競泳のパリ五輪代表権を懸けた一発勝負の選考会。寺門弦輝選手は、男子200mバタフライで1分54秒07の自己ベストを叩き出して優勝。パリ五輪への切符を手にしたことを確認すると、大きく雄叫びを上げて右こぶしを何度も振り上げた。
「準決勝が終わったあと、その日の泳ぎが思った以上に悪くて、もう決勝はダメだ、とネガティブな気持ちになっていました。でも、決勝前までに同期が励ましてくれたので、気持ちを立て直して臨むことができました」
会心のレースだった。決勝前に決めたのは『ラスト50mに懸ける』作戦。この種目の第一人者であり、先輩でもある本多灯選手に前半からどれだけ先行されても焦らなかった。
150mのターンの時点では、本多選手との差が約1秒ほど。ここから身体ひとつ分あった差を一気に追い上げて本多選手に並ぶと、最後はタッチ差で逆転勝利。まさに作戦がピタリとハマった結果となった。
「今振り返ってみても、タッチしたあとは、あの一瞬に今までの感情が全部出た、という感じでした。本当にうれしかったです」
高校時代から努力を積み重ね、ひとつずつ階段を上るようにして一歩一歩成長してきた寺門選手。その努力が一気に爆発するきっかけとなったのが、『心を整える方程式』という1冊の本との出会いがもたらした、メンタル面での急成長だった。
「そこに『パフォーマンスは身体の状態×心の状態』という言葉があって、これがすごく腑に落ちたというか、とてもしっくりきました」
練習でも試合でも、頑張ろうと考えなくても身体は勝手に頑張ってくれる。もう身体は十分に追い込んでいるのだから、心まで追い込む必要はない。もっと余裕を持って、単純に泳ぐこと、競うことを楽しむ、と考えた方がいい。それに気づいたらスッと肩の力が抜けた。
「練習でもキツいことを頑張る、というのではく、チャレンジする自分を楽しめばいいんだと、気持ちの余裕を持てるようになりました」
寺門 弦輝 選手
楽しいから頑張れる、頑張った結果が試合で成果として表れ、それが楽しいから次の練習も頑張れる。この好循環が、寺門選手を夢にまで見た五輪の大舞台に導いた。
「パリ五輪では、あまり欲張らずに決勝進出目標です。決勝にさえ進んでしまえば、8位以下になることはありませんから。あとは決勝レースで実力を出し切るだけです」
人懐っこい笑顔でそう話す寺門選手からは、全く気負いは感じられなかった。
5月下旬、競泳・欧州グランプリ第1戦(フランス・カネ)に出場した寺門選手は、男子100mバタフライで国際大会初優勝を飾り、自信を深めた。代表種目の男子200mバタフライでは、先輩の意地を見せた本多灯選手に敗れて2位だったが、五輪本番では再び本多選手に競り勝って、表彰台の1番上に立つことを密かに狙っているに違いない。
Profile
寺門 弦輝[てらかど・げんき]
2003年生まれ。茨城県出身。昭和学院高卒。サーフィンに親しむ両親の影響で水泳を始める。高校2年のインターハイ200mバタフライ優勝。大学3年時のインカレでは100mバタフライで優勝を果たす。’24年5月下旬の欧州グランプリ・カネ大会では、国際大会初優勝を飾った。専門種目はバタフライと個人メドレー。
