1956年創部のゴルフ部。これまで多くのプロ選手を輩出してきた。ゴルフは個人競技だが、大学では団体戦があるため、同部はチームワークや部内でのコミュニケーションを大切にしているという。チームビルディングについて、指導者・選手らに話を聞いた。

社会貢献にもつながる8つの委員会の存在

60年以上の歴史を誇る日本大学ゴルフ部。現在は、男女合わせて122人の部員が所属する。自身もOBであり、17年前に監督に就任した和田光司監督は、それまでなかった部の理念を「基本方針」として次のように掲げた。

 

「日本大学の建学の精神に基づき、競技ゴルフというスポーツを通じ、心技体の向上をめざし、社会に貢献しうる人材育成を行う」

選手としてはもちろんのこと、人としての成長を大事に指導し続ける和田監督

選手としてはもちろんのこと、人としての成長を大事に指導し続ける和田監督

指導者、選手が皆暗唱しているこの基本方針。掲げた背景にあるのは、和田監督がチームワークを重要視していること。なぜか。

 

「プロの育成ではなく、あくまで社会で通用する人間を育てたい。大学というのはそこへ向かう通過点だと考えています。個人競技でありながら、周囲のさまざまな人と関わり合って成長していける人材を育てるというのが、我々の大切にしている部分なのです」

 

個人競技であるゴルフでも、オリンピックでは団体戦を種目に追加する話が持ち上がった。実現には至らなかったものの、和田監督も「やっぱり盛り上がるのは団体戦」だと言い、団体戦のある大学では、チームワークが必須だと言う。そのチームワークは、日頃の積み重ねが重要であるとも和田監督は考える。実際、同部は静岡県の三島市に寮を構えており、8割ほどの部員はここで寮生活を送っている。試合や練習だけでなく、生活を共にすることで、さらに強固な絆が生まれるのだ。

さらに、特筆すべきは部内にある8つの「委員会」の存在。部の活動を広める「広報委員会」をはじめ、朝練を取りまとめる「トレーニング委員会」、生活を管理する「寮生活管理委員会」、さらには大学の授業や単位取得に関してアドバイスをする「学務推進委員会」などがあり、選手たちは皆いずれかの委員会に所属している。

 

ゴルフ部らしいものの1つは「キャディー委員会」。練習場を提供してもらう代わりに、選手の中からボランティアでキャディーを出すのだ。年間で2500~2700回ほど出ている計算になるというから驚きである。練習場確保のギブアンドテイクになっているだけでなく、ほかの人のキャディーとして回ることで、人とのコミュニケーションが生まれるいい機会にもなっていると言う。

 

「一般的な組織には、キャプテン、副キャプテンがいて統率力を発揮しますが、日頃の行動の細部まで目を配るのはなかなか難しいもの。だからこそ、できるだけ小集団化して、横と縦の連携をより強いものにするために委員会活動を始めました。それぞれの小集団が、結果として一つのチームとしてやっていくために、非常に有効だと感じています」

男女の主将が語る同部の魅力、利他の精神で全国アベック優勝を目指す

和田監督は、コーチ陣、キャプテン、マネジャーら現場で運営・統括を担う人材へ「よく頑張ってくれている」と労う。そんな男女のキャプテンの選出は公選制。自ら立候補して就任したという、男女各キャプテンにも話を伺った。

チームワークの良さはどこにも負けていないと杉浦男子主将。結果でもチームを引っ張る良き兄貴分だ

チームワークの良さはどこにも負けていないと杉浦男子主将。結果でもチームを引っ張る良き兄貴分だ

男子部キャプテンの杉浦悠太選手(国際関係・4年)は、国内でもトップレベルの実力者。昨年の日本オープンでは、プロ選手もいる中で3位に入賞した。福井県の高校出身の杉浦選手は、気候が暖かく、冬でも練習できる環境に惹かれて本学に入ったといい、主将の立場から「チームワークはとてもいい」と胸を張る。

 

「ゴルフ以外の人間関係を築けているのも、基本方針に基づいてコミュニケーションをとれているからこそ。ほかの大学に比べても、チームワークの良さは負けていないと思います」

