全国学生相撲選手権(インカレ)団体戦優勝31回と、他の追随を許さない実績を誇る日本大学相撲部。

個人で勝敗を分かつ競技特性の相撲において、チームとして強さを発揮し続ける礎とは。

4年生に求められるリーダーシップ

学生相撲の最高峰の舞台・全国学生相撲選手権(インカレ)では、団体戦(5人制)通算優勝回数は31回。2位の拓殖大学が通算9回であることを見れば、その歴史における日本大学の存在感は、圧倒的に際立つ。初優勝は1941年(昭和16年)、昭和時代に7連覇、平成時代に5連覇などの黄金時代を構築。その時代、時代の変化に対応しながら「常勝」の誇りを醸成し、継承してきた。大相撲で活躍するOBも多く、古くは学生出身で初の横綱となった輪島(1970年卒)、平成では小兵ながら多彩な技で多くの観客を魅了した舞の海(1990年卒)、現役では遠藤(2013年卒)など、60人近い力士を輩出し続けてきた。

4年生を中心に据えることで、チームが本当の意味でまとまる、と木﨑監督は言う

4年生を中心に据えることで、チームが本当の意味でまとまる、と木﨑監督は言う

元来、個人競技である相撲において、なぜここまでチームとしての強さを維持してきたのか。自身も選手として活躍し、2013年から監督を務める木﨑孝之助監督は、「うちの鍵を握るのは4年生」と言う。

 

「寮では、稽古と食事以外の時間は、学生だけになります。そういう日常生活の中で4年生がしっかりとした態度で、その上で仲良くしなければ、下級生を含めてまとまるわけがありません。その良し悪しは必ず競技面にも影響が出ます」(木﨑監督)

 

相撲部の寮は、JR阿佐ケ谷駅から徒歩10分前後、閑静な住宅街の中にある。1階に2つの土俵と食事用の広間、地下1階にウエイトルームがあり、授業以外の全てが完結する環境にある。ゆえに稽古においても4年生の存在は大きなものとなる。

 

「4年生は自分の練習だけではなく、下級生の相手をすることも大切です。もちろん4年生より強い下級生もいますが、言葉で指導はできます。きちんと日常生活を送り、一生懸命やる姿を見せることで信頼を得れば、先輩の言葉に後輩は耳を傾ける。逆に先輩が後輩から教えてもらうこともある。そのような人間関係を築くことで良いチームが出来上がっていくのです。これは、最近だからというのではなく、昔から変わりません」(木﨑監督)

何事にも一所懸命に取り組むからこそ、結果がついてくる

何事にも一所懸命に取り組むからこそ、結果がついてくる

入学してくる選手は、高校時代の実績はもちろん競技に対する意識の高い選手が多い。しかし、良い選手が揃っているだけでは、強いチームにはならない。

 

「学業面でもいろいろなレベルの子がいますが、練習で一生懸命に取り組む子は授業も出席し、単位も取るものです。これは勉強のできる・できないではなく、真面目かどうかという話で、競技にも通じる部分。部全体の雰囲気もそうした姿勢から醸成されると考えています」(木﨑監督)

 

その鍵となるのは4年生であり、「彼らが下級生をいかに引き上げるか」が強さのバロメーターになるという。

役割を分担し責任を共有する

技術的な指導を担うのは熊谷コーチ

技術的な指導を担うのは熊谷コーチ

一方で、部の運営は役割分担が明確になされ、果たすべき責任が見えやすくなっている。2023年度は総勢52人という大所帯ゆえとも言えるが、スタッフは木﨑監督ほか、熊谷涼至コーチが全体的な技術指導を担当する。

 

「10年近くコーチを務めていますが、以前よりも筋力トレーニングを重視する傾向は、強くなってきていると思います。ただ、基本的な取り組みについては、選手個々の特性、技術に合わせた形で行なっているので、特別に以前と変わったことはありません」(熊谷コーチ)

