2023年4月、スポーツ科学部に
日本大学大学院スポーツ科学研究科 開設

日本大学スポーツ科学部では、スポーツ科学に関する4年間の学びを通して培った「反省的実践家」としての能力を、より専門的に、よりグローバルに高めていくフィールドとして、2023年4月、三軒茶屋キャンパスに日本大学大学院スポーツ科学研究科を開設した。

 

「科学で自分を超えろ」というスローガンのもと、スポーツに関連する多様な学問分野において、最先端の研究成果を活かしながら、競技スポーツを体系的に捉え、現場に即した価値の発信やグローバルな社会貢献に寄与する、高い専門性と実践力を持った人材を育成することをめざしている。

三軒茶屋キャンパス6階に設けられた「スポーツ科学研究科大学院生室」。競泳、射撃、空手など現役の競技者を含む10名の大学院生が、個別に与えられたデスクで、それぞれの研究に勤しんでいる。

三軒茶屋キャンパス6階に設けられた「スポーツ科学研究科大学院生室」。競泳、射撃、空手など現役の競技者を含む10名の大学院生が、個別に与えられたデスクで、それぞれの研究に勤しんでいる。

教育課程は、スポーツ科学を構成する「自然科学・医科学」および「社会科学・コーチング学」の2領域を中心とし、授業科目3区分(基本科目・専門科目・研究指導)により体系的に編成。履修モデルでは、プロアスリート・トレーニング指導者・スポーツコーチ等、競技スポーツの現場に即した人材を育成する「高度専門職業人養成コース」と、競技スポーツの研究に携わる高度な分析力と洞察力を持つ専門職を育成する「研究能力養成コース」の2つが設定されている。

 

また、オリンピックや国際大会に出場するトップアスリートの指導・サポート経験を持つ教員が多数在籍しているほか、三軒茶屋キャンパスには低酸素室・大型トレッドミル・流水プール・三次元動作解析室等の先進設備も設置されており、スポーツ科学に関する研究を高度に実践できる環境が整っている。

2年間の修士課程において、専門分野を履修して知識を身に付けた大学院生には、修士論文の執筆・審査を経て修士(スポーツ科学)が授与される。

 

令和5年度は、学内選考・一般選抜を経た女子2名を含む10名が第1期生として入学。それぞれが取り組む研究領域・テーマにおいて、スポーツ科学の未来をリードしていく人材になることが期待されている。

DEAN INTERVIEW

枠にとらわれずにスポーツ科学研究を実践し、
日本のスポーツ界をリードしていきたい。

日本大学大学院スポーツ科学研究科長

益子 俊志

─ 「科学で自分を超えろ」というスローガンの意味するところは何でしょう?

 

スポーツ科学部では、開設からの7年間、アスリートコースとサポートコースに分かれて、様々なことをいろんな角度から科学的に分析・集約して、アスリートのパフォーマンス向上に貢献したいという考えで取り組んできました。「なぜだかわからないけれどできちゃった」という選手たちのコツやカンといったものを、言葉にしたり科学的に裏付けるなど、これまで学部でやってきたことを大学院ではもっともっと深掘りしてみたり、その途中で研究分野が枝分かれし、実は横串でいろんな違う分野にまで広がっていると気づいた時、先進の「科学」で幅広く対峙していく。それが本大学院の在り方だと考えているので、そうした思いを込めてスローガンにしています。

 

─ 大学院の特色はどんなところでしょう?

 

今年度は1期生として10名の院生が学んでいますが、全員がトップアスリートというわけではありません。しかし、スポーツ科学部でトップアスリートと共に学んできたことで、彼らのレベルをわかっていますから、そこをベースとしてどのレベルまで研究していき、どのレベルに成果をフィードバックしていくのかを考えて取り組んでいくことができます。そういう意味で、院生たちが「アスリートによる、アスリートのための研究家」として、アスリートが解決できない部分を研究し、トップレベルの現場にフィードバックしていくことが理想ですし、日大の中だけではなく、日本のスポーツ界や世界にも発信していけるようになれたら素敵だなと思います。

 

─ 大学院の果たす役割とは?

