「今年で14年目ですね。随分長くなりました」と柔和な表情で話す齊藤監督。「監督になるなんて夢にも思っていなかった」と言うが、2006年の就任以来、全日本学生選手権10回、全日本学生選抜8回ほか、数多くの優勝を射撃部の歴史に刻んで来た名伯楽だ。

高校時代に射撃の経験はなかったが、入学後に一念発起して射撃部に入部。「レギュラー経験もほとんどないけれど、4年間よくくじけずにやったと思う」と振り返る。

卒業後、日大職員となり歯学部事務局に勤務する傍ら、OBとして部と関わっていたが、3年ほどしてコーチとなることを要請され、部の運営を中心としたサポート役に回った。さらに2006年、急逝した岩瀬和夫監督に代わり、「お前に任せたい」というOB会の総意を受けて監督となった。

「監督は大変だと分かっていたので、覚悟を決めて就きました。五輪経験者がコーチにいたので技術的なことは任せて、それまでと同様、今で言うGM的な立場でクラブ運営全般を見る方がいいと考えました」

岩瀬前監督の敷いたレールを辿るような形で進めながらも、監督訓の半分は作り替え、部の遵守事項は20から30に増やした。さらに、何か柱になる独自の言葉や思想を持ちたいと思っていたところ、丁度その時に読んでいた本の中の言葉に感銘を受けた。『人生の目的は、人間性を高めることである』(京セラ創業者・稲盛和夫氏の著書より)−これを新しい部訓の中に入れ、今も学生たちに唱和させている。

「射撃という競技を通じて人間性を高めていくために、お世話になった人達への感謝の気持ちを忘れず、4年間を有意義なものにしようと学生たちに話しています。私にとっても射撃は、人生を豊かにしてくれた、いわば財産。いろんな人に出会えて話を聞けたこともそうですし、私ひとりで日本一になる力はないけれど、日本一を何回も経験できるのは、選手や周囲の皆さんのおかげと感謝しています」

齊藤監督には、指導をするうえで決めていることが2つある。その1つは、実績に捉われず調子の良い選手を積極的に使っていくこと。日頃の練習の成果はレポートとして送られてくるので、アベレージや順位付けを見れば個人の調子もわかる。入部間もない1年生であっても、レポートを見て「当たっている」と思えば次の試合のレギュラーに抜擢する。

「最終的には秋の全日本インカレで活躍できるかどうかですし、夏に力を付ける選手もいる。できるだけ多くの選手にレギュラー経験を積ませたいので、1年生でも思い切って春から使っていきます。ミーティングの時には、こういう理由でレギュラー選手を選んだのだと、自分の意図をできるだけ分かりやすく学生たちに伝えるよう心掛けています」

もう1つは、高校生を勧誘する時、チームカラーに合っているかどうかを見て、合わないと感じた選手は、たとえ競技成績が良くても採用しない。

「性格的なところも見ますが、先に“うちは文武両道だよ"と話し、学業との両立を約束した子だけを採ります。それでも学業不振で辞めていく子もいる。もう少し頑張れないのかと思うこともあるし、手を尽くしてもどうにもならないこともありますが、志半ばで退部していく学生たちのほうが気になるし、むしろ良く覚えていますね」

監督を引き継いだ時、チームは全日本学生選手権を3連覇していたが、それから毎年優勝を積み重ね、2010年には8連覇を達成。古豪の明治大が持っていた連盟記録を塗り替えた。さらに次の目標とするのは、インカレ総合5連覇もさることながら、明治大が誇る学生選手権の通算優勝回数26回を超えること。

「今21回まで来ているので、並ぶにはあと5年必要ですね」と笑う齊藤監督。日大の強さを支えるのは、隔年のドイツ射撃留学や器材・設備の充実など「大学からの桁違いの手厚い支援」だと感謝し、「だからこそ、勝たなきゃいけないと思っています」。

「今年のチームも、キャプテンを中心に全員で協力して盛り上げていってほしい。戦力充実の男子は連覇を期待できるし、女子も昨年以上の成績を挙げるために奮起してくれるはず。そうすれば男女総合優勝も見えてきます」と、インカレ5連覇への自信をのぞかせた。

Profile

齊藤 政之[さいとう・まさゆき]

1960年生まれ。埼玉県出身。
1984年経済学部卒。文理学部事務局長。卒業後、日大職員として勤務し、1991年から射撃部コーチを7年間務めた後、2006年に監督就任。全日本学生3連覇中だったチームを受け継ぐと、大学史上初の8連覇まで記録を伸ばした。2015年からはインカレ男女総合でも4連覇を達成、今年は5連覇を目指す。日本学生ライフル射撃連盟選手強化担当理事。

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