多くの五輪選手を生み出してきた水泳部は個人競技でありながら、常にインカレ上位で戦い続けられるチーム力を持つ。強い個をチームとしてまとめ上げることができる秘密は、自主創造の精神と情熱にあった。

自ら立てた目標だからこそチームが一丸になれる

1927年に創部して以来、競泳だけではなく飛込、水球、アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)と、その全てで多くの五輪選手を輩出。その数はなんと136人を数える。個人としての成績だけではなく、日本学生選手権(インカレ)では、競泳男子は39回、飛込男子も39回、飛込女子は7回、水球男子は10回もの優勝を誇るなど、チームとしても活躍し続ける強さを持っている。その原動力となっているのが、日本大学が掲げる“自主創造”の精神であることは、上野広治監督、そして三木二郎コーチともに共通認識として持っている。

自主創造の精神こそ、日大水泳部の強さの根幹であると上野監督

自主創造の精神こそ、日大水泳部の強さの根幹であると上野監督

「チームの目標は、選手たち自身で考えさせています。自分たちで考え、話し合い、決めた目標だからこそ、頑張って達成しようと思えるわけです。皆で一つの目標を共有して、一緒に同じゴールを目指すからこそ、切磋琢磨してお互いを高め合うことができるのです」(上野監督)

 

三木コーチも、「コーチからやらされているだけの練習では、いつまでたっても本当の意味で強くはなれません。自分たちが頭を使って、なぜ強くなりたいのか、どう強くなりたいのかを考えて、自分たちで考えて取り組むからこそ、それが結果につながるわけです」と自分から行動することの大切さを伝え続ける。

 

そのなかでも大事に指導しているのが、上級生が率先して動くこと。

「教える側の人間が率先して動かないと、下級生たちは絶対についてきません。掃除も整頓も、もちろん練習も、上級生が率先して動き、真剣に取り組むからこそ、下級生たちも頑張ろう、見習おうという気持ちを持つことが、本当の意味での自主的な行動につながるのだと思っています」(三木コーチ)

 

それは上野監督も思いは同じ。

「当たり前のことを、当たり前にできているか。本学の環境は、ほかのどこにも負けないくらい充実しています。それは大学の支援によるもの。それに対して感謝の気持ちを持つことも当たり前ですし、綺麗に使う、大事にするのも当たり前。そういうことを大切にしていく選手が強くなっていきますし、社会に出ても活躍できる人間性を身につけることができるのではないでしょうか」(上野監督)

学生たちの取り組みを応援し、頑張れる環境を作ることも指導者の役割である、と三木コーチ

学生たちの取り組みを応援し、頑張れる環境を作ることも指導者の役割である、と三木コーチ

また、上野監督、三木コーチをはじめとする指導者が大切にしていることがある。『選手たちからの提案に対してNOと言わない』ことだ。

 

「どんなことであっても学生がやってみたい、と思ったことはまずやらせるようにしています。失敗しても良いんです。そこで『なんで失敗したのか』『どうすれば解決できるのか』を話し合わせる。頭ごなしにダメ、というのは簡単です。でも、それじゃ学生は育ちません。口を出したくなるときもありますけど(笑)、まず話を聞いて、背中を押してあげる。それも私たち大人の大事な役目です」(三木コーチ)

 

この大学4年間で経験することは、「ムダなことは、何一つない」と三木コーチ。

 

「特に、やらなければならないことではないけど、やった方が良いこと、というのはよくありますよね。それは往々にして、自分にとって嫌なことだったり、辛いことだったり、しんどいだったりします。だからそれを『ムダ』と決めつけてやらないという選択をする選手もいます。でも、そういうムダにこそ、自分が成長できるきっかけや強くなるヒントが隠されている。そういうことに自らチャレンジしていく精神は、必ず今後のキャリアに役立ちますからぜひ大事にしてもらいたいと思っています」(三木コーチ)

 

チャレンジしなければ、その先の可能性には辿り着かない。社会人になると、なかなか新しいことへのチャレンジは難しくなっていく。だからこそ、学生である今のうちにどんどんチャレンジして、多くの経験を積んでほしい。それが人生経験となり、人としての成長、引いては選手としての成長につながっていくのだから。

自分たちのやり方でチームをつくる
その土台は受け継がれる情熱にアリ

5月6日、ゴールデンウィークの短期合宿の最終日、試合用の水着を着て行うメイン練習が行われていた。その前に、水泳部恒例“ワンパ”で部員全員で気合いを入れる。その中心にいて人一倍声を出し、ずっとチームを鼓舞し続けていたのが村田迅永男子主将(文理・4年)だ。

誰よりも情熱を持ってチームを鼓舞する村田主将

誰よりも情熱を持ってチームを鼓舞する村田主将

「結果でチームを引っ張ってきた歴代の主将たちを見てきただけに、結果を残せていない自分が主将を務めるのに不安もありました」(村田主将)

 

その考え方が変わったのが、日本大学が行っているキャプテン・総務研修会で教わった言葉だったと言う。

 