 

すでに博士後期課程の設置準備を進めていますが、他大学のスポーツ科学系の大学院と差別化ができているかという点も考えていきたいと思います。「アスリートを科学する」ことを中心としながら、その周りを取り巻いていくことで、もしかしたら新しい発見があったり、今までの常識的な部分を覆すようなことができるかもしれなせん。日大というスケールメリットがある中で、スポーツ科学の分野に特化するのではなく、例えば医学分野や経済分野、あるいは芸術分野など、多方面にいろいろつながっていけるような発見があれば面白いですし、そこで日大の総合力を発揮できることがあればいいですね。

 

─ そのリーダー役として思うことは?

 

これまで日本大学が日本のスポーツ界をリードしてきましたが、今後はスポーツ科学の領域でも、日大スポーツがリードしていきたいですし、日大スポーツの中心が三軒茶屋キャンパスだけではなく、もっと外に広がっていけば、さらにワクワクできるようになるかなって思います。

 

─ 学生たちに期待することは?

 

院生たちの学びの中核はここであっても、その枠にとらわれず、もっと外にフィールドを広げてほしいですし、発想の転換をしてほしいと強く思います。我々以上に柔軟な頭を持っているのだから、「何言ってんの?」って言われてもいいぐらいの気持ちと考えを持ってやってほしい。指導する側には、日本スポーツ界のさまざまな分野でトップレベルの先生方が揃っていると自負していますし、非常に高度な指導が実践されているので、新しい方向に向かって行けたらより楽しくなるんじゃないかな。

 

 ─ 今後のビジョンは?

 

今は内部進学が多いのですが、いずれは他大学を卒業した学生にも「日大の大学院で勉強したい」と思ってもらえるよう、外部から見ても内容的に充実して魅力的な大学院にしていきたい。もちろん、学部在籍中のトップアスリートたちにとっても戻れる場所であると共に、学外のトップアスリートがセカンドキャリアをめざす場としてのリカレント教育ができればいいなと思います。その点を、日大ブランドを活かしながら、どう本研究科の魅力を発信していくか、これから模索していきます。

Profile

益子 俊志[ましこ・としゆき]

1983年、早稲田大学教育学部教育学科卒。博士(医学)。ラグビー7人制日本代表。指導者として元ラグビー7人制日本代表コーチ、元早稲田大学ラグビー部監督、埼玉県ラグビー成年国体監督などを歴任。スポーツ科学部教授としても「コーチング学」ほかの授業を担当している。

教える視点、学ぶ視点、それぞれが期待すること。

社会に出ても「スポーツ科学」を実践できる人材の育成が使命。

スポーツ科学部 競技スポーツ学科

日本大学大学院 スポーツ科学研究科 教授 種ケ嶋 尚志たねがしまひさし

 

〈専門領域〉スポーツ心理学
〈担当科目〉スポーツ心理学特論、特別研究Ⅰ・Ⅱ
〈研究内容〉スポーツ競技者のパフォーマンス向上に対する心理学的研究、認知的評価がアスリート心性に及ぼす影響についての研究 等

これまでスポーツ科学部で、コーチングを基盤とした「反省的実践家」の養成に努めてきましたが、大学院の開講という新たなチャレンジの中にあって、私自身もまた改めて、学生たちを指導することにより一生懸命、頑張らなければならないと思っています。

 

学部では多数の学生を相手に講義を行うので、1人ひとり細かく見ることは難しい場合もあるのですが、大学院では1人ないし2人が相手なので、専門的研究分野の内容についても研究室でじっくり、繊細に対話しながら行うことができます。院生の困っていることや課題なども機微に感じながら、丁寧な指導ができていると実感しています。

 

科学的な根拠に基づいて競技力向上をめざすという意識で多彩な学問領域を学んできた学生たちが、大学院でさらに各領域での見識を深めていき、社会に出ても「スポーツ科学とは何か?」と専門的に説明でき、それを実践する能力を持った人材になってほしいと願っています

