大学テニスの日本一を決める団体戦「2024年度全日本大学対抗テニス王座決定試合(男子78回/女子60回)」が10月30日(木)から東京・有明テニスの森公園で開催された。2年連続出場の日本大学テニス部男子は順当に勝ち上がり、11月4日(月・祝)の決勝で筑波大学と対戦。ダブルス3試合を勝ち切って勢いに乗った本学が、シングルスでも着実に勝利を重ねて7勝2敗とし、平成16年以来となる20年ぶり4回目の大学王座についた。
昨年、本学男子は関東大学リーグで2位に躍進して本大会に19年ぶりの出場を果たしたが、決勝で同リーグ1位の慶應義塾大学に屈し、惜しくも準優勝に終わった。その悔しさを胸に、この1年、選手たちは再びこの舞台で頂点に立つことをめざして、日々の練習と自己研鑽に努めてきた。
そして今年、関東大学リーグ戦を無傷の5連勝で優勝し、2年連続となる王座決定試合へ、堂々第1シードでの出場を決めた。
11月1日(金)の2回戦から登場した本学は、東海代表の愛知学院大学に9試合(ダブルスD1〜D3・シングルスS1〜S6)で1つのセットも落とさずポイント9-0で完勝。雨のため1日順延となった3日(日)の準決勝も、関西大学(関西大学リーグ1位)を相手に、ダブルス1試合を落としたものの、シングルスで3勝したところでポイントが5−1となり勝利が確定(S4以降打ち切り)し、危なげなく決勝へと駒を進めた。
「王座奪還」への決意を寄せ書きしたフラッグ
円陣を組んでの声出しが試合前のルーチン
ダブルスの勝利で勢いをつかむ
爽やかな秋晴れとなった4日(月)の決勝戦の相手は、関東大学リーグ2位の筑波大学。リーグ戦ではダブルス1-2、シングルス6-0で勝利を収めていたが、全日本レベルの実績のある選手たちが揃い、決して侮ることはできない相手だ。
午前10時を回り、テニス部・山田眞幹監督が「優勝に向けての鍵となる」と考えていたダブルス3試合(D1/D2/D3)が同時に始まった。
チームに最初の勝利をもたらしたのは、D3の丹下颯選手(文理学部・3年)/高畑里樹選手(文理学部・2年)のペア。インカレ後から組み始めた2人だが、山田監督は「丹下はストローカーで、高畑はボレーヤー。2人のストロークとボレーが上手く噛み合って、いいペアになっている」と、関東リーグ戦を全勝したペアに期待を寄せていた。
「最初は緊張してお互いにいいプレーができなかった」(丹下選手)という第1セットは4-6で落としたが、「勝っても負けても、この決勝戦を楽しんでいこうという気持ちで行ったのが勢いにつながったと思います」と、第2セットは相手のサービスを2度ブレイクして6-1で取り返す。その勢いのままファイナルセット(10ポイントマッチタイブレーク)も7ポイントを連取するなど、筑波大ペアを10−2と圧倒。悲願成就に向けて幸先の良いスタートとなった。
試合中も笑顔が絶えなかった高畑選手(左)と丹下選手(右)
ポイントを取る度に、高畑選手はコートサイドで声援を送るチームメイトに向かって大きなゼスチャーで雄叫びを上げた
今年のインカレ個人戦優勝の本学のエース・高悠亜選手(スポーツ科学部・3年)と齋藤成選手(文理学部・4年)のペアが、筑波大のエース・田中佑選手のペアと対戦したD2は白熱の戦いになった。
第1セットは、1ゲームずつをブレイクし合ってもつれ込んだタイブレークを10-8で日大ペアが制する。続く第2セットも互いにサービスをキープしたまま6−5で第12ゲームに入った。相手のミスが続いてマッチポイントを握ると、最後はネット際に出た齋藤選手のボレーに反応した相手の打球が大きく外へ出ところでゲームセット。
「高と田中選手は大学ではトップの2人。エース同士のガチンコ勝負でほとんど差がないところでしたが、最後は気持ちで勝てたと思います。そして、ダブルスのスペシャリストである齋藤が、彼らについていってボレーとリターンで上手く対応してくれました」と、山田監督は大接戦を勝ち抜いたペアを称えた。
齋藤選手
息のあったプレーで勝利をつかんだ齋藤選手(左)と高選手(右)
