新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、無観客試合として開催された第96回日本学生選手権水泳競技大会[2020年10月1日(木)~4日(日)、東京辰巳国際水泳場]。昨年、男子総合で12年ぶり37度目の優勝を果たした本学は、2連覇への思いも強く大会に臨んだが、主力選手の不調が影響して得点を伸ばすことができず明治大に次いで2位、女子総合はわずか4.5点の僅差で昨年と同じ5位に終わった。しかし、その中にあって日本代表経験を持つ4人のスイマーが大会新記録3つを含む計7種目で勝利し、大いに存在感を示すものとなった。

終盤の強さで、貫禄の2冠。

スポーツ科学・2年小堀 倭加

昨年の大会で1年生ながら400m自由形・800m自由形の2種目を制した小堀倭加選手は、今年も確かに強かった。
大会2日目最初の決勝レースとなる女子400m自由形に登場した小堀選手は、「イーブンペースで泳げたら」と考えていたというが、100mのラップを取って以降は50mを31秒台で泳ぎ、大会記録を上回るペースで神奈川大・望月選手と抜きつ抜かれつ競り合っていく。300mで0秒28あった差は、「後半に入りバテてしまった」とじわじわ詰められ、350mでは逆に望月選手に0秒38遅れをとってしまう。だが、折り返して望月選手の位置を確認できる側になった小堀選手は再び加速し、残り25mで再逆転すると僅差のリードを保ったままフィニッシュ。最後の50mを29秒30という驚きのラップを叩き出し、昨年自身が記録した大会記録を2秒近く縮める4分08秒59の大会新をマークして連覇を飾った。

翌日の大会3日目に行われた800m自由形(タイム決勝)は小堀選手が得意とする種目。
4組目でスタートした小堀選手は、序盤は様子を見ながらのゆったりとしたペースで、先行する神奈川大・中村選手についていく。350mを折り返してから次第にペースを上げていき、450mのターンで中村選手を0秒14上回って先頭に立つと、そこからはもう一人旅。着実に100m1分4秒台のラップを刻み、中村選手との差は広がる一方になった。しかも600-700mでは1分03秒74、最後は何と1分01秒43と終盤でさらにスピードをあげるスタミナを見せつけ、12年ぶりの大会新記録となる8分30秒83でゴール。中村選手に6秒以上の大差をつけての圧勝だった。
これで2年連続の400m・800mの2冠達成となった小堀選手。あと2年のインカレ完全制覇はもとより、女子長距離の日本代表へ向けて、さらなる成長が期待される。

初陣で躍動、堂々の2冠。

スポーツ科学・1年本多 灯

2019年世界ジュニア選手権・男子200mバタフライで銀メダルを獲得した本多灯選手が、1年生らしからぬ堂々とした泳ぎを見せて躍動した。
大会2日目の男子200mバタフライ、早稲田大・幌村選手のインカレ3連覇なるかが注目される中、予選全体2位で決勝に進出した本多選手。50mのターンは7番手だったが、次第にスピードに乗ってくると100mで3位に浮上。さらに150mではトップの幌村選手に0秒17差にまで迫り、残り50mの勝負に。ここからさらにスピードが上がった本多選手が25m手前で逆転すると、そのままの勢いで逃げ切った。
スクリーンの表示で1分55秒76のタイムと勝利を確認した本多選手は、小さくガッツポーズをし、水をたたいて喜びを表した。優勝インタビューで今の気持ちを問われると、息を切らせながら「ホントに、すごくうれしいです!」と満面の笑みを浮かべた。

本多選手は大会最終日の男子400m個人メドレーでも底力を見せつけた。
法政大・宮本選手と近畿大・井狩選手の実力者二人の争いと目されていたが、予選1位で4レーンからスタートした本多選手は真っ向から二強に立ち向かっていく。得意のバタフライで最初から積極的に飛ばしていき、唯一55秒台のラップで1秒以上の差をつけて100mをターンすると、背泳ぎでも粘りを見せて150mまでリードする。しかし、じわじわと追い上げてきた宮本選手に200m手前で逆転を許すと、続く平泳ぎでも徐々に差を広げられる。必死に食らいついていくも1秒41差、体1つ離されて最後の自由形に入った。

力感あふれるクロールで宮本選手を追い上げる本多選手は、350mで0秒51差に詰め寄ったが、後ろから3位の井狩選手も肉薄してきた。三者によるデッドヒートになったラスト50m、熾烈な戦いを制したのは、一気の加速により残り15mで逆転した本多選手だった。
「300mまでに抜かれると思っていたので、自由形でどう追いつき追い抜くか考えていた」というレースプラン通りの泳ぎで、フィニッシュタイムは宮本選手に0秒65差の4分13秒31。1年生ながら2つの種目での優勝に、会場内には驚きが広がった。

