プロ野球セ・パ交流戦2024を制した東北楽天ゴールデンイーグルス。
その運営を行う株式会社楽天野球団に、今年4月、本学準硬式野球部の卒業生が入社した。
プロ野球の仕事に携わりたい-難易度が高いその夢を叶えた彼の原動力は、
子どもの頃からの一途な思いと感謝の気持ちだった。
(2024年6月取材)
プロ野球の世界で働く姿に憧れて

本学の準硬式野球部で外野手としてプレーしていた阿部さん。高校では“野球をやらされている”という感覚だったが、「プレーについて自分で考え、研究して成長していくというやり方が、ひとつの学びでした」という。
日大東北高校の野球部で甲子園出場をめざしていた頃から、阿部隆良さんは「克己心」という言葉を大事にしてきた。己に打ち勝つ心、すなわち自分の欲を制しながら目標に向かって突き進む強い気持ち、精神を表す言葉だ。すごい負けず嫌いなので、野球も、とにかく周りに負けたくない一心でやっていました」という阿部さん。プロ野球選手になるのが夢だったが、高校を卒業する前には、それは現実的ではないと悟った。代わりに「プロ野球の球団で働きたい」という、心に秘めていた夢が目をさました。
きっかけは、小学生の頃、在京球団で通訳を務めていた父親の知人との出会い。試合を見に行った球場で、チームの選手たちに混じり、その人が働いている姿を見た時、「好きなことに、仕事として関われるのがいいな」と、子ども心に強く印象に残ったという。

本学入学後は、1年近く遅れて準硬式野球部に入部し、野球と学業の両立に努めた。3年生の時、チームは全日本大学選手権で優勝したが、自身はベンチ入りメンバーに入れず、応援のためスタンドにいた。
「チームが日本一になるため全力でサポートしたつもり」だったが、内心はグラウンドに立てない悔しさの方がはるかに大きかった。その悔しさを糧に、大学最後の1年間は懸命に練習をした。翌年の同大会、連覇に向けてチームが勝ち上がっていく中で、出場機会は多くなかったものの、このチームでプレーする喜びをグラウンドで味わうことができた。そして「このチームメイトたちとプレーできて良かった」と感じた。
「球団職員」一択だった就職活動
就職を考える時期を迎え、企業の合同説明会などにも参加したが、野球に関わる仕事をしたいという思いは変わらず、「プロ野球の球団職員になりたいという気持ちが強くなっていきました」という阿部さん。しかし、日本のプロ野球12球団で、新卒採用を定期的に行っている球団はほとんどなく、その時に募集をしていたのは2球団だけ。考えた末に、一縷の望みをかけて楽天野球団だけにエントリーシートを送った。野球以外のプロスポーツチームや一般企業の採用試験を受けることはせず、まさに一発勝負だった。
「ちょうど春季リーグ戦の時期が重なっていて、多くの会社を受ける余裕がなかったこともあり、楽天野球団一本に絞っていました。もしダメだったら、どこかの会社で社会人としてのキャリアを積んで、いつかはプロ野球の球団で働きたいと思っていました」
エントリーシートが選考を通過し、「全集中しよう」と臨んだ面接試験。阿部さんは、福島県出身者として「東北に貢献したい」という気持ちと、野球を通じて経験し、感じたことを熱弁した。「日本一をめざす楽天イーグルスを、球団職員がサポートするという点で、自分の経験と重なるものがありますし、会社という組織では個人プレーよりチームプレーが求められると思ったので、大学日本一に向けてサポートに徹した時のことなどを話しました」
熱い思いは面接官に伝わり、やがて朗報が届いた。冒険的な就職活動にも関わらず、就活をサポートしてくれた姉や応援してくれた両親には、「長い間、野球を続けさせてもらったので、絶対に恩返しをしたかった」と感謝の言葉を口にした。
大学4年時、アスレティックセンター八幡山で行われている、子どもたちを対象にした「スポーツ体験プロジェクト」にボランティアとして参加。それまで子どもと接する機会がなく、「最初は戸惑いがあった」というが、何回か顔を合わせた子どもからは名前で呼んでもらえるようになり、都合により欠席すると次回に「何でいなかったの?」と問われるなど、子どもとの距離感は縮まっていた。卒業前、最後に参加した時は「“寂しいなぁ”っていう感覚がありましたね」と振り返った。
夢があるなら突き進んでほしい
今年4月、念願の球団職員としての生活が仙台でスタートした。入社して2ヶ月、正式配属はまだ決まっておらず、各部署で業務を通じた研修を受ける日々が続く。希望は「チーム帯同する仕事やメディア取材の調整など、グラウンドの近くで仕事をしたい」と語った阿部さん。「チームの優勝と日本一に、少しでも貢献できるようにがんばりたい。野球人口や野球ファンが減ってきているので、大学時代に子どもたちと接したボランティア経験を活かし、その拡大にも携わりたい」と意気込む。
職場の先輩からも、「これから失敗や苦労もあると思うけれど、それは成長に必要なこと。前向きに挑んでいってほしい」(コーポレート本部・川上桃花さん)と、阿部さんにエールが贈られる。
最後に、阿部さんから本学の後輩たちへメッセージをもらった。
「私がそうだったように、やりたいことや夢が見つかっているなら、そこに向けて熱意や気持ちを全力でぶつけていけば、何とかなる。一度ダメだったとしてもあきらめず、夢に向かって何度でもチャレンジしてほしい」
そう言う自分も、まだ夢の舞台に立っただけで何も為してはいない。だが、野球への情熱と球団職員のチームワークで、東北を再び野球で熱くしてみせる。「克己心」を胸に、阿部さんの新たなチャレンジが始まる。
Profile
阿部 隆良 [あべ・たから]
大学4年時、2001年生まれ。福島県出身。日大東北高卒。2023年度商学部卒。小学3年生から野球を始め、高校3年の夏は県大会決勝で敗れ甲子園出場を逃す。本学では準硬式野球部に所属し、3年時に全日本大学選手権で優勝、4年時は準優勝を経験。