【研究者紹介】
脳の神秘に魅せられて

歯学部 近藤 真啓 准教授

研究
2020年12月22日

DNAやタンパク質など分子レベルでテーマ追究、信念を持って社会に貢献できる研究を目指す

研究者の道に入って約27年。人間の脳の神秘に魅せられて、脳に関連するさまざまなテーマを、細胞内のDNAや遺伝子、タンパク質など分子レベルで追究してきた。例えば、脳を構成している1千億個にも及ぶ神経細胞(ニューロン)の配線メカニズム、ニューロン間の情報伝達に重要な役割を担うグルタミン酸受容体など。優れた論文も数多い。「趣味は研究」と言い切る根っからの研究者。「信念を持って社会に貢献できる研究」を目指す気鋭の逸材だ。

ノーベル賞学者の本

歯学部 近藤 真啓 准教授

歯学部 近藤 真啓 准教授

近藤真啓准教授が脳に興味を持ったのは、本学歯学部3年生の時。脳に関する授業の後、担当教授に誘われて、ノーベル賞受賞の生理学者ジョン・C・エックルスが、ニューロンなどの構造や機能について著した「The understanding of the brain」の輪読会に参加。神秘的でさえある脳の働きに衝撃を受けた。

2年生の時にも、ノーベル賞受賞の物理学者エルヴィン・シュレーディンガーの名著「生命とは何か」を読んで感銘し、生命科学研究への憧れを抱いた。同書は、分子を使って生命現象を理解する「分子生物学」の誕生に、大きな影響を与えたと言われる。

両著との出会いが、研究者としての方向性を決定付けた。

グルタミン酸受容体

近藤准教授は学部卒業の1993年、本学大学院歯学研究科へ進み、4年間、生理学を専攻した。生理学は、体全体の基本的な機能と仕組みを研究する学問。口に関係する口腔生理学と併せて学び、全身と口腔との関係を詳しく理解する。

近藤准教授は、大学院と東京都神経科学総合研究所(現・東京都医学総合研究所)で計約8年間、グルタミン酸受容体の脳内における発現(遺伝情報が具体的に現れること)や機能を中心に、研究を続けた。

グルタミン酸受容体は、ニューロンの突起の細胞膜表面(シナプス)に存在する。ニューロンから次のニューロンへと情報を伝達するために働くタンパク質で、記憶・学習などに深く関わっている。

ハーバード大留学

米国マサチューセッツ州ボストンにあるダナ・ファーバー癌研究所。ハーバード大学メディカル・スクール(日本の医学部に相当)の医療機関で、がんに関する研究では世界的に有名だ。

近藤准教授は2003年から約3年半、同研究所に留学。研究チームの一員として、チームがニューロンの配線メカニズムを解明する、有力な仮説を打ち立てるのに貢献した。

1千億個のニューロンから成る複雑な神経回路は、2万数千個しかない遺伝子がコントロールしている。1個の遺伝子が作るタンパク質は1種類が基本であるため、圧倒的に少ない遺伝子が全体をどう構築し制御しているのか、解明されていなかった。研究チームは、1個の遺伝子から、よく似ているが少し性質の違う多数のタンパク質が作られる「選択的スプライシング」というメカニズムで、脳の複雑性が担保されていることを発見し、仮説につなげた。

エピジェネティクス

日本法医学会の集会に参加する近藤准教授

日本法医学会の集会で

近藤准教授は1年半前から、歯学部の法医学教室に所属している。検視や行政解剖を行う法医学の分野では近年、ヒトゲノム(人間の遺伝情報)から個人を特定する傾向がある。また、薬物中毒や幼児虐待など精神活動に影響を及ぼす社会問題の立証に、分子の面からアプローチする流れもある。このため、近藤准教授は「これまで培ってきた脳の知識や研究手法を生かせる」と考え、法医学関連の研究にも積極的に取り組んでいる。

既に、遺伝子の発現調節に関わる「DNAメチル化」を基に、白骨死体の歯のDNAから年齢を推定するシステムを作り上げた。これは、年齢によって遺伝子の特定の部位で、発現が抑えられていく現象が起きることを利用したものだ。

近藤准教授はさらに、後天的な遺伝子発現の制御を意味する「エピジェネティクス」の考え方を応用し、法医鑑定の新たなシステム作りに挑んでいる。

歯学部
近藤 真啓(こんどう・まさひろ)准教授

1993年本学歯学部卒。97年同大学院歯学研究科博士課程修了。博士(歯学)。ハーバード大メディカル・スクール/ダナ・ファーバー癌研究所リサーチフェロー、本学専任講師などを経て2020年10月から歯学部准教授。
日本神経科学学会、日本法医学会、日本分子生物学会などに所属。千葉県出身。