日大に入学してから急成長し、オリンピック代表にまで昇り詰めた原沢久喜選手。
彼の才能を見出し開花させた2人の恩師、金野潤日大コーチと賀持道明JRA監督。
リオを目指し、ともに闘ってきた3人に話を聞いた。

トレーニング

金野 オリンピック代表おめでとう。本当に成長した。とくにこの一年はいい試合続きだった。

 

原沢 ありがとうございます。これも日大やJRAで鍛えていただいたおかげだと思っています。

 

賀持 いや本人の努力のたまものだよ。初めて見たときから、いつか日本を背負って立つ選手になるという直感があったものの、期待していた以上の選手に育ってくれて我々も本当に嬉しい。

 

金野 私が原沢選手を初めて見たのは早鞆高校3年時の春の高校選手権でした。個人戦の3回戦で負けてしまったんですが、目力がありましたし、下半身が柔らかくて、線が細いわりに力強さがある選手だなと印象に残ったのを覚えています。賀持監督が彼を初めて見たのはいつ頃でした?

 

賀持 確か高3の時の全日本合宿でしたかね。当時私は全日本ジュニアのヘッドコーチをしていて、彼が合宿にやってきたんです。その時は申し訳ないんだけど名前すら知らなくて。でも稽古を見てすぐこの子は強くなると思いましたね。黙々と練習に打ち込んでいたし、強い選手にどんどん自分から当たっていく姿勢とか、気持ちの強さも感じられましたから。

 

金野 ただ、体は細かったですね。

 

原沢 金野先生に初めてお会いした頃はまだ90kgなかったと思います。

 

金野 それが数カ月後に山口県へスカウトしに行った時はもう100kgを超えていた。あの時、高校の監督から「この子はまだまだ伸びる。しっかり投げて勝つ選手に育ててほしい」と頼まれまして、これはこちらの責任は重大だぞと。

 

賀持 当時の原沢選手は下半身は強いんだけど、上半身がまだぺらぺらで力強さがなかった。逆にその分体ができあがれば、一線級の選手になる予感はありましたね。

 

原沢 お二人のいまの話は後になって聞いたんですが、当時の自分はそこまで自分に自信を持てるような結果も残せていなかったので、なんか不思議な感じがしました。見る人が見れば分かるものなのかな? と他人事のような感じで。

妥協のない練習が彼を成長させた。

トレーニング

金野 我々の予感通り、日大に入って体ができてくると、試合にもどんどん勝てるようになっていきました。彼が伸びてきた一番の要素はとにかく妥協しないところ。トレーニングでもなんでも本当に愚直なまでに一つひとつ一生懸命にやるんです。いまもその姿勢は変わっていないですけれども、強い相手にも向かって行くし、弱い相手にも手を抜かない。そういう意味ではスキのない選手なんです。

賀持 JRAに入ってからもそう。どんなに疲れていてもこちらで作ったメニューをちゃんとこなす。自分のやるべきことはしっかりやるんです。

 

原沢 JRAの柔道部には昔から馬事公苑のダート(砂)の馬場を1時間走るメニューがあります。あとはタイヤ引きとか。おかげで大学時代よりもさらに足腰が鍛えられました。試合後半になっても組み手争いに負けなくなったり、前に出られるスタミナも、そこで作られたのかもしれません。

平常心で金メダルをつかみ取る。

原沢選手

原沢選手

原沢 昨年の全日本選手権で優勝して、オリンピックという目標が見えてきました。だからといって特別なことをやろうと思ってできるタイプではないので、いままで通りのやり方で稽古をし、試合に臨んできました。ただ、オリンピックに出たいという強い気持ちだけはありました。ライバルとの代表争いの中で「最後は気持ちの強い方が勝つ」とまわりからも言われていましたし、自分もそう信じていましたので。

 

金野 そこが原沢選手のいいところなんです。彼ならオリンピックの舞台でも普段と変わらない気持ちで戦えると思う。しかも日本柔道が目指す一本を取る柔道で。100kg超級にはロンドン五輪の金メダリストで、絶対王者と呼ばれるリネール選手がいますが、彼ならしっかり投げきって勝ってくれると思います。私の勝手な願いではありますが。

 

賀持 まずは万全の状態で8月12日を迎えてもらいたい。あとは自分の満足のいく柔道が取れれば、確実にメダルは取れる。相手選手の研究とか、私たちにできるサポートは全力でするつもりです。リオでは絶対に優勝すると私も信じています。

 

原沢 自分自身は勝ち方とかには特にこだわってはいません。どんな勝ち方でもいいからとにかく勝ちたい。オリンピックも普段通りに平常心で。日本に金メダルを。

Profile

賀持 道明(かもち・みちあき)
1970年生まれ。埼玉県出身。埼玉県立大宮工業高校卒。法学部政治経済学科卒。日本中央競馬会(JRA)所属。日大時代の1990年に世界学生選手権優勝、1991年に正力松太郎杯国際学生大会と講道館杯、アジア選手権大会で優勝するなど、数々の実績を残す。2012年に全日本の男子ジュニアヘッドコーチを務めた。

 

 

原沢 久喜(はらさわ・ひさよし)

1992年生まれ。山口県出身。早鞆高校卒。法学部政治経済学科卒。日本中央競馬会(JRA)所属。191cm・123kg。高校3年時に100kg超級で3位。日大進学後に成長し、2012年のベルギー国際大会優勝。2015年JRAへ。同年の全日本選手権100kg超級で優勝以後、柔道グランドスラム4大会で金メダルを獲得。2016年の全日本体重別選手権でも見事に優勝を飾った。


金野 潤(こんの・じゅん)

1967年生まれ。東京都出身。日大一高卒。文理学部体育学科卒。総合社会情報研究科人間科学専攻終了。文理学部准教授。日大時代から無差別級の選手として活躍し、同年代でオリンピックのメダリストとなった小川直也としのぎを削る。全日本選手権には12度出場し、1994年、1997年と2度の優勝を飾っている。

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