コロナ禍という特別な状況下において無観客開催となった第89回日本インカレ。選手および大会関係者が万全な感染症対策を講じて、2020年9月11日(金)~13日(日)の3日間にわたり、新潟県・デンカビッグスワンスタジアムを舞台に熱い戦いが繰り広げられた。
本学は、トラック種目・フィールド種目それぞれで実力者たちがいかんなく力を発揮。男子22種目中12種目で優勝・入賞して得点を重ね、2位に大差をつけて2年ぶり22度目の総合優勝に輝いた。
“自信”と“貫禄”の勝利
青空が広がる中で迎えた大会初日、本学に最初の得点をもたらしたのは、男子400mの井上大地選手(スポーツ科学・3年)だった。
これまで期待されながら度重なるケガに泣かされ、満足いく結果を残すことができていなかったが、7月の日大競技会で46秒66の自己ベストをマークすると、翌週の東京陸上選手権も46秒81で制し、確かな手応えを感じていた。
「今シーズンは46秒台が安定していたので、絶対勝てると自信を持って挑みました」
その言葉通り、午前中の予選を全体2位(46秒06)で勝ち進み、決勝レースの第4レーンに立った井上選手。隣の第5レーンは、昨年の覇者であり、予選で唯一45秒台を記録した早稲田大・伊東利来也選手。二人の一騎打ちになるかと思われたが、第2レーンの東海大・井本佳伸選手がスタートから積極的に飛ばしてレースを引っ張っていく。
「周りを見ないようにして、自分の走りに集中していた」という井上選手は、最後のコーナーを曲がり終えたところで3番手。しかし、後半の粘りが持ち味の井上選手はここからギアが入った。並んでいた伊東選手をかわして前に出ると、約3m先を逃げる井本選手が失速してきたのに対し、井上選手は力強い腕の振りと大きなストライドでグングン加速していく。残り40mで井本選手を一気に抜き去ると、追いすがる伊東選手との差も広げて1着でフィニッシュ。「後半も自分の走りができた」と、45秒83のタイムで自己ベストも更新する会心のレースだった。
ラストの激走で逆転しゴールを駆け抜けると、
両手を握りしめて雄叫びを挙げた。メダルを手に晴れやかな表情を見せる井上選手。
「自己ベストの45秒台で優勝することができたのでとてもうれしく、自信になりました。日本選手権でも優勝を狙いたいと思いますし、さらにベストを更新できるように頑張ります」
「今後の試合に向けて自信を持てるいい記録だと思います。日本選手権は周りの選手もこの記録を見て闘志を燃やしてくると思うので、それに負けないように準備したい」
感染症対策として試技数が最大4回に絞られて行われた男子走幅跳。主役はやはり、昨年のドーハ世界選手権入賞、ユニバーシアード金メダル、日本選手権3連覇中と絶対的な強さを誇る橋岡優輝選手(スポーツ科学・4年)だった。
約6ヵ月ぶりの試合となった8月のセイコーゴールデングランプリは、1回目に7m96(向い風0.1m)を跳んで優勝したが、助走の乱れを反省点として挙げ、インカレまでの約3週間で試行錯誤しながら修正してきた。その成果はすぐに表れ、1回目に7m92(追い風1.1m)を跳んでトップに立つと、2回目は「良い助走ができたので手応えがあった」と、向い風0.2mの中で8m06の好記録を出す。
3回目はファウルとなったが、インターバルに「助走でうまくいかなかった点の修正と自分の感覚を確かめていた」。
そしてインカレ最後となる4回目の跳躍。すでに2年ぶり2度目の優勝は決まっていたが、会場内はその記録に注目していた。
スタート位置について「はっ」と声を出して気合いを入れ、前方を凝視しながらルーティンの動作に入る。リズムとスピードがマッチした助走からの力強い踏み切りで高く跳び上がると、8mを大きく超えて着地。厳しい表情で計測を待っていた橋岡選手は、大会新記録となる8m29(向い風0.6m)を確認すると、手を叩いて喜びを表し、スタンドからの祝福にガッツポーズで応えた。「向い風でこの記録が出るとは思っていなかった」と話すが、納得のいく跳躍だったことは間違いなく、まさに技術と経験に裏打ちされた“貫禄勝ち"だった。
また、この走幅跳では鳥海勇斗選手(スポーツ科学・1年)が7m51(向い風0.7m)で7位入賞したほか、男子円盤投げでも阿部敏明選手(スポーツ科学・3年)が50m43を投げて5位入賞となり、チームに貴重な得点をもたらした。
