全日本学生馬術三大大会において3種目総合12連覇という圧倒的な強さを誇る馬術部。 神奈川県藤沢市六会に厩舎と学生寮を構えてから60年近く、これまで何度も改築・増築などを行ってきたが、 老朽化対策と施設充実を図るため2021年秋より全面的な建て替え工事をスタートさせた。
そして2023年6月、学生寮と厩舎が一体化した新たな馬術部ベースが竣工。 馬と共にくらし、仲間と共に学び、人として成長しながら、部員たちはまた勝利の歴史を塗り替えていく。
ここで学び、ここで励み、伝統に新たな歴史を刻んでいく。
2023年6月8日(木)。梅雨の晴れ間となったこの日、早朝からの練習後に慌ただしく馬の世話を終えた馬術部員たちは、揃いのブレザーに着替えて新学生寮の玄関前に集合。10時過ぎから催される修祓式を前に、 諸岡慶監督はじめコーチ陣と共に、「日本大学馬術部」と書かれた真新しい看板の前に整列して記念撮影を行った。
修祓式は、酒井健夫日本大学学長、澤田康広副学長(競技スポーツ担当)ほか主賓によるテープカットに続いて、亀井神社神職による神事が行われ、本部関係者および馬術部関係者、設計・施工会社関係者などが参列。今後の日々の安全を願い、玉串を捧げるなどの儀式が執り行われた。その後の学生寮と厩舎の内覧では、厩舎設備の充実ぶりに来賓から感嘆の声も聞かれた。馬術部員による演技披露、設計・施工業者への感謝状・記念品贈呈をもって、修祓式は無事閉式となった。
酒井健夫学長(左から3番目)ほか主賓によるテープカット。
馬術部近隣に所在する亀井神社が神事を執り行った。
先進の設備を導入した新厩舎
廐舎を視察した酒井学長(左)に説明を行う諸岡監督。
今回竣工した建物は、1階が厩舎、2階が学生寮という人馬のくらしが一体化した特殊な構造。中でも床面積約1,200㎡の 広さを誇る厩舎の設計にあたっては、海外から厩舎設計の実績を持つ設計者を招き、 諸岡監督の意見や要望も伝えたという。
「馬が大型化しているので、馬房は広めにしてほしいと言いました。また、人馬の安全面を考慮して通路も拡げるようお願いしたり、空気の流れや人間の動線についてもシミュレーションを重ねました」
馬がストレスを感じないよう、ゆとりを持って過ごせる広さが確保された空調付き馬房が37室設けられているほか、馬のケアに効果的な設備が導入されるなど、人馬にとっての高い機能性と快適性を兼ね備えた新厩舎。 海外から取り寄せた砂を敷いた水捌けの良い練習馬場と共に、ハイパフォーマンスを引き出す礎は、大学屈指のレベルと言えよう。
風通しが良くて明るい馬房。既存廐舎に残る馬とあわせて、現在33頭の馬がくらしている。
従来に比べ約1.5倍ほど広い馬房には、自動給水装置や専用エアコンが設置されている。
赤外線ランプが設置されたソラリウム室。運動後のリラクゼーション効果や馬体の血行を良くしたり、素早く乾燥させることができる。
蹄洗場を屋内と屋外に5つずつ設置し、同時に最大10頭の馬をつないでおくことが可能になった。
蹄洗場(屋外)
SDGsが縁で描かれた、藍の壁画にも注目
新厩舎の内壁と学生寮前の外壁には、地元・藤沢で「藍左師」として活動する守谷玲太氏が中心になって描いた壁画がある。日本伝統の藍と現代左官を融合させ、独自の技法でアート制作を行っている守谷氏は、染料となる藍を育てるために、馬術部から提供される大量の馬糞を原料として作った堆肥を使用している。このサステナブルな縁から、昨年は選手のユニフォームや馬のゼッケンの藍染を手掛け、今回の厩舎新築にあたっては壁画を描くことになった。「1つ目(写真左奥)は馬術部の夜明けというテーマを波と月で、2つ目(写真左手前)は連覇が続く輝かしい歴史のイメージを川と桜で表現。外壁は、藤沢を象徴する藤の花と黒松、そして躍動する馬の姿を描きました」と守谷氏。「制作中に近隣住民の方と作品についてお話しする機会もあり、地域社会とのコミュニケーションという面でも意味あるものになりました」と語った。
