2022年、女子柔道界で強烈な輝きを放ったのが、修徳高校3年の宮木果乃選手だった。

3月の全国高校選手権を制すると、8月の世界カデ選手権で金メダルを獲得。さらに10月の講道館杯も大学生・社会人を相手に初出場で準優勝。極めつけは、代替選手としてIJFワールド柔道ツアー初出場となった12月のグランドスラム・東京での圧巻の金メダル。得意の背負投を武器にシニアの実力者たちを次々と破り、弱冠17歳が一気に頂点まで駆け昇った。

今年4月、スポーツ科学部に入学。その直後に行われた全日本選抜体重別選手権はまさかの初戦敗退となったが、悔しさをバネにこれからどれだけ大きく、強くなっていくのか。技と心に磨きかけるために、宮木選手はひたむきに柔道と向き合っている。

(2023年5月取材)

「投げて勝つ柔道」に憧れ、進む道を決めた。

柔道を始めたのは、5歳の頃、何か習い事をしたいなと思っていた時に、町の柔道場に通っていた友だちから誘われたのがきっかけです。両親は「好きなことをやればいいよ」という考えで、「やりたいことならば、全力でやりなさい」と言ってもらいました。

それまでは柔道のことは何も知りませんでしたが、チームプレイではなく、1対1で戦うっていうところがいいと思ったのと、相手を投げることができたときにうれしかったというのが1番大きいですね。

 

柔道は好きでしたが、最初はただ人より強くなりたいという思いだけで、何か成績を残したいというわけではなかったんです。でも、修徳に入った中学1年生の時に、先輩の付き人として全国中学校柔道大会に参加してその雰囲気を味わって、「自分もここで戦いたい」という思いが湧いてきました。そこから全国をめざすようになり、練習にもそれまで以上に打ち込むようになりました。

日本大学進学を決めたのは、上原(優香(ゆか)、旧姓・西田)先生が日大女子柔道部で指導をしているからです。コロナ禍で練習ができなかった時期に、以前から憧れていた西田選手(当時)が国際大会で戦っている試合を動画で見て、「こういう柔道をしたい、こういう選手になりたい」という思いがより強くなりました。私と同じように背負投と小内刈を得意技としていたところに魅力を感じたのと、「投げて勝つ柔道」というのが、私がめざしているところと同じだったというのが大きかったですね。

 

上原先生には、高3の東京都ジュニア体重別選手権の決勝で負けた(相手は、現在の1学年先輩、原田瑞稀選手)あとに、初めて声をかけていただきました。その後、高校にも来てくださって「日大でいっしょにやろう」と誘っていただき、いろいろお話をしました。

 

今はマンツーマンのような形でご指導いただいてますが、背負投を教えてもらっている時が一番うれしいですね(笑)。上原先生はポイントを細かく説明してくれますし、やさしくて上手くいくとほめてくれるので柔道が楽しいです。

 

「宮木選手には、いい意味でもっとわがままになりなさいと言っています」と話す女子柔道部の北田典子監督(スポーツ科学部教授)。上原コーチが、宮木選手がやりたいことを察して練習内容を提案している様子に、「2人は相性がいいと思います」。そして「上原コーチにも宮木選手をしっかり育ててもらって、2人でいっしょに世界へ行ってほしい」と、師弟コンビの成長に大きな期待を寄せている。

経験と反省を糧に、成長していきたい。

日大女子柔道部は、選手と先生の関係性がすごく良くて、何でも相談することができてアドバイスもいただけます。先輩方も同級生たちも本当に明るく元気で話しやすいですし、みんな一生懸命に練習するので、とても雰囲気が良くて柔道がしやすい環境だなと感じています。

 

スポーツ科学部での学びも充実しています。競技に関連した授業が多く、いろんな競技の人たちが集まっていて、どういうトレーニングをやっているのかなど、ディスカッションしながら知識を深めていけるので、自分の競技レベルを上げていくためにも必要なことを学べていると思います。

昨年は国際大会でも優勝できましたが、それまで海外の選手と試合をすることがなかったので、難しい部分がたくさんありました。日本人選手とは組み合えることが多いのですが、海外の選手は組むというよりすぐに技に入ってきますし、独特な組み手だったり、間合いも全然違っていたのですごいやりづらいなあって感じました。それでも勝てたのは、相手の状況を見ながらこうする、ああするっていうのを冷静に判断して試合の中で修正することができたからだと思います。

 

