日本サッカー界における「大学サッカー」の重要度は、高まる一方だ。

高校サッカーで埋もれた才能を、4年間かけてもう一度引き上げる。サッカーを真剣に楽しむ場を4年間提供し、選手個々の可能性を広げる。さらに、技術的、メンタル的な成長を促してプロの世界に“即戦力”を送り込む。

かつては高校卒業と同時にサッカーの道を諦める選手も少なくなかったが、近年の大学サッカーの充実によってその傾向は大きく変わった。プロの世界においても、大卒選手を抜きにしてチームを編成することはできない。もちろんこの先も、大学サッカーのより一層の充実は日本サッカーの発展に不可欠な要素だ。

中でも今、創部90年の歴史を誇る日本大学サッカー部が注目を集めている

最大のトピックは、2017年にリニューアルされた『アスレティックパーク稲城』だ。東京ドーム2.7個分の広大な敷地内にサッカー専用の人工芝グラウンドが完成し、2019年7月には国内最高レベルのトレーニング施設『パフォーマンスセンター』もオープンした。最新鋭のトレーニングマシンがそろう「パフォーマンスアリーナ」やメディカルスタッフが常駐する「コンディショニングルーム」は“プロ以上”の施設と評判だ。敷地内に新設された寮には、栄養士によって管理された食堂もある。

近年、本学は「スポーツ日大」を掲げ、いわゆる体育会競技部の強化を進めてきた。34の体育会競技部には、日本のトップ、あるいは世界のトップを狙うアスリートが多く在籍しているから、彼らを全面的にバックアップするため、国内最高レベルの環境を整えることは大学にとっての念願だった。『アスレティックパーク稲城』には、スポーツに懸ける本学の思いが詰まっている。

もちろんサッカー部も、そうした大きな流れの中で確かな一歩を踏み出そうとしている。

2019年はグッドニュースが続いた。2月にはMF金子拓郎(法学部/前橋育英高出身)の北海道コンサドーレ札幌加入が発表され、さらに6月には、MF舘 幸希(文理学部/四日市中央工高出身)の湘南ベルマーレ加入が発表された。

もちろん彼らにとっても、『アスレティックパーク稲城』の存在は大学サッカーを最大限に満喫する上で不可欠なものだった。舘が言う。

「僕たち4年生は、この施設が少しずつ完成していく様子を“当事者”として見てきて、自分たちの選手としての意識が徐々に高まっていくことを感じていました。パフォーマンスセンターは今年6月にオープンしたばかりですが、トレーニング機器だけではなく、アイスバスなどのケア環境も整っています。施設内にはトレーナーさんや栄養士さんが常駐しているので、専門的なアドバイスもすぐに受けられる。そうやってここにあるものを活用しようとするうちに、自然とサッカーに対する意識が高まっていった気がします」

設備の充実が、アスリートとしての選手の意識を高める。金子もその意見に同調する。

「確かに、背筋が伸びる感覚はありましたね。全面人工芝のサッカー場があって、パフォーマンスセンターにはレーニングルームやケアルームがあって、食堂もある。これだけの設備が整っているからこそできるトレーニングがあるし、それは間違いなく、選手にとってプラスだと思います」
 

北海道コンサドーレ札幌へ2020年加入が内定した金子拓郎選手

プロになるために大学進学した金子拓郎選手。日大サッカー部で夢を叶える準備をしっかりと整えた

プロになるために大学進学した金子拓郎選手。日大サッカー部で夢を叶える準備をしっかりと整えた

群前の名門、前橋育英高出身の金子は、高校時代から注目された有望株だった。

3年時には主力として冬の全国高校サッカー選手権でベスト8入り。しかし、屈指のドリブラーとして高く評価されたものの、強く願っていたプロ入りの夢は実現しなかった。それでも「少しでもプロの世界に近づくため」に関東の大学への進学を希望し、セレクションを受けて本学に進学した。

「もし自分が高卒でプロになったとしても、通用しなかったと思います。そういう意味で、日大での4年間はすごく重要でした。試合に足を運んでくださるスカウトの数が違うから、プロを目指す選手にとっては関東リーグ1部の常連校でプレーするほうが有利かもしれません。でも、それがプロになれるかどうかの直接的な理由にはならない。とにかく自分次第。どんな舞台でも、全力で取り組めば必ず誰かが見てくれる。僕は日大で、しっかりと準備を整えられたと思っています」
 

