1948年の創部から数えてインカレ25回もの優勝を誇る強豪。今年に入ってもリーグ戦で36回目の優勝を飾るなど強さを見せている。

特徴は単に勝てるチームではなく、”勝ち続ける“チームであることだ。その強さの秘密は、人としての成長を促す指導にあった。

最高の練習環境で目指すのは、大学4年間での人間的成長

ピストは6面もあり、どこよりも充実した施設で選手たちは伸び伸びとトレーニングに励んでいる

ピストは6面もあり、どこよりも充実した施設で選手たちは伸び伸びとトレーニングに励んでいる

東京都心から電車に揺られることおよそ15分。京王線八幡山駅を降りて商店街を抜け、のどかな住宅街を歩くと15分ほどで本学アスレティックセンター八幡山が見えてくる。4つの競技スポーツ部の専用練習場と球技対応のメインアリーナ、トレーニングルーム、地上3階、地下3階建ての総合運動施設である。施設には学生寮(アスレティックヴィレッジ八幡山)が隣接し、敷地北側に整備された植栽豊かな小径は、地域に溶け込みながらも緩やかな境界となっていて、学生がのびのびと練習に打ち込める環境となっている。

 

本学フェンシング部の練習場はこの施設の地下3階にある。練習用ピストは6面。天井は高く、明かり取りの窓からは自然光が差し込む、明るく広々とした空間だ。ここから数多の選手が育ち、幾多の栄光が紡ぎ出されてきた。

 

現在、チームを指揮するのは卒業生の山﨑茂樹監督である。

2003年の監督就任以来、全日本学生選手権(インカレ)をはじめとする国内主要大会で結果を出し、常勝軍団へと育て上げた名将だ。昨年はインカレで男子がエペ団体を制し、女子は団体3種目(フルーレ、エペ、サーブル)完全優勝。これにより国内主要大会(※)での男女団体優勝が101回に到達した。個人でもこれまで37人もの国内チャンピオンを育て、日本代表として活躍する選手も多数輩出してきた。2021年東京五輪男子エペ団体で金メダルを獲得した山田優選手(2017年・文理卒/山一商事)もその1人である。

山﨑監督は自身も選手として日大の黄金時代を支えたひとりだ

山﨑監督は自身も選手として日大の黄金時代を支えたひとりだ

なぜこれほどまでの実績を収め続けているのか。

そこには、人間的成長を軸にした“山﨑監督流チームビルディング”がある。

 

「大学4年間は人間形成の場です。ですから、僕が目指しているのはフェンシングを通して人間性を高め、次のステージでも輝けるように学生が成長することです。毎年、部の目標はインカレ優勝としていますが、それは高いところを目指すとそれだけ努力をして、学ぶものが多いからです。だから学生には、強いだけじゃなく、応援される人になろうと言っています。僕としては最終的には学生ひとり一人の成長が見られれば満足なんです。要するにフェンシングを通して豊かな人生を送ってほしいんですよ」

 

強いだけではなく、応援される人を目指し、フェンシングを通した豊かな人生を送る——。それは何も特別なことが必要なのではない。例えば挨拶をきちんとしたり、時間を守ったり。人として当たり前のことを当たり前にすること。そうした日常の積み重ねが、人を成長させる。山﨑監督はそう考えている。

 

「僕が監督になった当初、学生の中には練習に遅れてきたり、寮の部屋に籠もって授業にまともに出ない人間がけっこういたんですね。そういう状態だとやっぱり競技成績も良くないんですよ。ですから、私が監督になってからは学業優先としました。するとすぐに変化がありました。勉強をしっかりやるとフェンシングでもちゃんと結果が出るようになったんです。私は50歳で都市銀行を早期退職して監督になりました。だから、毎日練習に来ることができるので学生ひとり一人に目が届いた。それも良かったのでしょう」

 

学生としてのまっとうな規律ある生活があって初めてフェンシングでも成長する。本学のフェンサーたちは、代々それをコツコツと実践してきたのである。

学生もそれぞれが役割を認識、途切れのない独自の運営

結果が技術だけではなく、人とのコミュニケーションがチームづくりには大事だと男子主将の木村選手

結果が技術だけではなく、人とのコミュニケーションがチームづくりには大事だと男子主将の木村選手

現役の学生たちも、それぞれがやるべきことをよく理解している。男子キャプテンの木村友哉選手(法・4年)はこう話す。

 

「キャプテンとして一番大事なのはコミュニケーションだと思っています。ですから、部員が何でも言いやすいように、自分から積極的に話しかけるようにしています。でも、キャプテンは言わなきゃいけないことがいっぱいあるので、やっぱり怖がられることもあるし、話しかけにくいんだろうなぁと思う場面もあって、難しいところもあります。それにさすがに部員が64人もいると1人ではまとめきれません。でも、チームをまとめるのは僕ひとりではなくて、うちの部には女子のキャプテンと男女の種目キャプテンがいるので、定期的にミーティングをして情報を共有して、それぞれから必要なことをチームに広げていっている、というイメージでやっています」

女子総務の鶴岡夏子選手(法・3年)が心がけているのは「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」だという。

「監督とコーチをつなぐのが総務の役割だと思っているので、特に連絡は早くするようにしています。監督とコーチと学生、それぞれが理解できるように伝えることを大事にしています」

 