優勝はしましたが、自分の中では変化したところは何もなく、常に挑戦者側にいると思っています。ただ、周囲からの評価を気にしてしまったり、メンタル的に弱いところ−雰囲気に飲まれてしまう、試合で自分自身に集中すべき時に周りの目を意識してしまうなど−が自分でよくわかるようになってきたので、今後は修正していかなければいけないと感じています。そういう意味では、柔道家としてもう1段階上がるために必要な優勝だったかなと感じています。

 

4月の全日本選抜体重別選手権は初戦で負けてしまいましたが、準備不足だった部分が大きかったなと思います。高校から大学へと環境が変わったので、例えば準備の仕方も、高校生の時は先生に言われたことをやるだけだったのですが、大学では自分が主体となってやるというところで、自分のやり方を見つけられないまま試合に入ってしまったなと反省しています。自分の心構えから見直して、試合に向けてしっかり準備できるようにしていきたいと思います。

5年後の金メダルのために、勝ち切れる選手になる。

2022年12月、柔道グランドスラム・東京大会女子48kg級決勝で立川莉奈選手を攻める宮木選手(上)。

2022年12月、柔道グランドスラム・東京大会女子48kg級決勝で立川莉奈選手を攻める宮木選手(上)。

グランドスラム・東京で見せた快進撃。‘17年の阿部詩選手(パーク24)以来となる高校生チャンピオン誕生という快挙に、一躍、パリ五輪候補と目されるようになったが、宮木選手自身は現状を冷静に把握し、2028年ロサンゼルス五輪での金メダル獲得に照準を合わせている。

*6月30日にパリ五輪女子48kg級は角田夏実選手が代表に内定。

五輪をめざすには、まだ自分の実力が足りていないですし、上にいる方々のレベルには達していないと思っています。まずはシニアの国際大会で成績を残して、代表選考へアピールしてくことが大事だと考えています。

 

これからの4年間、今まで通り1つ1つの大会を大切にし、一歩一歩前に進んでいくというのを大切にしながら、試合や練習に取り組みたいと思っています。同時に、シニアのレベルで戦っていくためには、筋肉量を増やしてパワーをつけたり、柔道の面でも技術を増やしたり投げ切る力、取り切る力も身につけていきたいと考えています。

 

そのために、今はウエイトトレーニングなどを多く採り入れています。高校時代にちゃんとやったことがなく、先生方から「体の力がない」と指摘されていますし、自分自身も感じていたところなので、まずは基本的なところからやっています。トレーニングをやる曜日は決まっていますが、時間がある時に何かをするのが大事だなと思って、とにかく暇があればトレーニングをやっています(笑)。

「すごい負けず嫌いです」という宮木選手。「試合に負けると引きずります。次の試合までずっと、負けた悔しさを持ったまま練習しています(笑)」

「すごい負けず嫌いです」という宮木選手。「試合に負けると引きずります。次の試合までずっと、負けた悔しさを持ったまま練習しています(笑)」

女子柔道部に練習に来られている素根(輝、スポーツ科学部・3年)選手(東京五輪2020・女子78kg超級金メダリスト)とは、まだちゃんとお話することができていませんが、聞いてみたいことはいっぱいあります。試合で緊張した時にどういうことを考えているのかとか、練習の時にうまくいかなかった時はどうしているのかとか…。試合場に上がる時の気持ちとかも聞いてみたいです。

 

今年の目標は、全日本ジュニア体重別選手権を勝って、世界ジュニア選手権に出場して優勝することです。そのほかの大会も、出場したら必ず優勝するんだっていう強い気持ちを持って臨みたいですし、(日本柔道連盟に)派遣してもらった試合で優勝してアピールすることが将来につながると思うので、優勝に近づくための地力をつけるっていうのが大事だなと。たまたま勝ったからいいっていうのではなく、どんな試合でも必ず勝ち切れる選手になりたいと思っています。

北田監督は言う。「もっと貪欲になってほしい。そして、誰からも応援され、誰からも愛されるチャンピオンになってほしい」と。その屈託のない笑顔と「一本を獲る柔道」で、宮木選手が多くの人を魅了する柔道家として成長していくことを願って止まない。

Profile

宮木 果乃[みやき・かの]

スポーツ科学部・1年。2005年生まれ。東京都出身。修徳高卒。5歳で柔道を始めてからメキメキと頭角を現し、中学2年で全国大会優勝。高校進学後の活躍も目覚ましく、3年生となった2022年は全国高校選手権優勝に続き、世界カデ選手権金メダル、講道館杯準優勝。12月のグランドスラム・東京の女子48kg級でも金メダルを獲得して注目を集めた。得意技は背負投。

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