8m29の記録はセカンドベストだが、リオ五輪の銅メダルに相当する今季世界最高記録(その後更新された)。
「来年の東京五輪につながるような跳躍ができたことがとても嬉しかった」と表彰台で笑顔の橋岡選手。「五輪が1年延期になった中、このような結果を出せて、いい準備ができていると実感できました。これからもケガに気をつけて精進したいと思います」
逆転優勝へ、“個の力”が躍動。
大会2日目は4種目で表彰台に昇り、総合得点では東海大(57点)に次ぐ2位(52.5点)。逆転での総合優勝を目指し、いよいよ最終日の競技が始まった。
晴れわたっていた空が次第にどんよりとした曇に覆われ、正午を回ると雨が落ちてきた。そうした中、男子400mハードル決勝に山本竜大選手(大学院・1年)と黒田佳祐選手(大学院・1年)が登場。前日の予選を51秒06の全体3位で通過した山本選手は、チームの主将として臨んだ昨年の大会でまさかの予選敗退となり、「自分のせいで総合8連覇を逃したという思いがあったので、今年は点数で貢献しなければならない」と、強い思いを胸に秘めてのレースだった。
ピストルが鳴り、4レーンからスタートした山本選手は、先行する5レーン・法政大と6レーン・東京学芸大の選手を追い掛けていく。3番手で200mを過ぎたあたりから加速していき、最後のコーナーを回って9台目のハードルを越えたところで2位に浮上すると、さらに加速する。最後のハードルを越えたところで山本選手が法政大をかわして先頭に立つと、そのままトップでフィニッシュラインを駆け抜けた。記録は予選から2秒近く縮めた49秒12で、2年ぶりのインカレ優勝。右手を高く掲げたあと、コースに深々と一礼した山本選手の顔には、笑顔ではなく安堵したような表情が浮かんでいた。この種目では50秒65で6位となった黒田選手とあわせて10点獲得となった。
予選の走りから修正して、「決勝は前半の積極性と中盤のリズムアップを意識して走りました」という山本選手。
「ラストは体力が残っていたので出し切るイメージで走りました」山本選手は「昨年の個人の悔しさ、大学としての悔しさを晴らすことができ、とても満足のいく結果になりました」と表彰式後の記念撮影では笑顔を見せた。
「日本選手権は、東京五輪参加標準記録(48秒90)突破での優勝を目標にして頑張ります」
午前中から始まっていた男子棒高跳の決勝に臨んだのは、昨年の日本インカレ&日本選手権のチャンピオンで、ドーハ世界選手権にも出場した江島雅紀選手(スポーツ科学・4年)。激しい雨のため全競技が一時中断するほどの悪コンディションの中、前半の高さをパスして5m30から試技を開始した。
傘を差しかけるサポート部員と言葉を交わしたあと、余裕のある表情でスタートした江島選手は難なくバーをクリア。だが着地したマットにしみ込んだ雨水により全身びしょ濡れになり、江島選手は苦笑いを浮かべた。
続く5m40へ進んだのは江島選手と日体大・大崎洋介選手の2人だけ。「突っ込みから空中動作へとスムーズに移れたので、ポールの反発をうまく利用して成功につなげられました」と、この高さも1回目で成功した江島選手に対し、大崎選手は1回目失敗のあと、バーを5m45に上げて挑むも2度失敗して試技終了。この時点で江島選手の日本インカレ2連覇が決まった。
5m20をクリアした吉田賢明選手(スポーツ科学・4年)が3位入賞。
「今回のコンディションで、しっかりと5m40を1回でクリアして優勝することができてうれしい」と話す江島選手(右)と3位・吉田賢明選手(左)。二人で14得点を獲得し、優勝へ大きく近づいた。
男子ハンマー投の決勝では、一昨年のU20日本選手権で高校生ながら優勝を果たした福田翔大選手(スポーツ科学・2年)が輝きを見せた。
1投目をファウルして「少し不安になった」というが、2投目で64m46を記録してベスト8を決めると、「調子が良いとわかったので、そのあとも記録を伸ばせる確信があった」と、余裕と自信を持って試技に臨むことができた。その言葉通り、3投目で67m55を投げて2位に浮上すると、最後の4投目も「自然と声が出たので、飛んだ感じはした」とさらに記録を伸ばして69m61でトップに立った。残す投てきは2人。3投目まで2位の九州共立大・小田航平選手は記録を伸ばせなかったが、同1位の中京大・古旗崇裕選手の投げたハンマーは70mライン近くに到達した。「スクリーンのリプレイ映像で、古旗選手の記録が自分と近いことがわかったので、ただ祈るのみでした」と固唾を飲んで計測結果を待った福田選手だったが、記録板の表示は69m31。昨年の日本インカレ優勝者(古旗選手)や昨夏アジア選手権代表選手などの実力者を抑えて、堂々の逆転優勝だった。