『主将に向いているかどうかじゃない。主将をやるかやらないかだ』

 

この言葉で、自分の色でチームをまとめ上げれば良いんだ、と気持ちが吹っ切れた。村田主将が導き出した答えは、「どこよりも熱いチームをつくること」だった。

「結果は残せていないかもしれないけど、僕ができるのは人を盛り上げたり、熱い気持ちを持ち続けること。それを前面に押し出して、みんなをその熱に巻き込んでやろう、って思えたんです」(村田主将)

 

インカレ3連覇、という大きなゴールに向けて、毎日全力で、真剣に向き合い、熱く、前向きに駆け抜ける。絶対にこの目標を成し遂げるんだ、という村田主将の強い意志に呼応するようにして、チームにも熱が帯びていく。その結果、村田主将を中心に1つに団結したチームの姿が、そこにあった。

加藤女史主将はマネージャー陣とのコミュニケーションも大事にする

加藤女史主将はマネージャー陣とのコミュニケーションも大事にする

女子をまとめている加藤優女子主将(経済・4年)も、「今までで一番熱い夏を、みんなで迎えたい」と熱い眼差しで語る。

 

「一人一人がレベルアップすることが、チームのためになる。共に応援し合い励まし合えるチームをつくって、インカレを迎えたい」(加藤主将)

学生に近い立ち位置からサポートする石崎コーチは、昨年の主将としてチームを連覇に導いた

学生に近い立ち位置からサポートする石崎コーチは、昨年の主将としてチームを連覇に導いた

目標を立てる大切さは、昨年の主将を務め、今は日本大学大学院スポーツ科学研究科の1期生として学ぶ石崎慶祐コーチも実感している。

 

「私たちも昨年、苦労した点でした。個が強かったがゆえにバラバラだったチームをまとめ上げられたのは、過去最高得点を獲る、という目標でしたから」(石崎コーチ)

これらコーチや上級生の思いは、しっかりと下級生にも伝わっている。今年1年生となり、初めてゴールデンウィーク合宿に参加した碓井創太(危機管理・1年)は、「先輩たちともコミュニケーションが取れるようになって、練習量も多くてきつかったんですけど、先輩たちが励ましてくれたのもあって頑張れましたし、すごく楽しく練習できました」と言う。

インカレでチームに貢献したいと活躍を誓う森本選手(左)と碓井選手(右)

インカレでチームに貢献したいと活躍を誓う森本選手(左)と碓井選手(右)

「特に練習中には、全員で声を出して盛り上げて、キツくても一緒に頑張ろう、という雰囲気があります。練習に対して、みんなで頑張っていこう、という気持ちがまとまっている感じがして、とても良いチームだと思いますし、僕ももっと頑張ってインカレでチームに貢献できるようになりたいです」(碓井選手)

 

昨年のインターハイで200m自由形のチャンピオンに輝いた森本勇気も「碓井くんと一緒で、練習中に先輩後輩関係なく気持ちをお互いに盛り上げて取り組めているので、とても良いコミュニケーション取れている雰囲気のチームだと感じています」と話す。

 

「チーム全員が目指す目標がひとつにまとまっているからこそ一緒に頑張っていける。しんどくても、先輩が後輩に『頑張ろう』って声をかけてくれます。そういうところも含めて全てが、日本大学水泳部のチーム力につながっているんだと思います」(森本選手)

 

1つの目標を掲げるだけではなく、そこに情熱を持って全力を尽くせるかどうか。この熱い気持ちを常に主将が継承してきたからこそ、その思いを同級生や後輩たちにも受け継がれ、チームが本当の意味で“一丸”となる。その結果、勝ち続けられる強さを持つチームであり続けることができたのである。

上野監督は「自分で考え、行動し、周りを巻き込みながら全力を尽くす。この経験が、必ず社会人になっても役に立つ」と話す。

「その全ての答えは、水の中にあります。水泳を通して、4年間で少しでも多くのことを学んでほしい」(上野監督)

 

この“熱い”思いが継承される限り、日本大学水泳部の伝統は紡がれていく。

高大連携で生まれる刺激が選手たちの成長を促す

目黒区碑文谷にある日大水泳部の50mプールでは、強化期間に付属校もトレーニングを行っている。取材の日、練習に来ていたのは目黒日本大学中学校・高等学校水泳部だ。

 

「大学生たちの練習風景を実際に見ることで、自分たちが大学で何ができるのか、どんなことができるのかが明確になるので、学ぶことが多いですよね。また、大学生の格好良い姿を観て憧れを持って『あんな選手になりたい』と生徒も練習を一層頑張る。非常に刺激をいただける高大連携は、私たちにとってとてもありがたい機会です」と、顧問の中條秀俊先生は言う。

 

反対に、大学生たちは高校生たちの前で恥ずかしい姿は見せられないと気合いが入る。環境を共有する高大の連携は、双方にとって非常に大きなメリットが生まれているのである。

特集一覧へ