リニューアルされた三軒茶屋キャンパスの銘板の前に並んだ1期生と教職員

リニューアルされた三軒茶屋キャンパスの銘板の前に並んだ1期生と教職員

修了生が教育者となって戻り、次世代を育ててほしい。

三軒茶屋キャンパス教学サポート課

課長補佐 羽川 亮司はがわりょうじ

大学院設置のプロジェクトが動き出したのは約3年前からですが、これは7年前のスポーツ科学部開設当初からの悲願であり、文科省の認可が下りた時は、ようやく先生方の思いを叶えることができたということで、ホッとした気持ちが大きかったですね。

 

競技スポーツの中で、日本そして世界のトップをめざすための教育を受けてきた学生たちを、今度は大学院でどのように育てていくのか。さまざまな研究材料は学部から上がってきますので、それをどのように分析し研究していくのかというカリキュラムを作るところが、先生方も一番ご苦労された点だと思います。

 

今は2年後の博士後期課程設置に向けて準備を進めていますが、将来は、スポーツ科学部の卒業生であり、スポーツ科学研究科の修了生が教鞭を取る立場になって戻ってきて、入学してくる学部生を指導するといったサイクルを構築できたらいいなと考えています。その理想に向けて、私もさらに尽力していきたいと思います。

日本大学大学院危機管理学研究科も同時開設

スポーツ科学研究科開設と同時に、三軒茶屋キャンパスの危機管理学部では、日本初の政策科学系研究科として、大学院危機管理学研究科(研究科長・福田 充)が開設されました。「共に創る、新しい危機管理学。」をテーマに、実践的かつ応用的な総合科学によって、より高度な危機管理学の確立を追究していきます。

競泳のパフォーマンス向上の礎を学び、パリ五輪で活躍、そして指導者へ。

スポーツ科学研究科修士課程 1年

石崎 慶祐

大学院へ進学することを決めた理由は?

 

 来年のパリ五輪に出場して活躍するというのが自分の競技の目標なので、そこを一番の重点に置いていますが、将来は指導者になることをめざしているので、それをかなえるためには自分の競技経験だけではなく、様々な知識を学ぶ必要性を感じ、大学院への進学を決めました。

 

4月からは水泳部のコーチにも就任した

 

インカレが終わって水泳部を引退した後に、水泳部のコーチにならないかと打診がありました。もともと、競技人生が終わった後の夢として、日大水泳部を指導していけるような指導者になりたいという気持ちがあったので、いろいろと勉強しなければと思っていたところで大学院ができるということだったので、コーチと研究を並行してやっていくと面白いんじゃないかと考えました。

 

今取り組んでいる研究テーマは?

 

大きく言えば、トレーニングの基本構造を組み立てる「トレーニング計画」の研究で、青山亜紀教授にご指導いただいています。競泳ではこれまで、体力的要素での研究は進んでいたものの、技術的な部分はあまり進んでいませんでした。しかし、パフォーマンス向上にはそこも必要だと思うので、技術的な部分や調整的なところも絡めたトレーニング計画を考えています。また、水泳部のコーチとして、私が作った練習メニューが選手にどんな効果をもたらしているのか、実践的に研究を行うことができています。

 

コーチングについても学んでいく?

 

自分の中でコーチングというのは、いろんなことができなきゃいけないと思っています。栄養学や心理学的なところも突き詰めていき、最後にどう選手に言葉を掛けていくかというところがコーチング学かなと思っているので、今はまず、その土台となるところを学んでいこうとしているので、コーチング学は最後にやっていければいいかなと考えています。

 

研究が自身の競技に生きてくることは?

 

ちょうど今、手の角度でどれだけ水が当たるかといったバイオメカニクスの論文を読んでいますが、それも指導者として蓄えられる1つの知識になりますし、競技者としての自分自身に対する教育という面でもプラスになるかなと思います。

 

大学院での学びの先にめざすところは?

