胃がん転移をAIが発見。人間を支える“もう1人の医師”として

医療現場に確実性をもたらすAIサポート

医療用AIの活用に注目が集まる昨今。医師の診断をサポートする存在として、その活用に向けた動きが活発になっています。私は現在、医学部教員との共同研究により、医療現場で役立つさまざまなAIシステムの開発に取り組んでいます。その一つが、内視鏡カメラの画像から胃がんの腹膜転移を⾃動検出するシステムの開発です。内視鏡検査の画像とそれに対するベテラン医師の診断結果のデータを数多く用意し、「この画像は陽性」「この画像は陰性」と覚え込ませると、AIが瞬時に同じ判断ができるようになるというものです。内視鏡検査装置に搭載すれば、安定的にサポートしてくれる医師がもう1人常に近くにいるようなイメージで検査を実施できます。担当医師とAIのダブルチェックによって、経験値の差による診断のブレや、医師の疲労によるケアレスミスの防止にもつながるでしょう。 AIにこうした学習をさせるには、胃がんの検出であれば胃内視鏡検査のデータが大量に必要ですが、十分なデータを保有している研究機関は限られています。より精度の高いAIシステムをつくるには、適切な医療データの集積がなにより重要なのです。

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専門分野を超えた連携が生み出す化学反応

日本大学には日本大学病院、日本大学医学部附属板橋病院という2つの病院があり、そこで蓄積された豊富なデータをベースに、現場のニーズに応えるための研究開発を行っています。このように、異なる分野の研究を掛け合わせて社会に求められる技術を生み出そうという動きが活発なのは、多彩な学部からなる日本大学の特長です。『医工連携シンポジウム』もその1つで、医歯薬系や理工系などの研究者が集まり、それぞれの研究成果を持ち寄って学部の壁を超えた連携を模索する場となっています。私の研究発表を聞いた医学部教員から相談を持ちかけられ、新たなテーマで研究が始まることもあれば、「こういう画像データがあるとこんなこともできますよ」とお話しすると機会をみてデータを集めてくださり、研究が広がっていくケースもあります。

通行人の情報を記録・分析し、好みに合わせた商品提供を可能にする

ラーメンが生んだつながり。近隣地域が学びの場に

医療以外の分野では、AI・データサイエンスをマーケティングや店舗運営に生かす取り組みを進めています。例えば近隣のパン屋では、店頭にコンピュータを設置して店の前を通る人の数を性別、年齢などとともに自動でカウントし、より確実性の高い販売予測を目指しているところです。通行人の属性と気象情報を掛け合わせて分析することで、高精度に販売数を予測でき、食品ロスの削減に役立てることができます。24時間365日の計測で通行人の傾向を把握すれば、来店客の好みに合った商品提供も可能です。

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このような近隣の商店との関わりは、「習志野ラーメンカーニバル」の構想段階で、私からIT支援を申し出たことがきっかけで始まりました。習志野市はラーメン激戦区なので、ラーメンイベントを開催することで人を呼び込み、地元に活気を取り戻すねらいで企画しました。このイベントを後援していただいた縁から、商工会議所の方々とお付き合いが始まり、地域との交流が生まれたのです。ラーメンカーニバルでは、学生がホームページの作成やSNSでの情報発信なども担当しています。多くの人に来てもらうにはどうしたらいいかを考え実行していく活動は、マーケティングを実践的に学べる絶好の機会になっています。私の研究室では実際に社会で役立つテーマを扱うので、学生たちは楽しみながら研究に取り組んでいるようです。研究事例を見て、関心を持つ企業からの問い合わせも多くいただいています。企業とのつながりが生まれ、サンプル的な研究が本格的な研究に発展していく過程も体験できるので、学生にとって貴重な体験になっています。

AIを最強の相棒に。広がり続ける可能性を楽しむ

社会の困りごとをものづくりで解決

私はもともとコンピュータのシステムを作る会社に勤務しており、開発業務経験の他、2000年代当時Javaエンジニアが不足していたために、顧客ニーズを探りながら新規に教育事業を立ち上げた際に、マーケティングや経営に興味を抱くようになりました。企業で培ったシステム設計の技術とマーケティングの知識を、両方生かせる分野がマネジメント工学です。現在は楽しみながら、働く人の思いに応えるものづくりに取り組んでいます。

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経営の現場では、同じ状況でも人によって判断が異なるケースがありますが、AIは統一性のあるデータを学習しないと、正しい判断ができるようになりません。AIモデルを構築するうえで留意すべき点を考慮しつつ、ユーザーの要望に沿ったAIシステムの開発に努めています。また、使う人がうまく活用するためのサポートも大切なプロセスの1つです。企業や医療の現場でAIを役立ててもらい、喜んでもらうことが研究の原動力になっています。