2026年1月2日(金)・3日(土)に行われた第102回東京箱根間往復駅伝競走(箱根駅伝)。3年連続92回目の出場を果たした日本大学陸上競技部特別長距離部門は、チーム一丸の“総合力”で総合10位に入り、12年ぶりとなるシード権をつかみ取った。往路9位での芦ノ湖スタートから、大手町のゴール直前まで繰り広げた熾烈なシード権争いまで、全力でタスキをつないできた後半5人の選手たちに、レースを振り返ってもらった。

前との差が開くも6区(20.8km)山下りを完遂

往路9位でつないできたタスキを、必ず10位以内で大手町に届ける。チーム全員の思いを託されて、芦ノ湖のスタート地点を飛び出して行ったのは、山口ツインズの弟・山口聡太選手(文理3・佐野日大)だった。
初めての箱根駅伝出走が、国道1号線最高地点まで4.5kmの登りと約16kmの下りに対応しなければならない難コース。12月の壮行会時に「どこでも走れる準備をしている」と話しており、「下りには自信があったし、一応6区も想定していました」と、往路を終えた前夜にエントリー変更での出走を告げられた時も、心構えはできていたという。
「前を走る駒沢大(7位)と創価大(8位)の選手が速いのは分かっていたので、しっかり前を追っていこうという思いでスタートしました」と、後続は気にせずに自分の走りに徹した。しかし、スタート時に58秒だった創価大との差は芦ノ湯のポイントで1分31秒差に広がり、区間新記録に迫るスピードで走る両校の背中は次第に遠のいていった。

「下りに入ってから、しっかり切り替えようと思って走っていたんですが、上手く切り替えられなかった。もうちょっと下りで行けたと思うので、その点は悔しかったです」と唇を噛んだ聡太選手。終始、単独走で箱根の山を下ってきた区間15位で小田原中継所でのタスキリレーを完了。総合順位は9位をキープしたものの、創価大との差は3分29秒に広がり、その一方で、予選会トップ通過の中央学院大が58秒差の10位に浮上、神奈川大、東海大の実力校もそれぞれ50秒ほどの差で続く。ボーダーラインでの熾烈なシード権争いがいよいよ始まった。

7区(21.3km)の好走でシード圏内をキープ

前夜にエントリー変更が伝えられ、「覚悟はしていたので、しっかり気持ち作って走ることができました」と、初めての箱根駅伝を振り返った天野啓太選手(法3・岡崎城西)。11月の日体大記録会で良い走りができず、12月にはインフルエンザにも罹って「走れるかどうかも分からない状況にあった」というが、「あきらめずにしっかりここまでやってきた。去年はケガで苦しい思いもしたけれど、めげずにやってきたことが、今回の走りにつながって良かったなと思います」。

小田原中継所の時点で8位・創価大と3分29秒差。「ちょっと差が開いていたので、前を追わずに自分の走りを淡々としていくこと考えていました」と言い、「シード権を確保するために、後ろのチームとの差を広げることを意識して走っていました」。

アップダウンの多い7区で最もきついと言われているのは12km手前からの押切坂だが、天野選手は「9km手前のなだらかな上り坂が少しきつかったけれど、下り坂で回復できた。二宮の坂はリズム良く登ることができて、気づいたら終わっていたという感じでした」と、快調な走りを見せた。

後から追ってくる選手とのタイム差が気になっていたところ、「途中で監督から、前とは詰まっているし、後ろとも広がっていると言っていただいたので、自信を持って攻めた走りをしようと思いました」
実際、二宮(11.6km)のポイントでは8位・創価大と3分39秒差、10位中央学院大と1分9秒差だったが、大磯(18.3km)では、8位と2分54秒差に縮め、10位とは1分35秒差に広げていた。

最後まで力強い表情で走り切り、平塚中継所に飛び込んできた天野選手。8位とはさらに1分以上詰めて2分21秒差、10位とは1分41秒差でのタスキリレーとなり、区間9位の素晴らしい走りを披露した。
「(運営管理車に乗る)監督に『よくやった!』って言われました。その時タイム差は分かっていませんでしたが、後ろを引き離してタスキをつなげたので、自分の役割をしっかり果たすことができたと思いますし、その点はとても満足しています」と、言葉を弾ませた。

粘りの走りも10位に後退、風雲急を告げる8区(21.3km)

2年生の時から2年連続で山下りを担ってきた山口月暉選手(法4・鳥取城北)。3度目の箱根駅伝で任されたのは、終盤に箱根山中に次ぐ難所と言われる「遊行寺の坂」が待つ8区だったが、「調子的にはかなり良くて、自信を持って走れるなと自分の中では思っていました」。

しかし、ポイントを通過するごとに後ろを走る中央学院大との差が縮まってきた。茅ヶ崎(6.7km)ではまだ1分31秒あったが、試練の上りが始まる遊行寺坂(15.6km)で51秒差に縮められる。「遊行寺の坂を登りきったところから、流れを切り替えられず自分のペースで走ることができなかった」と、戸塚中継所まであと3kmの影取では10秒差に肉薄された。さらに、往路17位で芦ノ湖一斉スタートだった帝京大が驚異の追い上げを見せ、日大・中央学院大を追い越して見た目の順位9番目で戸塚中継所を通過。最後の下りで中央学院大にも先行を許した山口選手は、13秒差の10位で中澤主将へタスキを手渡した。シード圏内は死守したものの、11位・東海大との差は1分、本学の23秒前に戸塚を飛び出していった帝京大も1分54秒差の12位に浮上してきた。

