

平成7年日本女子大文学部英文学科卒。13年本学大学院芸術学研究科芸術専攻博士後期課程修了。博士(芸術学)。19年本学芸術学部文芸学科専任講師。23年同准教授。27年同教授。30年より本学芸術学部芸術研究所長。
日本近代文学会所属。サンクトペテルブルク国立文化大・学術雑誌「VESTNIK」編集委員。東京都出身。47歳。