2時間を超える熱戦を繰り広げたのは、主将を務める石垣秀悟選手(経済学部・4年)と副将の手嶋海陽選手(スポーツ科学部・4年)のD1ペア。筑波大主将の中村元選手が率いるペアに、いきなり3ゲームを連取される苦しい立ち上がりとなったが、山田監督からの指示でロブを取り入れるようにすると相手のペースが乱れ始めた。自分たちのペースを取り戻した石垣・手嶋ペアは、第1セットは粘りながらも4-6で失ったが、第2セットを6-3で取り返すと、ファイナルセットのタイブレークも10-3で制し、優勝に大きく近づく勝利を挙げた。
手嶋選手(左)と石垣選手(右)は、山田監督(後ろ)のアドバイスから自分たちのプレーを取り戻した
第2・第3セットを取って逆転勝ちした石垣(左)/手嶋(右)ペア
「最低1勝2敗で行ければ」という山田監督の想定を上回るダブルスでの3勝。しかし、山田監督は選手たちに、「相手はチャレンジャーの気持ちでぶつかってくるので、気を緩めるとやられる。最後までしっかり強い気持ちを持って臨むように」と話し、午後からの戦いに向けてチームを引き締めた。
コートサイドから選手たちに声援を送るチームメイトたち
「どれも厳しい戦いでした」とダブルスを振り返った山田監督
それぞれの思いがこもったシングルスの戦い
昼休憩をはさんで始まったシングルス6試合も、熾烈な戦いが続いた。
S4の小泉熙毅選手(通信教育部・3年)は、相手の粘り強いプレーにも「得意のボレーが良かったので、そこで攻めることができました」と落ち着いて対応。終始リードを保つ展開で7-5、6-3のストレートで撃破し、チームに4勝目をもたらす。「優勝がかかった試合で、自分としては良くないプレーも多かったのですが、みんなの声援に力をもらって勝つことができ、良かったです」と、安堵の笑みを浮かべた小泉選手。これでいよいよ優勝に王手をかけた。
S6の田岡大知選手(スポーツ科学部・4年)は気合いを全面に出して戦った。第1セットは5-1のリードから相手に粘られて追いつかれるが7-5で逃げ切る。しかし、第2セットを3-6で奪われると、ファイナルセットも3ゲームを先行される厳しい展開。互いに精度の高いリターンで長いラリーになることも多く、長時間の戦いに両者とも疲れが見て取れる。田岡選手もミスショットをして天を仰ぐ場面が増えてきた。マッチポイントを握られた2-5からのラリーでも、フォアハンドのリターンをネットにかけてしまい、惜しくも勝利をつかむことはできなかった。
「関東リーグ戦から負けていなかったので、学生最後の試合で負けたのは本当に悔しい」と話した田岡選手は、卒業後も実業団チームでプレーする予定で、「この悔しさは社会人になっても生きると思うので、この気持ちを忘れずに頑張っていきたい」と前を向いた。
随所にナイスショットが光った小泉選手
ファイナルセットの終盤、両者で43回打ち合う長いラリーを見せた田岡選手
その頃、通路を挟んだ隣のコートで戦っていたS5の手嶋選手も、筑波大・藤川選手と4年生同士、激しい戦いを繰り広げていた。
第1セットは両者2度のサービスブレイクとブレイクバックの末に手嶋選手が7-5で取った。第2セットも力強いフォアハンドに緩急を織り交ぜた攻めで4-1とリードしたが、ここから藤川選手に2度のブレイクを含む5ゲームを連取されて落としてしまう。この後、左足の不調を訴えた手嶋選手はメディカルタイムアウトを取り、内転筋のマッサージを受けた。「苦しい場面でしたが、仲間の応援のおかげで元気良くプレーすることができました」と、手嶋選手はコートの横で声を枯らすチームメイトたちに明るい表情を見せながらファイナルセットに立ち向かった。
「自分が勝てば優勝が決まる」とわかっていた手嶋選手は、脚の不安を感じさせない、軽快な動きでボールを追い続ける。ポイントを重ねる度に笑みを浮かべ、その表情は余裕すら感じさせるものだった。
このセット2度目のブレイクに成功してゲームカウント5-3にすると、第9ゲームでいよいよマッチポイントを迎えた。手嶋選手のサーブからの短いラリーで、藤川選手のリターンが右サイドラインの外側で弾んだ時、約3時間におよぶ大接戦に終止符が打たれた。手嶋選手の勝利によりポイントは5-1となり、本学の優勝が決まり、コートの周囲に大歓声が沸き起こった。ついにチームの最大の目標だった大学テニスの頂点に、20年ぶりに立ったのだ。
