スマートシティで交通が変わる?

理工学部 交通システム工学科 石坂哲宏 准教授

研究
2022年04月13日

国を挙げて取り組みが進められているスマートシティ。
私たちの交通を便利にするために、どんな取り組みが進められているのでしょうか。

Q スマートシティとはどんな町ですか?

多様な側面があり一概に定義するのは難しいですが、交通、環境、教育、防災、医療、福祉などあらゆる場面で、先進的なデジタル技術を使って都市や町、地域の経営を行うというものです。そこでは、持続可能であり、安心安全であり、環境に優しいなど、SDGsの視点が求められますが、一番重要だと考えているのは、インクルーシブ(包摂的)であること、つまり「誰も取り残されないこと」です。
​例えば私の専門分野である交通に関して言えば、買い物に行くにも不便な地域で免許を返納した高齢者や、障害者など、いわゆる交通弱者がその地域で暮らし続けられるようなシステム作りを目指しています。

Q 交通工学の分野で取り組んでいることは?

理工学部 交通システム工学科 石坂哲宏 准教授

理工学部 交通システム工学科 石坂哲宏 准教授

MaaS(Mobility as a Service)というシステムに着目しました。移動するときの交通手段から、乗り継ぎ経路、予約、決算、リアルタイムな交通情報まで統合された、スマートフォンのアプリケーションです。その中には交通弱者の人が利用しやすい選択肢もあれば、レンタサイクルやバイク、自動車のシェアリングなど広がりつつある交通手段もあり、最終的には自動運転の自動車も入ってきます。現在、研究プロジェクトとしてインドのある都市でMaaSを実際に展開しています。日本の支援で都市鉄道を開業し、新幹線も計画されている都市ですが、二輪車や三輪車での移動が一般的で渋滞が多発しているため、公共機関の利用を促進して課題を解決することが目的です。

また、成田空港周辺の市町村による成田空港周辺地域振興連絡協議会と協力し、アプリケーションを使って、地域の道路状況に問題があれば市民の方に投稿してもらうというプロジェクトも行いました。道路の白線が消えているといった投稿内容を行政が把握するだけでなく、交通標識の指示とは違う安全行動がとられているといったことや交通渋滞発生の報告があれば、交通工学の観点から解析して施策を提案しました。そのように市民の側から提供された情報を利用する双方向性も、スマートシティの一つの要素だと思います。

Q 今後の課題と展望は?

自動運転の完全な実現もスマートシティのテーマですが、あるレベルの自動運転のバスはすでに各地で実用化されつつあります。また、需要に応じて走るオンデマンドバスもあります。
しかしスマートフォンを使えない高齢者が、それを電話で予約している場合も多いです。将来、空間上のディスプレイを操作するといった技術が一般的になれば、高齢者になった私たちが使いこなせるかという問題が生じます。また、そういう仕組
みを誰が負担して作るかもポイントです。交通事業者には零細な企業も多く、事業者負担では持続可能ではないでしょう。いずれも将来のイメージを作って、「誰も取り残さない」ために現在何をすべきかを導き出していくことが大切だと思います。

スマートシティとは?
ICT(情報通信技術)やデジタル化によるシステムの効率化、サービス提供の高度化によって、社会課題を解決に導き、新たな価値を創出するようなマネージメントを行う地域。シティは人口の集中した都市だけではなく、ある程度のつながりを持った地域や、そのシステムがカバーする範囲を指す。

理工学部 交通システム工学科
石坂哲宏 (いしざか てつひろ准教授

本学理工学部交通土木工学科卒。同大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。2007年本学理工学部助手、15年から現職。研究分野は社会基盤(土木・建築・防災)、土木計画学、交通工学。国内だけでなく、インド、タイ、ベトナム、ラオスでも交通手段についての研究を行う。