「往路からずっといい流れで来ていましたが、自分のところでブレーキになってしまった。タイムの貯金をほとんど使ってしまい、申し訳ない形になってしまいました」と無念の表情で語った山口選手。混沌とした様相を呈するシード権争い、その命運は終盤を走る2人の4年生に託された。

食らいついて再浮上、意地を見せた9区(23.1km)の攻防

“戸塚の壁”を勢いよく下っていくファイヤーレッドのユニフォームを視野に入れ、スタートした中澤星音選手(経済4・一関学院)。「あまりにも速くて途中で見えなくなってしまって…(笑)。今見える相手をしっかり追って、絶対に追いつかないといけないと思っていました」と、数十メートル先を走る黄色い背中を懸命に追いかけた。

2度目の9区。一昨年、2年生で初めて箱根路を走った時は、鶴見でタスキをつなぐことで精一杯だった。3年生の主将として臨んだ昨年はケガの影響で走ることができず、チームも最下位に沈んだ。何もできなかった悔しさを糧に、「主将としても選手としても、チームに貢献したい」という強い思いで練習に取り組んできた1年間。9区でのリベンジを希望する中澤選手と、勝負所での粘り強さを期待する新雅弘監督の考えが一致した。

権太坂(7.7km地点)のポイントでは、9位・中央学院大との差が21秒に広がり、11位・東海大とは56秒差、12位・帝京大とは1分12秒差だったが、「後半もしっかり戦っていけるところが自分の強みなので、ラストでしっかり抜き切れるようにしよう」と、自分を信じて前を追う。しかし、横浜駅前(14.5km地点)の計測では、9位と26秒差に広がる一方、11位に浮上した帝京大が37秒差まで迫ってきた。その後ろも27秒差で東海大が続いている。まさに正念場だったが、「監督から『前がシード権だ』と声掛けがあって、ちゃんと追いつかないといけないと思った」と気持ちを奮い立たせた。
第二京浜道路に入ってから少しずつペースを上げて前との差を詰めていった中澤選手は、「沿道の応援が本当に力になりました」と生麦(20.2km)のポイント前でついに中央学院大に追いついた。そこからのラスト3kmは、互いのプライドを賭けて並走。ラストスパートで鶴見中継所のある側道に駆け込んだ中澤選手は、3秒早く先着して9位に再浮上。「行け!みたいな声を掛けたと思いますが、限界すぎてよく覚えていません」と、4年間苦楽を共にしてきた副主将の大仲竜平選手にタスキを託した。

前回9区を走った時より約2分も短縮した1時間9分33秒(区間13位)というタイムに中澤主将は、「最初に走らせてもらった時は、個人としてすごく悔しい結果だったので、今回リベンジをさせていただき、多少なりともチームにも貢献できたので良かったと思います」と、充実した表情で喜びをかみしめた。

アンカー勝負の10区(23.0km)、残り4kmの仕掛けで歓喜をつかむ

「1区から9区まで、いい形でタスキをつないできたので、最後は自分が大手町に最高の形で持っていこうと思っていました」と、鶴見中継所でタスキを受けた時の気持ちを語った大仲竜平選手(スポーツ科4・北山)。すぐに追いついてきた中央学院大・成川選手と並走して9・10位争いをしながら、シード圏内まであと13秒に迫ってきた約2分前を走る11位・帝京大のタイムとも競う、三つ巴のレースが展開された。

2年前の100回大会でも10区を走った経験から、勝負は残り5kmからだと考えていた大仲選手。互いに譲らない並走が10km以上続き、「どこで前に行こうかなと頭の中で考えつつ、相手の顔色を見ながら走っていました」。すると、新八ツ山橋のポイントで帝京大がタイム差を逆転し、7秒の差をつけて見た目通りの総合9位に上がったとテレビ中継が伝えた。シード権を賭けた中央学院大とのマッチレースはさらに続いていくが、18.7km地点で勝負が動いた。

後方から追いついてきた関東学生連合の選手が前に出ていくのに合わせて、大仲選手がギアを上げて前に出る。「相手の顔がきつそうだった」と見てのスパートに成川選手はついて来ることができず、一気に両者の差が開いた。
馬場先門(20.1km)のポイントで16秒のリードを持った大仲選手は、最後の直線で2度後ろを振り返って誰もいないことを確認すると、そのまま両手で小さくガッツポーズをしながらフィニッシュラインのテープを切った。
前回タイムから1分以上も速い1時間9分40秒でゴールし、中澤主将と山口月暉選手に抱えられながら涙を流した大仲選手は、その瞬間を「めちゃくちゃ気持ち良かったです」と答え、満面の笑みを浮かべた。

復路タイム(5時間28分56秒)は、総合16位に終わったが、「シード権争いをする」というチーム目標に対して「シード権獲得」という最高の結果で応えた選手たち。「古櫻復活」は確かになったが、それはまだ満開とは言えない。予選会免除となる2027年の箱根駅伝で、さらに美しい櫻が咲き誇ることを期待せずにいられない。

ニュース一覧へ