【研究者紹介】
未解明の赤ちゃんの基礎・臨床医学研究にまい進

医学部 森岡 一朗 教授

研究
2021年08月16日

赤ちゃんを母子感染から守るため第一人者として治験を主導。新型コロナウイルス 母子感染の赤ちゃんの現状を調査

「新生児医療は特定の臓器を診るだけでなく、総合的に診断を下さなければならない。そこに大きな可能性を感じ、挑戦したい」森岡一朗教授は小児科領域に進んだ動機をそう述懐する。

医学部を卒業後は故郷に戻り、神戸大大学院で医学博士。その間、米スタンフォード大へ留学。当時から、新生児黄疸の基礎・臨床研究に取り組んできた。

母子感染でも治験主導

医学部 森岡 一朗 教授

医学部 森岡 一朗 教授

研究が本格化したのは、早産児を中心に脳性麻痺や難聴が再び増加した2000年頃から。臨床研究を進め、新生児黄疸*の治療基準(森岡の基準)を作成した。

さらに、最近では新生児の血液の一滴からそれらの疾患を検査する方法をまとめた。その成果は米ベンチャー企業の開発機器として、1年以内にお目見えする。

新型コロナウイルス感染症に先立って、2009年に新型インフルエンザが国内で流行したことを覚えているだろうか。わが国初の、母子感染した新生児の主治医を務めたのが、森岡教授だった。

それを機会に、母子感染症児を診る機会が拡大。第一人者として領域をけん引している。特にサイトメガロウイルス感染症児が、抗ウイルス薬治療で難聴や発達遅延などの後遺症を軽減できることを、わが国で初めて報告した。本治療が一刻も早く保険承認されることを願い、医師主導治験を現在、行っている。このような経験により、小児科領域の感染症やワクチンなどの知識を身に付けることができたのは、現在の大きな財産になっている。

*新生児黄疸
産まれた赤ちゃんは皮膚や眼が黄色くなり、大半は軽快するが、重症になると脳性麻痺や難聴を引き起こす。森岡教授はその検査法を研究し、一滴の血液から測定する方法で国際特許を取得。近く医療機器として登場する。

そして新型コロナは?

新型コロナの母子感染はどうだろうか。母子感染症の第一人者として、さっそく全国の医療施設で調査を行っている。第2波終了頃の2020年9月から2カ月間の全国調査で、新型コロナに感染した母親から出生した新生児は52人。そのうち新生児1人が陽性と判明した。「新型コロナの母子感染はレアケースで、重症化する可能性は非常に低い」とみている。

医学部付属板橋病院でも、感染した母親が出産したケースがあったが、胎盤の段階で無事に新生児への感染が阻止されていた。

「奇跡や意外と思うことは日常診療でよく経験します。新生児はまだ分からないことが多く、研究し解明していかなければならないですね」

医学部
森岡 一朗(もりおか・いちろう)教授

1997年本学医学部卒。神戸大で医学博士。米スタンフォード大留学。2018年から本学医学部の小児科学分野教授。日本小児科学会や日本新生児成育医学会の理事
等で活躍。兵庫県出身。