「優勝が決まった瞬間は、一気に体の力が解放されたような感覚で、すごくホッとしました」と話す福田選手は、試合が終わるとスタンド下で見守っていた室伏重信コーチのもとに駆け寄り、がっちりと握手を交わした。
「室伏先生からは『上出来だ。日本選手権でも頑張ろう』とお褒めの言葉をいただきました」
これにより、64m13を投げて6位入賞の久門大起選手(スポーツ科学・2年)とあわせて本学はさらに11点を加点することになった。
3投目で関東学生新記録を樹立し、4投目で更新した福田選手。
「室伏広治さんの2年生時の記録も抜けたこと、70m付近まできて日本陸上のトップで戦えるようになったことを、とてもうれしく思います」「10月の日本選手権でも優勝を目指したい」と話す福田選手は、「ケガなく着実に力を着けていき、室伏さんの持つ学生記録を塗り替えたい」と今後の目標も掲げた。
15年ぶりの新記録で飾った有終の美。
個人戦で5位という結果に「素直に喜べなかった」という鵜池選手。 「周りにこれ以上迷惑はかけられないので、マイルに向け切り替えて臨みました」
日本インカレの最終種目は、男子1600mリレー(4×400m)。全体3番目のタイムだった前日の予選からメンバーと走順を変更し、この日400mハードルで優勝した山本竜大選手をアンカーとして起用する作戦で、早稲田大・東海大などのライバルに挑むことになった。
強い雨の中に号砲が響き、8校の第一走者がスタート。本学は、「とにかく1着で次につなごうと考えていた」という400m個人戦5位入賞の鵜池優至選手(スポーツ科学・4年)が速いペースで飛ばしていく。「上手く乗せていくことができ、気持ちよく速く走れた。」とトップで第2走者の荘司晃佑選手(スポーツ科学・2年)へつないだ。
荘司選手は序盤から飛ばしてきた早稲田大に先行を許すものの、離されないようにくらいついていく。「トップで渡さなければならないと思って走りましたが、2位で渡すことになり少し悔しい」と振り返ったが、バトンは僅差で第3走者の井上大地選手へ渡った。
「早稲田のアンカーの伊藤選手が強いのはわかっていたので、1走から3走でリードを広げてアンカーにつなげようと話していた」という井上選手は、最初のコーナーで前をいく早稲田大を捉えると、ロングスパートで徐々に差を広げていく。「個人の時と同様に、後半で自分の走りができた」と、最後は10mほどリードしてアンカーの山本選手へバトンを渡した。
「信頼して選んでくださった監督の期待に応えたい」という気持ちで走り出した山本選手だったが、猛然と追い上げてきた早稲田大・伊東選手に中盤であっと言う間にかわされ、逆に5m近い差をつけられてしまった。しかし、「走力に差があることはわかっていたので、抜かれてからも自分の走りに専念しました」と、冷静だった山本選手は徐々にその差を縮めていき、最後のコーナーを曲がりきったところで約2m差まで迫った。「伊東選手の前半のスピードを見て減速することは想定できていたで、諦めなければ勝機はあると思っていました。ラストは気持ちだけです」と、必死の形相で走った山本選手が残り5mで伊東選手に並ぶと、最後は両者並ぶようにゴール。荘司選手は「何着でゴールしたのか、あの瞬間はわからなかった」というが、トラックに倒れ込んだ山本選手は「フィニッシュした瞬間に勝ちは確信していた」という。正式な結果が出るまで時間がかかり、「結果がわからず緊張していた」という井上選手は胸の前で手を組み、祈るように電光掲示板をみつめた。結果が表示された瞬間、4人の選手たちは大きな声を挙げて歓喜し、肩を組んで勝利をかみ締めた。タイムは3分4秒32。2位早稲田大との差はわずか100分の2秒で、両校共に2005年以来15年ぶりの大会新記録だった。
勝利が確定し喜ぶ選手たち。
(左)鵜池選手「決まった瞬間、4年間の色んなことがこみ上げてきて涙が止まりませんでした」
(中央)荘司選手「疲れなんて吹っ飛びました。陸上競技人生で初の日本一だったので記憶に残るレースになりました」