 

1年生の時のキャプテンの姿を見て憧れ、100人を超える部活を引っ張っていける人になりたいと思って立候補したという杉浦選手。「後輩が先輩にアドバイスを求めやすい雰囲気づくりをするために、まずは自分が積極的にみんなに話しかけるようにしています」と、縦のつながりを強めるための工夫を明かした。

 

「チームでやるべきことも、例えばなんでも1年生に任せるのではなく、先輩である上級生たちが積極的に動くこと。そういう姿を後輩たちに見せることも、縦のつながりや信頼関係の構築につながると思って行動するようにしています」

 

1年生の井上耕太朗選手(国際関係)も「ゴルフは個人競技ですが、チームで動くことが多く、チームワークの良さが日大の魅力だなと思います」と、部内の絆の深さを早くも実感している。

飯村女子主将(左)と杉浦男子主将(右)はそれぞれお互いに情報交換しながらチームを支えるために何が必要かを考え、行動している

飯村女子主将(左)と杉浦男子主将(右)はそれぞれお互いに情報交換しながらチームを支えるために何が必要かを考え、行動している

本学を選んだ理由を、合宿が盛んでレベルの高い選手に揉まれて実力を伸ばしたかったからと話すのは、女子部キャプテンの飯村知紗選手(国際関係・4年)。ゴルフのオフシーズンである12~2月には強化合宿があることを知り、そういった環境で技術を磨いていくことを決意したという。実際に力がついて、今春の団体戦優勝にも貢献した。

 

「基本方針に沿って、礼儀も学べる場所。どうしても団体戦で勝ちたいという思いがあって、そのために女子は特にチームワークが重要だと感じ、キャプテンに立候補しました。今まで団体戦で悔しい思いをしてきたので、新しく入ってきた後輩たちと、その思いを晴らせたことは本当に良かったと思っています」

 

チームビルディングのためにはコミュニケーションが最重要だと考える飯村選手。「ほかの選手たちも協力的に話をして助けてくれるので、周りのみんなには本当に感謝しています。部員が多いとまとめるのは大変だと思われるかもしれませんが、その分みんなで協力し合えているので本当にいい環境にいるなと思っています。今年の部の目標が『執念で勝つ、常勝日大』なので、個人でも団体でも勝ち続けること。そのために、ゴルフ以外の部分でも、『さすが日大だな』と周りに思ってもらえるような振る舞いを心がけていたいです」と力強く語った。

普遍的な「基本方針」を土台に活動するゴルフ部。両キャプテンが語った目標は、ずばり「全国アベック優勝」。その言葉を体現する第一歩として、両チームが関東大会で優勝した。まさに有言実行である。

 

寮長であり、三島のチームを指導する小野英秋コーチも、頼もしい両キャプテンの存在は、今年のチーム作りには欠かせない存在だと太鼓判を押す。

「2人とも、自分が前に出て引っ張っていくタイプではありませんが、みんなに寄り添ってくれるので、その部分が部内のチームワークにうまく機能していると思います」

自分で考えて行動できる選手をこれからも育てていきたい、と小野コーチ

自分で考えて行動できる選手をこれからも育てていきたい、と小野コーチ

チーム全体のマネジメントは和田監督、現場での指導は小野コーチと、指導者側の役割分担も徹底。現場でチームを見ている小野コーチは、日頃から選手たちに思いやりの心をもつことの大切さなどを伝えるのに骨を折るが、そういった指導が行き届いていることを実感できる場面にも遭遇する。

 

「手前味噌ですが、日大の選手たちは礼儀がしっかりしていると外部からお褒めの言葉をいただく場面は多々あります。個々が自分で考えて行動することの重要性をもっと説いて、引き続き皆さまにそう言っていただけるようなチーム作りをしていかないといけないと、身が引き締まる思いです」

 

和田監督も小野コーチも利他の精神をもった人材育成を心がけながら、60年以上の歴史と伝統に責任をもって目指すべき道を模索している。その精神は、キャプテンを通して部員全員に浸透し、伝統ある日大ゴルフ部としての礎となり、チームがひとつになる大きな土台となっているのである。

特集一覧へ