2020シーズンの湘南ベルマーレへ加入が内定した舘幸希選手

館選手は、大学入学時プロになることなど全く考えていなかった。日大サッカー部での4年間が彼の埋もれた才能を開花させた

館選手は、大学入学時プロになることなど全く考えていなかった。日大サッカー部での4年間が彼の埋もれた才能を開花させた

舘も同じく高校サッカー界の名門・三重の四日市中央工高出身だが、本人いわく、金子とは違って「プロになれる可能性がまったくなかった選手」だった。

それでも、センターバックからボランチにコンバートされると、才能が開花。本学では1年時からポジションを獲得し、地道な努力を続けてきた。4年生になった時点でプロ入りの話はなかったから、就職活動にも取り組んでいた。そんな時に湘南ベルマーレから練習参加の打診があり、トントン拍子で加入内定が決まった。

「ベルマーレには『選手と直接話してから加入内定を決める』という方針があるらしく、僕自身も、プレーだけではなく人間性を評価してもらったと聞きました。その部分は、間違いなく日大に来て成長させてもらったところです。だから嬉しかったですね。日大に来て、サッカーを続けて良かった」

本学サッカー部は長年、34もの体育会競技部がある学内での評価を高めることに力を注いできた。それを実現することで、国内トップアスリートが在籍する他部活と同様に大学側からのサポートを得たいと考え、特に“ピッチ外の姿勢”を正すことを強調した。授業にきちんと参加し、熱心に取り組むことを徹底して大学生としての本文を強く意識づけた。

すると、次第に「サッカー部の学生は素晴らしい」という声が広がり始め、大学側の全面的なバックアップを得られるようになった。2019年度は関東2部リーグを戦場としているが、舘や金子のように、サッカーに取り組む姿勢はプロのスカウトからも一定の評価を得ている。

そうした“姿勢”について、2人は寮生活のメリットを挙げた。
金子が言う。

「自分たちが2年生になるタイミングで敷地内に寮ができたのですが、とにかく練習に通いやすいし、空いた時間を活用してトレーニングすることができる。1年生の頃に住んでいた寮は10人部屋だったので、1人部屋の今とは全く違います(笑)」

舘もまた、時間的な余裕が成長につながったと話す。

「やっぱり、通わなくていいというのが大きい気がします。1年生の頃は毎日4時半には起きて、準備をして、電車に乗って移動してという毎日でした。少しでも時間的な余裕ができたことが大きいし、食堂では栄養バランスが考慮された食事が提供されているので本当に助かっています」

サッカー部の1日はハードだ。寮生は朝5時前には起床し、週1度の当番の際には6時にグラウンドに出て掃除に取り掛かる。朝練習は6時半からスタート。終わったらきっちりと授業をこなし、午後の練習に臨む。試合日には運営、応援、マネージャー業務をこなさなければならず、もちろん試合もある。合言葉は「115名、全員で」。生半可な気持ちではついていけないが、「キツい」という理由で退部を希望する者はいない。おそらく、充実感が日々の大変さを上回っているのだろう。

J1チームに加入内定した両選手のビジョン

本学は2019年は関東リーグ2部、2018年度は東京都リーグ1部、2017年度は関東リーグ2部、2016年度は東京都リーグ1部と、リーグ間の行き来を繰り返している関東大学サッカー界の中堅チームだ。目標とする関東リーグ1部になかなか手が届かない現状は、プロを目指す選手にとって難しい状況と言えるかもしれないが、金子も舘も、プロの世界への道を切り開くのは「自分次第」と強調した。

金子が言う。

「確かに、試合に足を運んでくださるスカウトの数が違うので、プロを目指す選手にとっては関東リーグ1部の常連校でプレーするほうが有利かもしれません。でも、僕自身の経験を通じて、それがプロになれるかどうかの直接的な理由にはならないということがわかりました。やっぱり、とにかく自分次第。どんな舞台でも、全力で取り組めば必ず誰かが見てくれるし、評価してくれるのではないかと思っています」

舘も同調する。

「僕もそう思います。誰にでもチャンスがあるという考え方は、日大サッカー部“内”にも浸透しています。プレーだけじゃなく人間性や生活態度も見られているので、努力すれば試合に出られるチャンスがあるし、試合に出られればその先のチャンスが広がってくる。そういう環境は、僕みたいに高校時代にまったく可能性がなかった選手にとってはめちゃくちゃ良かった。すごく単純かもしれないけれど、頑張った分だけちゃんと評価してもらえる。それが日大のいいところだと思います」

プロの世界に飛び込む2人の目標は、違うユニフォームを着て1つのボールを追いかけること。「1年目から試合に出て勝負したい」と力強く意気込みを語った。

もちろん、彼らに続こうとする後輩たちが今日も『アスレティックパーク稲城』で汗を流している。日大サッカー部の挑戦は、ここからが本番だ。

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