我、プロとして

Vol.2 日テレ・東京ヴェルディベレーザ
長谷川唯(2019年文理学部体育学科卒)

卒業生
2020年08月26日

サッカー日本女子代表・なでしこジャパンのW杯制覇から9年。長年日本女子サッカー界を牽引してきた澤穂希の後継者と目されているのが長谷川唯だ。彼女のプレーは国内外から高い注目を集め、「世界最高のMFになるポテンシャルを秘める」と評されている。多彩なテクニックと豊富な運動量でなでしこジャパンを牽引する長谷川に自身のサッカー人生を語ってもらった。

サッカーで彩られた楽しい人生

長谷川は兄の影響でサッカーを始めた。物心がついた頃にはボールを追いかける日々を過ごしており、これまでの彼女の人生はサッカーで彩られていると言っても過言ではない。両親だけでなく周囲の環境にも恵まれていて、幼い頃から自由にのびのびと自分の好きなようにサッカーに打ち込んだ。

彼女のサッカー人生を振り返ると、大きな転機がこれまでに2度あった。

1度目はベレーザの下部組織である日テレ・メニーナのセレクション。2度目はメニーナの同期選手が先にトップチームへ上がったときだ。

「メニーナに入っていなければ今のプレースタイルやサッカー観は絶対になかったので、私のサッカー人生で1番のターニングポイントになりました。同期が先にベレーザへ上がったときは本当に悔しくて、でもその気持ちを力に変えることで飛躍的に成長できました」

このように聞くと「壁にぶつかった」「試練の時」などと一般的には捉えられそうだが、長谷川本人にそのような意識はない。できないことをできるように考え、練習することが何よりも楽しく、充実した時間なのだという。そして、この時間こそがその後のベレーザでの活躍、FIFA U-17W杯初優勝、なでしこジャパン初選出、まだ見ぬ未来へとつながっていくのだ。

大学4年時の長谷川選手。

大学4年時の長谷川選手。AFC女子アジアカップ・ヨルダン2018優勝メダルとともに

本学に入学したのは2015年。日出高等学校(現・目黒日大高)の恩師が文理学部体育学科の卒業生だったことが決め手となった。日中は学校に通い、夕方以降にベレーザの練習、週末に試合を行うという大学生活だった。

「体育学科は行事が多くて、楽しかったですね。印象に残っているのは大学3年時の課外活動・キャンプで、みんなでご飯を作り、寝袋にくるまったのはいい思い出です。週末に試合のある私はなかなか参加できませんでしたが、一つ一つの行事に本気で参加し、盛り上がる友人たちと学生生活を送れたのは素晴らしい思い出です」

文理学部体育学科には学生だけでなく指導者にも世界的なアスリートが多く在籍している。彼らの話を聞くことで、長谷川もサッカー選手としての幅を広げることができたそうだ。

若い女子選手にプロを目指してもらいたい

コロナウイルスの影響で、なでしこリーグだけでなく、東京オリンピックの延期も決定。自粛期間中はチーム練習もできない状況だったが長谷川に焦りや不安はなかった。それは元来落ち込まない性格ということもあるが、先述したとおり、サッカー選手として成長することが長谷川にとっての一番の楽しみだからだ。

「成長した自分を想像することで、今やるべきことが見つかる。だから私は常に先のことを考えています。もちろん自粛期間中に試合やチーム練習をしたいという思いもありましたが、自分の成長のためにしっかりとトレーニングができていたので、不安などはありませんでした」

リモート取材に答える長谷川選手

リモート取材に答える長谷川選手

自粛期間中は「UDN FOUNDATION」の活動にも力を入れた。これは長谷川が所属するUDN SPORTS(他にも香川真司、柴崎岳、橋岡優輝など多数のアスリートが所属)の選手たちが“自分を応援してくれるサポーターやファン、自分を支えてきてくれた社会に恩返しをしたい”という想いから生まれた次世代育成・社会貢献のプラットフォームだ。この活動で長谷川はファンとのオンライン交流、絵本の読み聞かせなどを行った。なかでも印象的だったのは高校生に今までの経験を語り、彼らの質問に答えた『オンライン授業』だ。この授業を通して、自分自身を目標とする高校生の多さを自覚することができた。

「彼女たちが職業としてプロサッカー選手を目指してもらえるようなプレー、発言、行動をしていきたいと感じました。そのためには女子がサッカーを続けられる環境を今以上に整える必要があります。あとは男子サッカー界でトップの選手や指導者が女子サッカーチームを指揮するなど、プレイヤー以外は男子と女子の垣根がなくなれば、さらに女子サッカー界が発展すると考えていて、その助けとなる活動もしていきたいです」

2020シーズンの目標。
そして東京オリンピックへ

日テレ・東京ヴェルディベレーザは昨季にリーグ5連覇、皇后杯を3連覇、リーグカップを連覇、さらにAFC女子クラブ選手権を制し、シーズン4冠を達成した。絶対女王として君臨するチームを率いるのは永田雅人監督で、長谷川にも大きな影響を与えている。

「永田監督からはポジショニングや守備の仕方など、それまでに想像もしなかったサッカーを教えてもらいました。本当に意味がわからないぐらいに最初は衝撃を受けたのですが、逆に昔は何を考えてサッカーをしていたのかと今は思うほどです。この2年半で自分のサッカーにとっていいものを一つ上乗せできたと実感しています」

今シーズンから新システムを採用しているベレーザ。もちろん勝つことは大事だが、チームとして進化するために、まさに今(8月6日現在)、新たな武器を手に入れようと奮闘中だ。そしてベレーザの進化は長谷川の成長を促し、来年に延期された東京オリンピックにも好影響を与えるだろう。

「個人的には世界を相手に自分がどれだけ成長したかを東京オリンピックで確認できるのが楽しみです。自分の思い描く成長曲線をたどれていれば、目標である金メダルにも近づくと思います。サポーターにはパスやシュートだけでなく、献身的な動き、一瞬の動き出しなどにも注目してほしいですし、楽しんでプレーしている私を、サポーターにも楽しんでもらいたいです」

1日1日を自身の成長のために大切に過ごしている長谷川唯。来夏、東京オリンピックのピッチ上で、なでしこたちの笑顔が数多く見られることを期待したい。それがきっと長谷川が思い描く女子サッカー界の発展に寄与するはずだ。

<プロフィール>
長谷川 唯(はせがわ・ゆい​)

1997年1月29日生まれ。2019年文理学部体育学科卒。宮城県出身。物心つく前に兄の影響でサッカーを始める。
2009年、日テレ・メニーナに入団。13年、日テレ・ベレーザに昇格。14年、FIFA U-17女子W杯では同大会の初優勝に貢献し、シルバーボールを獲得。15年に本学入学。同年、なでしこリーグの伊賀FC戦でリーグ戦初ゴール。17年、なでしこジャパンに初選出。19年FIFA女子W杯フランス大会代表。多彩なテクニックと豊富な運動量で世界から注目を集めるMFとして活躍中。