そしてこんなことも。

「日大では年間を通じて競技スポーツ部を対象にキャプテン・総務研修会が開かれています。私も参加していてとても勉強になっているのですが、『自分の名刺を作る』ことをテーマにした講義が心に残っています。ひと言で自分を表せる、名刺になるような特徴を考えよう、という内容でした。私の特徴はまじめかな、と思ったのですが、総務としてはそれだけじゃ足りないと思って、みんなが話しかけやすいように、ニコニコ笑顔でいることを心がけています」

 

かたや、「目立たない存在」を目指しているのは男子総務の内ヶ崎良磨選手(法・3年)である。

「正直言いまして、総務という役職は誰かがやらなきゃいけないけれど、やりたがる人はいないというところでしょうか。仕事の内容は多岐にわたり、大会のエントリーから結果報告、他大との連絡、寮の掃除の点検など数えきれません。地味な仕事ばかりで決して目立つ立場ではないのですが、だからこそうちの学年では僕にしかできないと思っていますし、自分がどんどん目立たないようにしていく、ということを意識しています。総務の存在が目立たないほど日大フェンシング部が輝くと思いますし、輝いてほしいからです」

練習中に話し合うことで練習の効果も高まる。金子選手はそれを体感しているという

練習中に話し合うことで練習の効果も高まる。金子選手はそれを体感しているという

もちろん、チームのために行動しているのは幹部学生だけではない。昨年のインカレで1年生ながら女子サーブル団体・個人でダブル優勝を飾った金子優衣奈選手(文理・2年)はこんなふうに捉えている。

 

「団体戦は相手の状態についてお互いに助言しながら試合をしていくことが大切なので、メンバーの信頼関係が必要です。日大は合宿でも普段の練習でも、みんなで協力してつくり上げていくという雰囲気があって団結力があるんです。だから強いのだと思いますし、私はこういう雰囲気の中でフェンシングがしたくて日大を選んだので、来てよかったと思います」

多くの競技部では4年生の役職となっている総務を、フェンシング部では3年生が担当している。これは4年生が引退したあともチーム運営が途切れないようにするため、山﨑監督が採用したシステムだ。実に合理的であり、権限が4年生に集中するのを防ぐという点から見ても極めて民主的といえる。しかも、このシステムは当初の狙い以上の効用をチームもたらしているようなのだ。

 

例えば、男子総務の内ヶ崎選手は、1学年上の先輩が総務として奮闘する姿を見て、すでに2年生のときからチーム運営について考えを巡らせていた。

「去年の総務は今年のキャプテンの木村先輩が務めていたのですが、その様子を見ていて、誰にでもできる仕事ではないと思っていました。総務というのは、キャプテンとは別の立場からチームメイトに対して厳しいことを言わなきゃいけなかったりするので、好かれる立場の人ではないんですね。むしろ嫌われるといいますか…。でも、そういう先輩の姿を見ていたので、誰かがやらなきゃいけないなら自分がやろうと思って総務を引き受けたというわけです」

 

女子総務の鶴岡選手は、3年生という学年が担うことに意味があると捉えている。

「3年生は中だるみしやすい学年なのかな、と思うんです。1、2年生という下級生ではないけれど、最上級生でもないから、チームに対して責任を感じにくい。下級生は何かとチーム内の仕事があって緊張感があるのですが、3年生はそれがなくなって解放感を覚えるようなところもあるんです。だから、何も役割がないと緩んでしまうのかな、って。でも、総務という役割があるから、チームのために何かしようという気持ちが生まれるんです」

 

いかがだろうか。3年生総務担当制は、その機能だけでなく、学生に日本一を目指すチームの一員としての自覚を養う役割を果たしているとは言えないだろうか。

コーチ陣も役割分担を明確にすることでチーム全体のバランスが良くなる、と錦織コーチ

コーチ陣も役割分担を明確にすることでチーム全体のバランスが良くなる、と錦織コーチ

チームは将来を見据えて数年前から指導体制を変更。現在は山﨑監督と本学教員の佐藤秀明、錦織千鶴両コーチによる3人体制となっている。錦織コーチは言う。

 

「監督からは学ぶことばかりでまだまだ勉強の身ですが、3人のバランスはとても良いと思っています。大学の部活動はいわば社会の縮図のようなもの。当部で言えば、監督は社長で私たちコーチは管理職で、学生が一般の社員と言ったところでしょうか。私の仕事は監督と学生をつなぐことです。双方の考えを聞き、噛み砕いて伝えることでチーム内の意思疎通をより円滑にするというイメージですね」

 

山﨑監督も2人のコーチに全幅の信頼を寄せている。

 

「2人とも学生に寄り添い、話をよく聞く指導者です。私はどちらかというと学生と距離を置く方だから、3人体制がうまくいっているのだと思います。これからは技術指導を2人にさらに任せ、私はフェンシング部という城が崩れないようメンテナンスをしたり、良い選手に来てもらうための勧誘にさらに重心を移していきたいと思っています」

時刻は夕方4時を回った。

「こんにちは!」

白色のユニフォームをまとった学生たちが、元気よく挨拶をしては練習場に吸い込まれてゆく。今日もまたここ八幡山で強い日大がつくられる。

 

※主要5大会=関東学生リーグ戦、全日本学生王座決定戦、関東学生選手権、全日本学生選手権、全日本選手権

特集一覧へ