【改正法で地球温暖化対策はどう変わるか:Part 3 地域】再生可能エネルギーは “地産地消”で 発展する

理工学部電気工学科 西川 省吾 教授

研究
2021年10月25日

地球温暖化対策推進法の一部改正案が、今年5月26日に成立した。
同法は1998年に制定されたが、2015年のパリ協定で定めた目標や、昨年の「2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)」宣言を踏まえ、地球温暖化対策の取り組みをより加速させるための改正である。
この改正法によって日本の社会は、市民の生活はどう変わっていくだろうか─。

地域の資源を生かして発電し雇用も生み出す

理工学部電気工学科 西川 省吾 教授

理工学部電気工学科 西川 省吾 教授

再生可能エネルギーによる発電はどこまで進んでいるのか、今後どんな展望があるのか。西川省吾教授に地域の取り組みを中心に聞いた。キーワードは『地産地消』だという。

「FIT制度ができてから、自治体も第三セクターなどの形で発電事業に取り組んできました。それが最近また一段と進んで、特に自治体が取り組む場合は、その地域の資源を生かして発電し、周辺の地域に供給するというのが、現在の一つの動向だと思います。再生可能エネルギー自体が、太陽光など一部のものを除けば、地域性が非常に問われるものです」

風力発電は安定した風が必要であり、バイオマスという動植物から生まれた資源を使う発電は、森林がある所や酪農地域などでないと難しい。地熱発電ならば温泉がある地域、海に近ければ洋上風力発電や波力発電、山間部なら小規模水力発電といった具合に、そもそも資源がなければ発電できないのが再生可能エネルギーの特徴である。そのため自治体が地域の資源を生かして取り組み、第三セクターや会社を立ち上げて運営し地域の雇用を生み出すという目的も果たしながら、手始めとして市役所や市の施設などに電気を供給している例が多いという。

では、自然の資源が少ない東京などの都市部では何ができるだろうか。

「これは再生可能エネルギーではないのですが、横浜市が熱心に取り組んでいるのは、工場などが出す排熱や温水を利用して電気や熱を生み、冷暖房に使うという試みです。また東京の多摩ニュータウンでは、地元市民の出資を募って電力会社を設立し、太陽光発電によって市の団地や小学校に電力を供給しています」

太陽光発電は比較的場所を問わない。一般の住宅における太陽光発電もかなり普及しており、大手メーカーの作るいわゆる「工業化住宅」においては、すでに半数近くがソーラーパネルを設置しているが、そういうメーカーが建てる住宅は全体の3割程度というのが現状だ。

風力発電は、世界的に見ると日本ではまだまだ少ない。風が時速6~7m以上で安定していればビジネスとして成り立つので、平坦な陸地が多いヨーロッパで盛んだ。日本では台風が来ても利用できるわけではなく、適した風の吹く土地が限られている。そこで近年は洋上での風力発電が注目され、実験的に行われている。

ハード面だけでなく、ソフト面の技術革新も必要

再生可能エネルギーがもっと増えていくために、今後どんな技術革新が必要になってくるだろうか。

日本で開発されたペロブスカイトという太陽電池は、低コストで世界的に注目されている。一方で今後の開発が期待されるのが蓄電池である。太陽光発電や風力発電は天候に左右され発電量や周波数が安定しない。そこで電気をためておいて安定供給するための蓄電池は不可欠だ。

「スマホなどにもリチウムイオン電池が使われていますが、大容量のものはまだまだ普及していません。全固体電池というリチウムイオン電池より性能も安全性も高いものが開発中です。そういった電池が普及していけば、太陽光も風力も一気に広がると期待しています」

その他、波力発電や潮力発電なども、特に将来的な技術革新が期待されている分野だ。それらのハード面の技術革新に加えて、西川教授が特に必要性を強調するのはソフト面の技術革新である。2022年4月から日本でも施行される、アグリゲーターという制度がその一つ。太陽光発電などの小規模電源を束ね、電気の供給を行う事業者である。

「現在は電力会社が発電して売るだけではなく、JEPX(日本卸電力取引所)から小売事業者が電気を買って売るという形があるのですが、需要と供給のバランスで価格が変動します。需要が逼迫して電気代が高くなることもあり、今問題になっています。そこに仲買人のような形でアグリゲーターが加わり、小規模な電力の取りまとめを行い調整して売ることで、再生可能エネルギーの不安定さを解消することが期待されます」

西川教授が特に重要視しているのが、そういったソフトの中で、一つは太陽光発電などの発電量の予測、もう一つは設備のメンテナンス技術だ。

「明日の何時はこれぐらいの風が吹くはずだ、このくらい日が照るはずだと精度良く予測できれば、計画的な運転ができるようになります。また、導入の方ばかりが注目されますが、その維持にも目を向けなければなりません。20年、30年と正常、安全に維持して、ビジネス的にも成り立たせることが必要です」

西川教授は2050年のカーボンニュートラル達成について「国全体としてはハードルが高いが、限られた地域内でそれを実現することは充分に可能」だと考えている。

<プロフィール>

理工学部電気工学科
西川 省吾(にしかわ しょうご)教授

1959年広島県生まれ。本学理工学部卒。2011年同学部電気工学科教授。エネルギー工学、電力工学などを専門分野とし、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー、電力貯蔵・故障検出技術などを研究テーマとしている。国立極地研究所との共同研究として、南極・昭和基地での再生可能エネルギー供給にも取り組む。