過剰な免疫反応を示す自己免疫疾患と免疫を抑制する細胞の存在

臨床現場で役立つ治療につながる、未来のための基礎研究

免疫という言葉から、多くの方は細菌やウイルスを攻撃し、体を守る働きを思い浮かべると思います。しかし免疫は、強く働けばよいというものではありません。過剰な免疫反応は炎症を引き起こし、自己免疫疾患などさまざまな病気の原因になります。
免疫の研究では、かつては炎症を起こすリンパ球が主に注目されてきましたが、ノーベル賞を受賞した坂口先生が、免疫反応が過剰にならないよう抑制する「制御性T細胞」を発見した功績は非常に大きいものです。ウイルスや細菌などから体を守る免疫と、その働きを制御する細胞によって体のバランスが保たれていると言えます。私も臨床の現場で免疫疾患の患者と向き合う中で、免疫を抑える仕組みの乱れが病気に深く関わっていると感じ、免疫制御に焦点を当てた研究を続けてきました。

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ウイルスと自己免疫疾患の関係を追い続けて

HTLV-1とシェーグレン病の相関性に着目

私が現在取り組んでいる研究の中心にあるのは、HTLV-1というウイルスと自己免疫疾患との関係です。HTLV-1は九州地方を中心に感染者が多いウイルスで、神経系の病気を引き起こすことが知られています。私が長崎大学に在籍していた頃、この病気の患者を調べる中で、口や目が乾くシェーグレン病を併せ持つ方が多いことがわかりました。
シェーグレン病は、リンパ球が自分自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。通常は体に対する抗体が多く作られますが、HTLV-1に感染している患者は、その抗体が少ないという特徴が見られました。なぜ自己免疫疾患であるにもかかわらず、免疫反応が抑えられているのか。この一見矛盾した現象を解き明かしたいと考えたことが、現在の研究につながっています。

実験を重ね、ウイルス感染細胞が抗体の産生を抑えることを発見

研究を進める中で、HTLV-1に感染した細胞は、制御性T細胞とよく似た特徴を持っていることが分かってきました。免疫を抑える働きに関わるFOXP3などのタンパク質を発現しており、一見すると制御性T細胞と類似しています。しかし実験を行うと、HTLV-1感染細胞は、制御性T細胞とは異なり、抗体の産生をより強く抑える作用を示すことが明らかになりました。
つまり、同じような特徴を持ちながら、実際の働きには違いがあるということです。この違いがなぜ生じるのかは、まだ十分に解明されていませんが、免疫制御の新たな側面を理解する重要な手がかりになります。臨床で観察される現象を、試験管内の実験によって一つずつ紐解いていくのが私の研究です。

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基礎研究から臨床応用への広がり

HTLV-1感染細胞の特性が示す免疫制御研究の意義

HTLV-1感染細胞が制御性T細胞に似ていながらも働きが異なることを明らかにしたことで、今後はそのメカニズムの解明に注力していきたいと考えています。得られる知見は、ウイルスと自己免疫疾患の仕組みを解明するうえで重要であり、将来的には病気の治療法の開発にもつながる可能性があります。関節リウマチや炎症性腸疾患など、制御性T細胞の働きが関わる病気に対して、新たな治療の道筋を示す基礎研究になるかもしれません。
まだ制御性T細胞そのものを用いた治療は限られていますが、今回の研究成果を踏まえることで、HTLV-1感染細胞の特性を応用した新たな治療法の開発や、自己免疫疾患の病態解明が期待されます。基礎研究から臨床応用へとつなげる試みは、短期間では成果が見えにくいものの、長期的には医療の質を向上させる礎になると考えています。私はこのような研究を通じて、免疫の「抑える力」を科学的に解明し、将来的な応用につなげることを目指しています。

研究の灯を途絶えさせないために。若手研究者を育てるという挑戦

日本大学で続ける研究と次世代への思い

現在、HTLV-1と自己免疫疾患の関係をテーマに研究を続ける研究者はとても少ないです。研究を途絶えさせないことは大きな課題であり、私の使命だと感じています。HTLV-1については解明されたと思われていますが、私はまだ未解明の問題が多く、研究者として挑み続けることが重要だと考えています。志を同じくする若い研究者とともに研究を盛り上げていきたいです。
また、日本大学では、理工系の学部との連携も可能で、解析手法や研究方法を広げながら、基礎研究を発展させる環境があります。粘り強く研究を続けることが、将来の医療や治療法の発展に直結すると考えています。私自身、臨床や教育と並行しながら、この研究をライフワークとして続けています。
基礎研究には、すぐに結果が見えないこともありますが、未解明の仕組みを解き明かす挑戦は、新たな知見や技術を次世代へ伝える礎となります。私は、ここで培った知見をもとに、未来の医療や研究者育成に貢献したいと考えています。

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