試合中もにこやかな表情を絶やさなかった手嶋選手。「笑顔でプレーすることで、自分自身も勇気づけることができるので、いつも心掛けて試合をしています」と話した
勝利の瞬間、手嶋選手はラケットを手放し、湧き立つチームメイトたちに向かい「どうだ」と言わんばかりに両手を広げて見せた
優勝が決まったコートのすぐ隣で戦っていたのがS3の石垣選手。序盤から積極的に前へ出てプレーする姿勢を見せ、第1セットは1-1から5ゲームを連取(6-1)。第2セットも相手につけ入る隙を与えずに力の差を見せつけて6-1で奪い、ストレートで勝利した。
「準決勝の試合が自分としては納得のいかないものだったし、今日のダブルスの序盤も上手くいかなくて苦しいところだったのですが、みんなの応援の力もあって途中から自分のペースを取り戻すことができて勝つことができました。シングルスもその流れで最後まで勝ち切ることができたので、満点ではないけれど及第点はつけられると思います」と喜びを噛み締めていた。
優勝の余韻が残る中で始まったS1の試合は、8月のインカレで個人戦優勝の高選手と、関東学生テニストーナメント大会シングルス3連覇中の筑波大・田中選手が、ダブルスに続いて激突した。
高校時代から何度も対戦してきたエース同士のプライドを賭けた一戦は、強烈なフォアを武器とする高選手と、サウスポーから左右に打ち分ける田中選手が互いに譲らず、第1セットからタイブレークへ。だが、6-6から高選手が2本続けてリターンをネットに掛けてしまいセットを失った。
第2セットもサービスゲームを互いにキープしていたが、4-5で迎えた第10ゲームを田中選手にブレイクされて、無念の敗戦。試合後、高選手は「調子は決して悪くなく、自分ではいいパフォーマンスができていたと思いますが、今日は田中選手の方が強かったですね。また来年、連覇と共に、シングルスでも勝てるように頑張ります」と前を向いた。
試合の終盤に、優勝が決まったと知ったという石垣選手。「できれば自分が5勝目を取りたいという気持ちがあったので、ちょっと焦りながらプレーしていました(笑)」
「S1として絶対勝ちたいと思っていたので負けて悔しい」と話す高選手。対策としてリターンの練習を積んできたが、「取りたいところで入らなかった」と、言葉に悔しさを滲ませた
観衆を魅了した勝敗を超えた戦い
両手打ちが代名詞の丹下選手
最後まで熱い戦いを見せ会場を湧かせたのは、S2の丹下選手と筑波大・中村選手。中村選手は愛媛県・新田高校の1年先輩で、「地元もいっしょで、小さい頃から切磋琢磨してきました」(丹下選手)という間柄だ。
第1セットは、力強い両手打ちでポイントを重ねて3-0と先行した丹下選手が、中村選手の追い上げをかわして6-4で取った。しかし、第2セットは一転して中村選手のペース。絶妙なコースへのショットに翻弄されて1-6で失い、セットカウント1-1でファイナルセットへ突入した。
だが、ここからが本当の勝負、意地と意地のぶつかり合いだった。互いに2ゲームずつをブレイクし合い、第11ゲームをキープした丹下選手が6-5と一歩リードし、中村選手のサービスゲームも15-40としてマッチポイントを迎えた。しかし、中村選手が粘りを見せ連続4ポイントを挙げてゲームをキープし、決着はタイブレークに持ち込まれた。
19時をまわり、大会運営が時計を気にし始めていたが、「時間がかかっても、勝ちにこだわって、最後まで戦いたい。負けたくないという気持ちが強かった(丹下選手)」。すでに両者の疲労は相当なもので、特に中村選手は足に負担がきているのが明らかだった。