 

将来は、大学院で学んだことを活かして新たなスタイルの指導者となり、その見識を競泳界全体に広げていきたいという夢があります。大学4年間、コーチとしてご指導いただいた三木二郎先生(理工学部助教)のように、五輪に出て経験を積み、さまざまな知識を身に付けた指導者となっていきたいと思っています。

Profile

石崎 慶祐[いしざき・けいすけ]

スポーツ科学研究科修士課程 1年。2000年生まれ。新潟県出身。長岡大手高卒。’23年スポーツ科学部卒。’22年4月の日本選手権で100m自由形2位。同8月のインカレでは主将としてチームを牽引し、男子400mフリーリレーで優勝するなど、男子総合2連覇に貢献。卒業後はミキハウスに所属しながら日大水泳部のコーチも務め、大学院生との三刀流に取り組む。

射撃に関わる基礎研究を深めながら、五輪出場をめざしていきたい。

スポーツ科学研究科修士課程 1年
西 千里

スポーツ科学部での4年間を振り返ると?

 

東京五輪2020や世界選手権を目標として4年間、射撃の練習を頑張ってきたので、昨年の世界選手権で初めて日本代表に選ばれ、試合での成績は良くありませんでしたが、最後に目標を達成できて良かったなと思います。

 

大学院へ進学することを決めた理由は?

 

射撃選手の中で大学院に進む人はとても少ないのですが、今後の競技生活に向けて、何か新しいことにチャレンジしてみたいということが一番です。さらに、私の研究が射撃界の将来に何か役立てられたらいいなと思って、競技に活かせる研究や学びをしたいと思い、進学を決めました。

 

今取り組んでいる研究テーマは?

 

射撃に関する研究についていろいろ探したところ、トップレベルの選手に特化した論文などは海外にもあるのですが、基礎的な部分に関しての研究や論文がほとんどありませんでした。射撃はバランス能力がとても大事な競技なので、まずは体幹などの体力的要素や、銃を構えた時の重心動揺などバランスについての研究に取り組んでいます。

 

研究の進め方は?

 

今はいろんな論文を読み込んで知識を深めていくことが中心ですが、そもそもバランスってどういうものなのかなど、ふだん何気なしに口にしているようなことを科学的にもっと深く知っていこうと、担当の松尾絵梨子先生(准教授)と話しています。

 

研究の次のステップとして考えていることは?

 

今取り組んでいる研究で成果を得た上で、私が最もやりたいのは「歯の歯列と重心動揺の関係性」の研究です。そのためにここでの研究とは別に、学外で歯の研究も進めていく予定です。

 

そうした研究は競技にどう活かせる?

 

これまで射撃界では、「これ」という指導方法がなく、コーチから指導を受ける時でも、コーチの方の経験や感覚で教えてもらうというのがほとんでした。これをこうすればこうなるといった理論的なものがなかったんです。私の研究によって、その基礎的なことを見つけられたらいいなと思いますし、それを発見するということ自体がまず力になると思います。さらに歯との関係性もあるとわかれば、歯のケアをしようという人も出てくるかもしれません。

 

大学院での学びを通じてめざすことは?

 

五輪はあと3大会(パリ、ロサンゼルス、ブリスベン)で出場をめざそうと決めています。パリ五輪までに研究の成果を出すのは難しいし、いつまでにという期限も考えていませんが、ここでの学びが絶対にその力になると思っています。私が一番めざしたいのは、研究を射撃界の将来につなげていくこと。射撃に関わる人たちにとっての進路や何かにつながっていけばいいなと考えています。

Profile

西 千里[にし・ちさと]

スポーツ科学研究科修士課程 1年。2000年生まれ。徳島県出身。城西高卒。’23年スポーツ科学部卒。’22年日本学生選抜50mライフル伏射60発優勝。’22年世界選手権(カイロ)に日本代表として出場。’22年度50mライフル三姿勢女子で日本ランキング4位。

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