(右)山本選手「確定結果が出たときにやっと喜びが湧き上がってきました。メンバーの3人が駆け寄って来てくれてうれしかった」鵜池選手、荘司選手、井上選手は昨年もリレーの決勝メンバーとして走った。「昨年は5位となり悔しい思いをしたので、今年は優勝を目標としていました。達成できてとにかくうれしい」(荘司選手)。
また、井上選手と山本選手は個人レースとあわせて2冠に輝いた。
全種目を終えて、本学は総合得点100.5点(トラック得点2位41点、フィールド得点1位49.5点、混成競技得点1位10点)。個人優勝こそならなかったが、表彰台に昇った選手や入賞した選手たちが得点獲得に大いに貢献し、2位の東海大(総合得点63点)に圧倒的な差をつけての総合優勝を達成。わずか4点差で大会8連覇を逃した昨年の雪辱を、見事に果たすことになった。
(上段左)男子砲丸投の佐藤皓人選手(スポーツ科学・3年)は2投目で16m47を記録し、昨年に続いて3位入賞。
(上段中央)7月の東京陸上選手権で2m15を跳び優勝した走高跳・平塚玄空選手(スポーツ科学)は、2m10の記録に止まり3位。
(上段右)背中のケガからの復帰戦となった十種競技の丸山優真選手(スポーツ科学・4年)は、8種目を終えて4位だったが、9種目めのやり投で高得点を挙げて3位。潮崎傑選手(大学院・2年)も5位入賞を果たした。
(下段左)アンカーの激走で3位に食い込んだ男子400mリレー(100m×4)。右から1走・田中佑典選手(文理・4年)、2走・高橋哲也選手(スポーツ科学・1年)、3走・高橋謙介選手(スポーツ科学・3年)、4走・一瀬輝星選手(スポーツ科学・2年)。田中選手は最終日の200m決勝でも5位入賞を果たした。
(下段右)女子では砲丸投の廣島愛亜梨選手(スポーツ科学)が1年生ながら唯一表彰台(3位)に立ち、今後の成長に期待される。
降り止まぬ雨のため閉会式は屋内で行われ、丸山主将が天皇賜杯を授与された。 左から400m・鵜池選手、棒高跳・吉田選手、丸山主将、十種競技・甲羽ウィルソン貴士選手(文理・4年)、走幅跳・橋岡選手。
【丸山優真主将】
昨年は総合優勝連覇を4点差で逃してしまい、とても悔しい思いをしました。その分、チーム全員で“総合優勝奪還”という目標を強く持ち続けてきて、それを達成できたのでとてもうれしく思います。新型コロナウイルスの影響で全体集合を行うことができず、チーム全体のコミュニケーションを取りづらかったという点で苦労しましたが、最高の結果を出すことができ、監督・コーチ、チーム全員に感謝の気持ちでいっぱいです。
個人としては、昨年1点の重みをとても実感していたため、故障を押して最後まで競技を続けましたが、3位となって点数でチームに貢献できたことにとても満足しています。
【井部誠一監督】
日本インカレを開催していただけたこと心より感謝しています。
新型コロナウイルスの感染症拡大により、学生がスポーツを行うことが困難になり、大会開催に対する不安もあったと思いますが、この状況下で優勝できたことは、昨年連覇を逃した在学生が4年生を中心にチームをまとめ、普段の生活から最大限の感染症予防対策を行いながらトレーニングを継続してきた結果だと思います。
優勝へ向け、「勝ちたい」「負けない」「なにくそ」と思う気持ちを前面に出した幾つもの勝負の積み重ねが、最後の4x400リレー優勝のシーンを作り出し、総合優勝へと導いてくれました。日本大学陸上競技部選手・スタッフに感謝すると共に、彼らを誇りに思います。中でも沢井智也総務は各学年のマネージャーをまとめ、合宿所内で厳しく選手の生活面を管理してくれました。大会期間中も必死のサポートで支えてくれ、選手は不安なく試合に挑めたと思います。沢井総務を中心としたマネージャーチームに感謝しています。
また、丸山主将は、主将としての重責で大変だったと思います。ケガが完治していない中で約1年半ぶりの大会出場でしたが、入賞してチームを引っ張ってくれました。素晴らしい人間性と責任感に感謝しています。丸山優真主将がまとめた日本大学陸上部、全日本インカレ総合優勝おめでとう!
昨年、小山前監督から引き継いだバトンは、敗戦からのスタートになりましたが、負けから得られたものも多くありました。それを大切にして、連覇ができるよう選手に寄り添いながら今後も精進します。