2027年正月の箱根駅伝で「シード権を獲る」ことを目標に掲げる日本大学陸上競技部特別長距離部門。大学三大駅伝に臨む機会を得た秋シーズンに向けて、現在のチーム状況をどのように感じているのか。夏の北海道合宿が佳境を迎える中で、新雅弘監督と武者由幸コーチに話を聞いた。
(取材日:8月24日)

チーム力の底上げが結果につながっていく

昨年の釧路合宿取材時、武者コーチは「チームとして足りないことがいっぱいある」と話していた。1年後の今はどうなのかを尋ねると、状況は当時とはまた異なるという。
「あの時はまだまだだと思っていたんですけど、夏が過ぎてからチームの一体感というのが生まれて、1試合1試合こなすごとに結果が出てきた。そういった面ではチームとしての成長はあったかなと思います。しかし、新しいチームに変わると新しい課題が出てきたし、それまでできていたことがマイナスになったりして…。難しいところではあるけれど、それが学生スポーツの面白さだと思います」

そうした中で、今のチーム状況をどう見ているのかというと、「箱根駅伝のシードを獲ったことで、選手たちが甘えているところがあるように思います」ときっぱり。「特に4年生は、力があるけれどなかかなか足並みが揃わず、大事なところで全員が揃って試合に臨めていない。ベストメンバーで行ければもっと楽に戦えると思います」

さらに、「1・2年生にも頑張ってもらいたい」という武者コーチ。「来年以降のことを考えても、1・2年生を鍛えてベースの部分を底上げしておく必要がある。北海道合宿では、昨年と同じような練習をやっていますが、やはり夏を1回経験している今の2年生はだいぶ力がついてきている」と、確かな成長に手応えを感じている。

今年は16年ぶりの出場となる出雲駅伝が10月中旬に待っている。しかし、「最終的に目指すのは箱根駅伝なので、チームとして“出雲仕様”にはしない。その時に勢いのある選手が出ることになる」。実際、9月下旬に発表されたエントリーメンバーには、調子の上がらない上級生に代わって1・2年生4人が名を連ねている。

また、シード権獲得を目標とする箱根駅伝では、特殊区間である山登り・山下りを誰に任せるかが大きなポイントになってくる。
「何人かは走りたいという選手もいますが、やはり走力がないと厳しい。山登りが得意だからというだけで走れるものではないし、昨年の鈴木(孔士)くらい山に対して貪欲さがあればいいけれど、まだそこまでではないので」と、育成にも難しさがあるという。

16年ぶりに三大駅伝へのフル参戦となる今秋。チームとしてのポテンシャルはあるだけに、首脳陣の期待は昨年に増して大きい。「できると思うんですけどね。大事なのは、選手みんなが今年はもっとやろうと思うこと。そこが一体感なんです」と、武者コーチは言葉に力を込めた。

箱根で結果を出すために、全員がエースになってほしい

−ここまでの夏合宿、チーム全体の状況はどう見ていますか?
昨年は北海道合宿に4年生が7人来ていましたから、それに比べればやっぱり薄い。1・2年生が頑張って下から突き上げてきているのでトータルで見ればいいんですけれど、肝心の4年生が少ないですし、上級生が引っ張って、1年生を後ろから押して離れさせないようにするというのがしっかりできていない。昨年の4年生は箱根予選会を通るために頑張りましたが、今年は出雲も全日本も箱根も行けるから、ちょっと簡単に考えていますね。もし10月に予選会があるとすれば、もっと必死にやっただろうし、3年生3人も、練習をしっかり積めているとは言えないので、その点で僕は甘さがあると思います。箱根に出られたらいいっていうレベルの意識ではなく、もう一段上の考えを持って、「箱根に出られるから、上の位置で何とかやってやろう、勝負してやろう」っていうところまで来ないと。この合宿では彼らにだいぶ小言を言っています(笑)

−2年生は昨年から意識的にもだいぶ変わった印象ですが?
そうですね、昨年「1年生が強くなる」と言いましたが、みんな強い気持ちで取り組んでいるし、アメリカに行って学んできた選手たちがいい影響を及ぼしてくれて、結果に表れていますからね。今年の1年生も同じように頑張っているので、来年もまた強くなる。昨年もそうでしたが、下級生に元気があって、3・4年生を突き上げているのがいいと思います。

−1年生はよくついてきているように感じますね?
鍛え甲斐があって楽しいですよ(笑)。小言ばかり言われて、反骨心やハングリー精神でやってくれる。きついとは思いますが、上級生がいないぶん、箱根を走れるかもしれないというチャンスがあるので、1・2年生は張り合いがあると思います。次の妙高や菅平の合宿で練習を積み重ねて、1・2年生がどれだけ力を出せるようになるかが楽しみだし、予選会がないぶん、シードを確実に獲れるようにしっかり練習に取り組んでいけるので、彼らが成長してくればチームとしてトータルで強くなると見ています。厳しいけれど昨年走った選手でも“絶対”はないですし、それでいいと思っています。

−今年は、三大駅伝出場となりますが?
いや、もう箱根一本ですよ。出雲も全日本も結果ではなく経験です。どういう選手が走れるのかを見る。3つの駅伝に全部選手を揃えたら、きっと箱根の時に故障しますから、出雲と全日本は分けて考えていかないといけないし、まだそこまでのチーム力はないと思います。出雲は、シードを獲った上位チームがどういう感じなのかを肌で知れる機会なので、それをまた全日本につなげていけるようにしたいですね。去年の全日本もそうでしたが、レースの中で勝負していって、どんどん経験を積んでいくという感じでいいと思います。

−チームとして目指す方向は?
今の日大は、タイムはいいので“速いチーム”なんです。でも、私は速いチームはいらない。風が吹いても何をしても倒れないレンガの家のような“強いチーム”、それが駅伝で通じるんですね。速いだけで土台がないと、一瞬のタイミングでは速いかもしれないけれど、10回走って10回とも速いというのは無理です。でも、強い選手は10回走って10回しっかり行きますから。全日本の予選会をトップ通過できて、やっと“速いチーム”にまで持ってきましたが、これからはその上の強い位置にいて、潰れない、倒れない、ブレーキしないという“強いチーム”を目指しているんです。

−“強いチーム”になるには個の力も大事になってきますね?
強いチームはやっぱり個人個人が精神的に強い。速い選手は山あり谷ありの中で当たればいいんですが、強い選手は少々山や谷があっても一定のところで持っていけるので絶対外れない。それが駅伝なんです。だから一人一人が本当に強い心を持つことが必要で、10人集まったらそれが“総合力”になると思います。

−期待する選手を挙げるとしたら?
いません。全員です。エースが1人だけいても意味ないですから、僕の中では全員がエースになってほしいという気持ちですね。そうしたら総合力が強くなる。

−そこに向けての指導なんですね?
「良かった、良かった」と言っているよりも、厳しく言える余裕があるから鍛え甲斐があるし、期待もある。ある程度完璧にできるようになってしまったら面白くないけれど、小言を言って修正していくことができれば、まだまだ伸びていく。いかに修正していくかというのは、マネージャーたちの援護射撃やスタッフの力だと思っているので、今はこんなバラバラの状態ですが落ち込んでいないし、逆にこの方が面白い。いろいろプレッシャーをかけたり、小言を言ったりしても、立ち直れる余裕があればどんどん強くなっていくんです。私の楽しみはまだまだ続いていきますよ(笑)。

−ありがとうございました。

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