悔しさと喜びを味わった、進化の2冠。

スポーツ科学・3年長谷川 涼香

入学以来、長谷川涼香選手はインカレの100m・200mバタフライの計4戦で2位が3回、3位1回と優勝には手が届かずにいた。しかし、8月の大会で100mの日本歴代2位となる自己ベスト(57秒49)をマークすると、200mでも昨夏世界選手権の優勝タイムを上回る好記録(2分05秒62)で4年ぶりに自己ベストを更新。父娘二人三脚で取り組んできた練習の成果を、今大会でも発揮することが期待されていた。
大会2日目、長谷川選手のメイン種目である女子200mバタフライの決勝。序盤から飛ばして40mで先頭に立った長谷川選手は、100mを日本記録ペースで折り返した。後半に入りやや失速したものの、後続に体1つ分の差をつけてトップでゴールし、待望のインカレ初優勝を遂げた。だが、2分07秒82のタイムは自己ベストより2秒以上も遅いため、長谷川選手の顔に優勝の喜びは見られず、インタビューでも「思うようなタイムに全然届いていないので、悔しいレースになりました」と苦笑い。
「この優勝でチームにいい流れが来ればうれしいのですが…」としながらも「タイムは納得がいっていないので、本当に悔しい」と最後まで渋い表情だった。

「納得のいくレースを」――大会最終日の女子100mバタフライ決勝には、自らの気持ちを奮い立たせて挑んだ。
スタートから積極的に仕掛けて25m過ぎで先頭に立つと、50mを26秒87でターン。大会記録を0秒10上回り、8月の自己ベスト時よりも0秒19速い。後半もスピードが落ちることなく、2番手を争う選手との差を徐々に広げると体1つの差をつけてフィニッシュ。スクリーンのタイム表示を見た長谷川選手は、水をたたいて喜び、ガッツポーズを繰り返した。
12年ぶりの大会記録更新と学生新記録となった57秒70は、自身のセカンドベストにもなり、「こんなにいいタイムが出るとは思っていなかったので、うれしいです」と、前日から一転して笑顔全開の長谷川選手。女子のバタフライ2冠は2015年以来5年ぶりとなった。

渾身の泳ぎで、有終の3連覇。

スポーツ科学・4年吉田 惇哉

男子1500m自由形は、一昨年、昨年とこの種目の覇者で、2019年ユニバーシアード代表の吉田惇哉選手が大本命。直前に行われた女子800m自由形で後輩の小堀選手が連覇を決めているだけに、最後のインカレとなる吉田選手も気合が入る。
スタートから飛び出したのは後輩の尾崎健太選手(スポーツ科学・3年)。250mまで大会新のペースで飛ばす尾崎選手を2番手で追っていた吉田選手は、400m手前で先頭に立つと、そこからは独断場。100mを1分1秒前後のペースで泳いでいき、ラップごとに後続とのタイム差がどんどん開いていく。
ラスト100mはさらにペースアップして58秒を切り、自己ベストを2秒以上縮める15分08秒17でフィニッシュ。2位以下を9秒以上突き放しての圧勝で、見事にインカレ3連覇を達成した。
あふれる涙をこらえながらの優勝インタビューでは「感無量です」と声をつまらせた吉田選手。「寮で見ている仲間や、スタンドで応援してくれたチームメイト、指導してくれたコーチなどみんなに、最後に自己ベストを出して恩返しができました」と喜びをかみしめた。

すべての選手が輝いていた。

本大会では、優勝した4人のほかにも5人の選手たちがメダリストとなって表彰台に昇り、チームに高得点をもたらした。
女子では50m自由形の山本茉由佳選手(スポーツ科学・3年)と100m自由形の持田早智選手(法・3年)が共に3位になり、男子では200m自由形で石崎慶祐選手(スポーツ科学・2年)が2位、100m自由形の関海哉選手と200m背泳ぎの眞野秀成選手(スポーツ科学・2年)が3位に入った。
さらにリレーでも、女子4×100mフリーリレーで3位、男子4×100mフリーリレー、男子4×100mメドレーリレーでそれぞれ2位となり、対校戦の得点獲得に貢献した。

そしてもう一人、会場内の注目を集めていたのが「インカレを目標として1年間頑張ってきた」という池江璃花子選手(スポーツ科学・2年)。8月の大会で1年7ヵ月ぶりにレース復帰し、インカレ参加標準記録を突破した池江選手は、大会初日の女子50m自由形に出場。予選4組3位ながら全体6位のタイムで決勝進出を決めると、プールサイドではこみあげる感情にタオルで顔を覆った。
迎えた決勝、緊張をほぐすように腕を回した池江選手は一礼をしてスタート台に立ち、水に飛び込んだ。結果は3位と100分の4秒差の4位だったが、「自信もあって、ポジティブな試合ができた」とレースを振り返り、復帰戦からわずか1ヵ月で0秒70縮めた25秒62というタイムには「今は第二の水泳人生として自己ベストを出したという満足感がある」。さらに翌日には、女子4×100mフリーリレー予選に急遽出場して実戦復帰後初めて100mを泳いだ。病魔との戦いを経て、完全復活へ向けてスタートを切った池江選手は、「来年のインカレは絶対活躍します」とSNSに思いの丈を綴った。

コロナ禍で十分な練習ができない中、試合に出場した選手たちをはじめ部員全員が一丸となって戦ったインカレ2020。すべての選手たちが、泳ぐことができる喜びにあふれ、躍動するその姿はメダルに勝る輝きを放っていた。

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