石前コーチは、選手たちの生の声を聞くことで相互理解のある本当の指導ができると話す

石前コーチは、選手たちの生の声を聞くことで相互理解のある本当の指導ができると話す

そして石前辰徳コーチは、選手とのコミュニケーションを通して現状を把握し、監督と選手の橋渡し役を務める。加えて選手に年齢が近い、実業団クラスで現役を続けている3人の部付きコーチたちは、時に学生の稽古相手を務めることもある。

 

「今の選手たちの気持ちを理解するには、やはりコミュニケーションが大切です。中には『報告・連絡・相談』が苦手な子もいますが、一方通行では本音を引き出せませんので、何でも言いやすいような関係を心がけています。技術的なアドバイスもしますが、選手から見ると多くの人からいろいろと言われると混乱することもあるので、選手本人が理解していない時に噛み砕いて指導する感じです」(石前コーチ)

競技に対してだけではなく、生活面でも率先して手本になるように行動する草野主将

競技に対してだけではなく、生活面でも率先して手本になるように行動する草野主将

学生たちは、今年度の主将を務める草野直哉選手(文理・4年)と総務の谷山隆太選手(文理・4年)を中心に部員の状況を把握し、監督やコーチ陣との情報共有を図りながら、規則正しい寮生活に努める。

 

「個人としてはこれまでやってきたことを継続して強くなっていくだけですが、キャプテンになった以上、みんなをまとめていかなければという自覚はあります。特別に何か変えたことはありませんが、生活面では普段使っている物、トレーニング器具であったり、ちゃんこの道具などを大切にすることは意識しています。きれいに使ってきれいに戻す、が基本です」(草野主将)

 

谷山総務も草野主将とともに、部を支える大事な存在だ。

 

「総務は裏方的な役割なので、まず競技では全員、ケガなく過ごせるよう、選手個々人の状態を把握しながら生活面の手助けをすることです。みんな一緒に寮で生活していますので仲は良いですし、衛生面にも気を配っていますが、授業の出欠状況、単位の取得状況も把握して、後輩には授業の取り方などもアドバイスすることもあります。また、監督やコーチとも部全体の情報を共有することも大切な仕事ですし、その点はきっちりできていると思います。みんなで一致団結できるよう、手助けできればと考えています」(谷山総務)

役割を明確にすることで責任感が生まれる。選手にとって大切なちゃんこ番もそのひとつ

役割を明確にすることで責任感が生まれる。選手にとって大切なちゃんこ番もそのひとつ

マネージャーは3人いて、ちゃんこの仕込みを主導する。掃除についても土俵、広間、階段などを細かく分けて責任者を決め、こなしていく。役割を明確にして全員で責任を共有することは、連帯感を生み出している。

 

「良い意味での上下関係がしっかりしている一方で、学年に関係なくみんな普通に話せる関係にあることも特徴。練習中は集中していますが、土俵を離れたら自然と切り替わります。同じ空間、同じ時間を共有するので、そうした切り替えは大切になってくるのです。今年の1年生は積極的に上級生に話しかけてくるタイプが多いので、自分も個別に話をして、性格を知るようにしています」(草野主将)

 

そして、主将として今年の目標を尋ねられると、「4年生が個人戦でも団体戦でも強くなって、下級生を引っ張っていきたい」とした上で、ハッキリと「インカレの団体戦では、2連覇を果たしたいと思います」と答える。

 

「勝負はやってみなければ分かりません。時の運もあります。やはり大切なのは、その過程です」(木﨑監督)

 

学生相撲界に刻み続ける「強者」の歴史は、これからも続いていく。

相撲部 「わんぱく相撲」の運営協力で地域貢献

大学相撲界をリードする本学相撲部は、寮・稽古場がある杉並区のほか渋谷区・新宿区・墨田区・台東区などで行われる「わんぱく相撲」の運営に毎年協力している。出場する小学生に、競技の礼儀作法や禁じ手の説明を実演。第45回わんぱく相撲新宿区大会実行委員長の加藤翔大さんは「日大相撲部のお力をお借りすることで良い運営ができている。とてもありがたい」と話す。

 

子どもたちにスポーツに触れる機会の創出、心身の鍛錬と健康の増進、地域コミュニティの構築を目的とした「わんぱく相撲」。地域に根付いた活動の発展に本学相撲部が縁の下の力持ちとして寄与している。

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