2024年4月28日(日)、浅草・浅草寺で、赤ちゃんの健やかな成長を願って行われる「泣き相撲」が開催された。抜けるような青空の下、本学相撲部から参加した4人の選手が取組の「組ませ役」となって行われた計49番、本堂裏の広場に赤ちゃんの元気な泣き声と、それを見守る家族や観客の笑い声が響き渡った。

地域の伝統行事に、選手たちが一役買う

「泣き相撲」は、浅草寺裏に九代目市川團十郎『暫の像』が復元されて5周年となる1991年(平成3年)に、浅草観光連盟により奉納されたのが始まりで、今年で34回を数える。鎌倉権五郎という前髪姿の豪快で力強い子供の像にちなみ、「丈夫で健康な子供に育ってもらいたい」という願いを込めて赤ちゃん同士の取組が行われ、その泣き声の大きさで勝敗を競う。

 

例年、浅草観光連盟から相撲部へ、赤ちゃんを抱きかかえて取組に臨む「組ませ役」としての参加依頼が届く。地域社会貢献の一環として約30年にわたり協力を続けてきたが、コロナ禍で2020年から3年間は開催中止となり、4年ぶりの開催となった昨年は「組ませ役」を保護者が担ったため、学生が「組ませ役」を務めるのは5年ぶりとなる。

 

天候の影響で1日順延となって迎えたこの日は、気温27℃を超える夏日。浅草寺本堂裏に土俵を模した舞台が設けられた会場は、約100組の赤ちゃんと保護者・家族、行事関係者や報道陣などでごった返し、さらに会場を取り囲むフェンスの外側には「泣き相撲」を一目見ようという外国人観光客らが多数集まっており、熱気にあふれていた。

 

午前11時、「赤ちゃんには大いに泣いてもらい、皆さんには心より笑っていただきたい」という浅草観光連盟・富士滋美会長の挨拶で始まった「泣き相撲」。来賓の祝辞、競技規約の説明に続いて、東西に分かれた力士たちが保護者に抱えられて舞台に昇り、行司の先導で「土俵入り」を披露した。

そして、いよいよ取組開始。日大の名が記されたまわしを締めた新垣翔太選手(文理学部・4年)とバドジャルガル イルムーントルガ選手(スポーツ科学部・2年)が東方に、羽生健人選手(文理学部・4年)と矢田隆晟選手(文理学部・3年)が西方に配置され、数番ごとに「組ませ役」を交代しながら進めていく。

 

選手たちは、呼出から名前を呼ばれた赤ちゃんを保護者から受け取ると、両手で抱きかかえたまま仕切りの姿勢をとる。「ハッケヨイ、ノコッタ」という行司の言葉で立ち会うと、すぐさま行司は「泣け、泣け〜!」とあおり立てる。「赤ちゃんを抱く機会があまりないので、持ち方にも気を遣いました」(羽生選手)と、組ませ役は細心の注意を払いながら赤ちゃんを“高い高い”したり、相手の顔に近づけたりして何とか泣かせようと試みる。土俵に上がる前から泣き出してしまう子もいたが、なかなか泣いてくれない子が多い。

 

より大きな声で泣いた方が勝ちなので、泣いてくれないことには勝負がつかないのだが、規定時間を過ぎて双方ともに泣かない場合は、土俵脇で取組を見守っている検査役が、般若やキツネの面を付けて赤ちゃんの顔を覗き込む「面脅し」で泣かせにかかる。それが功を奏して泣き出す子もいれば、まったく動じない子、むしろ喜んで笑顔を見せる子もいて、思うようには運ばない。そうした姿に観客も笑い声を上げ、一番ごとに大きな拍手を贈っていた。

初めのうちこそ、赤ちゃんの扱い方に慣れていない選手たちの表情は硬く、戸惑う様子も感じられたが、取組を重ねていくうちに土俵上でも笑みを浮かべるようになった選手たち。土俵下で保護者に頼まれ、取組前後の赤ちゃんを抱えて記念撮影に応じる余裕も出てきた。

 

一方、取組を見守る保護者や家族は悲喜こもごも。勝ち名乗りを受けて戻ってきた孫に「頑張ったねぇ」と声をかける祖父母の姿や、「家が近くなので、自分の子どもが生まれたら参加したいと思っていた。勝てて良かった」と話す父親、「お相撲さん(学生)といっしょに写真を撮らせてもらっていい記念になりました」という母親がいた。中には、双子で参加したものの2連敗し、「泣いてはくれなかったけれど、いい思い出になりました」と苦笑いを浮かべながら帰途に着く家族も。それでも、小さな力士たちの奮闘ぶりに、会場にいる大人たちは誰もがみな笑顔を浮かべていたのが印象的だった。

開始から約1時間半、49番目の取組をもって千秋楽。強い日差しの中、吹き出す汗をタオルで拭いながら選手たちは無事に「組ませ役」を務め上げた。この日の感想を尋ねると、4人の選手たちはいずれも「楽しかった。また機会があれば参加してみたい」と口を揃えた。

 

相撲部で総務の役職に就く新垣選手は、「これからも、こういう行事に日本大学として参加させていただけるように、今日の経験を後輩たちに伝えていきたい」と総括。また3月に行われた「総務研修会」を受講して、「キャプテンとともにチームを引っ張っていけるように、自覚をもって取り組んでいかなければと改めて思いました」と語り、最後は「昨年負けてしまったインカレを優勝して終われるように、みんなで頑張っていきたいと思います」と、王座奪還への意気込みを力強く語った。

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