1ポイントを取るたびに、コートサイドに陣取る両校のチームメイトたちが盛り上がる。そうした中、丹下選手の3度のマッチポイントを中村選手が耐えしのいでゆく。丹下選手の8-7で迎えた4度目のマッチポイント、中村選手のバックハンドのリターンがわずかにラインを外れた。審判の「アウト!」のコールが響くと、観衆のボルテージは最高潮に達し大歓声が響き渡る。被っていたキャップを思い切り高く放り投げた丹下選手は雄叫びを挙げ、ネット際へ出ようとしていた中村選手は力尽きてコートに崩れ落ちた。勝者と敗者のコントラストを目の当たりにした観衆からは、激闘を繰り広げた両者へ惜しみない拍手がしばらくの間続いた。
やがて立ち上がった中村選手の元へ、丹下選手が駆け寄り、2人でしっかり抱き合った。そこには健闘を称え合うこと以上の物がきっとあったに違いない。
「いろいろな感情がある中でもしっかり勝ち切ることができて良かった。勝ってうれしいのはもちろんですが、たぶん中村さんは今後テニスを続けないので、最後に先輩と戦うことができ、また多くの人たちが見ている中で、お互いにいいプレー、いい試合ができて良かったという気持ちでいっぱいでした」と振り返った丹下選手。「中村さんに『最後の試合の相手が颯希で良かった』と言われましたが、僕も同じ気持ちでした」と笑った。
激闘を制した丹下選手
涙にくれる中村選手(右)を気遣う丹下選手
本学の7勝2敗、20年ぶり4回目の優勝で幕を閉じた2024年の王座決定試合。監督就任14年目でチームを王座獲得へ導いた山田監督は「20年ぶりの優勝なので、率直にとてもうれしいですし、OBや保護者、大学関係者もみんな喜んでいると思います。石垣主将がよく選手たちをまとめて、いいチームにしてくれました」と笑顔。今回の勝因については「やはりダブルスが鍵でした。出だしはD1・D3ペアがセットを落として雰囲気が悪かったのですが、そこからよく持ち直して3つ勝てたのが大きかったですね」と話す。「昨年の王座決勝、ダブルスは0-3で慶應大に負けました(総合3-6)。その経験と悔しさを選手たちが持ち続けて、ダブルスの練習に力を入れてきたことが、今回成果として出た。昨年があってこその今年だったんだと思います」
さらに「日本大学はまだ連覇をしたことがないので、次はそこをめざして切磋琢磨していきます」という山田監督。ポイントとなるのはやはりダブルスだと言い、「今はインカレに15人ほど出場するなど選手層は厚い。今年のインカレ優勝・準優勝の2人(高選手、丹下選手)を目標に、それぞれが競い合い、高め合っていってほしい」と、チーム力の向上に期待を寄せた。
高選手、丹下選手ら今回の試合出場メンバーが残る2025年にも期待は膨らむ。「周りから連覇のことを言われると思いますが、そのプレッシャーに負けないように、自分たちのチームらしく、さらに練習を重ねていくことが大事。そして2連覇をめざしたいと思います」と、丹下選手は力強い言葉で締めくくった。
試合後の円陣で部員たちに「ありがとう」と感謝を伝えた山田監督は、胴上げで4回宙に舞った
チャンピオンTシャツで臨んだ表彰式(手前はスピーチをする石垣主将)
優勝旗を授与され喜ぶ齋藤選手
大会最優秀選手に選ばれた手嶋選手(左)と石垣主将(右)
大会エントリーメンバー 前列左から4年生の齋藤選手、手嶋選手、石垣主将、中野龍一郎選手(法学部・4年)、田岡選手、後列左から石井凌馬選手(スポーツ科学部・1年)、岡部悠希選手(経済学部・3年)、小泉選手、高選手、今村匡斗士選手(法学部・3年)、丹下選手、高畑選手
石垣秀悟 主将
この大会のことだけを考えて生活してきて、大会が近づくにつれて緊張も増していましたが、こうして優勝することができて素直にうれしいです。
テニス部は部員数が多いですし、その中でも限られた人しか試合に出られず、出られない人が多いというところもあって、まとめていくのも大変なことが多くありました。それでも、今回サポートに回った選手たちも含めて一丸となって団体戦を戦い、勝ち抜くことができましたし、誰もチームから外れることなく1年間やってこられて良かったと思います。
今の3年生は力もポテンシャルもある選手が多いので、実力的には2連覇をめざせると思います。ただ、勝ち続けるのは難しいことなので、気を緩めず、謙虚にこれからの1年を頑張って、また優勝してほしいと思います。