機能的な設備の中で営む人馬一体の共同生活
厩舎の2階に設けられた新学生寮は、馬術部員としての役割を果たしながら、日々の学生生活を有意義に送るための機能性と快適性を兼ね備えている。
広々としたウッドデッキに面したエントランスを入ると、正面のガラスケースに飾られた、 創部99年の栄光の歴史を物語る数々の優勝トロフィーや優勝旗が目に入る。また、エントランス横には事務室が設けられ、寮内外に設置された防犯カメラ映像をモニターできるなど、夜間はオートロックとなる玄関ドアと共に、セキュリティへの配慮もされている。
玄関前に揃った部員と監督・コーチ陣(左)。学生寮の入り口に掲げられた看板は、林真理子理事長が揮毫(右)。
夜間はセキュリティロックがかかるエントランス。
玄関正面のガラスケースには歴代の優勝トロフィーなどが飾られている。
エントランスから左側は、食堂兼ミーティングルームとトレーニングルームが並ぶ共有スペース。大きなガラス窓の開口部が特徴的な開放的な空間に、小洒落たテーブル&チェアが並び、さながらカフェテリアのような雰囲気を醸し出している。ワークスペースとしても使える窓際のカウンター席からは練習馬場を一望でき、練習中の部員たちの様子を見守ることができる。間仕切り棚で区切られたトレーニングルームには、ランニングマシンやフィットネスバイクなどが配置され、空き時間を使って自主練習が行える。また、食堂に隣接して厨房設備が設けられ、外部フードサービスに委託して、栄養士による栄養管理に基づいた食事が朝夕提供されることになっている。
大きな窓から光が差し込む食堂兼ミーティングルーム。壁際にはこれまで活躍した人馬の写真などが展示されている。
食堂から馬や人の様子をチェックできる。
床でストレッチを行うこともできるトレーニングルーム。
玄関から右のエリアは、最大24人の学生を常時収容できる居住スペース。プライベー ト性も確保できる2段式ベッドが備えられ、 1部屋4人で先輩後輩がいっしょに過ごす中、チームメイトとしての絆を培っていく。
また、馬の世話のため寮を訪れる女子部員のための専用エリアや、監督・コーチ陣のためのゲストルームも設けられている。
明るい居住エリア。
4人1部屋で共同生活を送る居室。
8台の洗濯機・乾燥機が並ぶランドリールーム。
朝食・夕食は栄養バランスが考慮された食事が提供される。
新しくなった環境と充実した設備の中で活動できる喜びと感謝を口にする馬術部員たち。10月末からの全日本学生三大馬術大会13連覇をめざして、人馬一体の心と技を培い、自信と力を育む鍛錬の日々は、これまでと変わることなく続いていく。
創部100周年を前に負けるわけにはいかない。
新築計画がスタートして3年以上、無事に竣工の日を迎えて1区切りつき、ここまでお力添えいただいた関係各位の皆さんに大変感謝しています。しかし、ほっとしている反面、これだけ素晴らしい施設ができたのだから成績を落とすようなことはできないという不安もあります。特に来年は創部100周年となりますから、今年負けるわけにはいかないという、今までとは違ったプレッシャーも感じています(笑)。
しかし学生たちは、この施設を管理していかなければいけないという点で心構えも変わってきていると思いますし、2年以上外部で寮生活を送っていた部員たちにとっては、ここで生活できることが大きなモチベーションになっていると思います。
全日本学生13連覇という目標に向けても、選手たちの日頃の練習内容と実力をもってすれば、必ず成績もついてくると思うので、プレッシャーに負けずしっかりやってほしいし、やってくれると信じています。
日本大学馬術部監督 諸岡 慶