相撲の学生日本一を決める第98回全国学生相撲選手権大会が、2020年11月7日(土)・8日(日)の2日間、新型コロナウイルスの感染対策により無観客試合として埼玉県・上尾武道館で開催された。昨年、4年ぶり29度目の団体優勝を飾った本学は、実績十分の新人2名をレギュラーに加え、団体戦2連覇を目指して各選手が奮闘。熾烈を極めた決勝戦でライバル・日体大を逆転で下し、見事に2年連続30度目の栄冠を手にした。

 

2連覇がかかる団体戦は大会2日目に行われた。Aクラス16校が4組に分かれ総当りで戦う予選は、1チーム5人ずつが対戦して3勝すれば勝利となる。本学は先鋒・草野直哉選手(文理・1年)、二陣は主将の佐藤淳史選手(法・4年)、中堅・宮崎麗選手(スポーツ科学・4年)、副将・川副圭太選手(文理・3年)、大将・川渕一意選手(文理・1年)の布陣で臨み、バルタグル・イェルシン選手(スポーツ科学・4年)、竹内宏晟選手(法・4年)、石岡弥輝也選手(法・3年)が控えに回った。
1回戦は拓殖大と対戦。10月の東日本選手権準決勝で2勝3敗と苦杯をなめた相手だったが、1ヵ月前の鬱憤を晴らすかのように全員が勝ちを納めて5対0と完勝した。続く2回戦・朝日大、3回戦・金沢学院大も難なく撃破し、合計3勝14ポイントを挙げた本学は、3勝15ポイントの日本体育大に続く全体2位で、優秀8校が争う決勝トーナメントへ進出した。

東日本学生選手権個人戦で優勝したイェルシン選手。

東日本学生選手権個人戦で優勝したイェルシン選手。

決勝トーナメント1回戦の相手は、49年ぶりのベスト8進出を果たした早稲田大。昨年のインターハイ個人戦準優勝、そして今年9月の全国学生体重別選手権でも無差別級準優勝を果たし、1年生ながら先鋒を任された草野選手は、「チームに流れをもって来られるよう、勢いのある相撲を取ることを心掛けた」との言葉通り、もろ差しからの下手投げで先勝した。
二陣戦は佐藤選手に替わり、イェルシン選手が登場。東日本選手権の個人戦で初優勝を飾るなど、この1年は18戦無敗と圧倒的な強さを誇っていたが、今大会の個人戦は準決勝で敗れて3位。「昨日負けて悔しかったから、優勝したかった」と、イェルシン選手が力の差を見せつけて圧勝すると、中堅戦は宮崎選手に替わった石岡選手が相手を寄せ付けず、さらに副将戦・大将戦も危なげなく勝って5対0とし、ベスト4に駒を進めた。

続く準決勝は、昨年のインカレ準優勝メンバー3人が揃う東洋大との対戦。先鋒戦、二陣戦を力強い相撲で見事に勝利したが、中堅・石岡選手は土俵際での送り出しに、不覚をとってしまった。しかし、副将戦に入り川副選手が立会い一瞬の変化による突き落としで勝ちをもぎ取ると、大将・川渕選手もすくい投げで相手を土俵に這わせて勝利し、4対1で決勝進出を決めた。

優勝まであと1勝。しかし、そのためには同志社大・近畿大を下して勝ち上がってきた宿命のライバル・日本体育大を倒さなければならない。団体戦メンバーには、前日の個人戦で学生横綱の称号を手にしたデルゲルバヤル選手をはじめベスト8に名を連ねた3人がおり、激戦必至の様相だった。
東に日体大、西に本学の選手たちが陣取って始まった先鋒戦、草野選手の相手は、昨年1年生で学生横綱に輝いた中村泰輝選手。ゆっくり時間を掛けた仕切りからの立会い、草野選手はすぐに左の上手を取ったものの、低い体勢から圧を掛けてくる中村選手に土俵際へ押し込まれると、そのまま寄り切られてしまった。予選からここまで5戦全勝でチームに勢いをもたらしてきた草野選手だが、「以前に対戦したことがあったので自分なりに考えて臨んだけれど、緊張して思うように力を発揮できなかった」と、最後に無念の1敗を喫した。

是が非でも勝たなくてはいけなくなった二陣戦、「勝ちにいこうと意気込んでいた」というイェルシン選手に対し、日体大は高橋選手に替えてダライバートル選手をぶつけてきた。立会い、頭から低く当たってきた相手を右に軽くいなすと、イェルシン選手は素早く左下手を差し込み、深くまわしをつかんだ。体を引きつけて吊り気味に一気に寄せていくと、こらえきれずにダライバートル選手の足が土俵を割って勝負あり(決り手:寄り切り)。「理想の相撲が取れて良かった」と、勝ち名乗りを受け土俵を降りるイェルシン選手は、勝利にも淡々とした表情を崩さなかった。
1勝1敗となり迎えた中堅戦は、石岡選手とデルゲルバヤル選手が対戦。土俵中央での差し手争いから、デルゲルバヤル選手がわずかに体を引くと、石岡選手はバランスを崩して倒れ込んでしまった。立ち上がりざま手で土俵を叩いた石岡選手の顔には、悔しさがあふれていた。

優勝に王手を掛けられ、後がなくなった状況でも、副将戦に挑む川副選手は冷静だった。
「追い込まれたというネガティブな考えは全くなく、自分の相撲を取ろうと考えていました。ここで自分が勝てば必ずチームが勢いに乗ると信じていました」
相手は世界ジュニア選手権2連覇の実績を誇る1年生の花田秀虎選手。身長は花田選手が15cmほど上回るが、川副選手には大きな相手を物ともしないスピードと技の切れ味、そして今年の東日本学生体重別と全国学生体重別の無差別級を制した経験と実績がある。互いの呼吸が合わず、仕切り直すこと3度。4回目でようやく立った両者は、激しい突き押しの応酬を見せる。花田選手の強烈なのど輪をこらえた川副選手が、右下手をねじこもうとしたところで花田選手に左上手を取られ胸があった。がっぷり四つでゆっくり動きながら相手の出方を慎重に伺う両者に、会場からは「我慢、我慢!」と声が飛ぶ。「相手はかなり緊張しているなと組んで実感し、まわしさえ切られなければ勝つ自信があった」と、川副選手は花田選手の2度の仕掛けにも動じなかった。

豪快なうっちゃりで勝利し、会場を沸かせた川副選手。

豪快なうっちゃりで勝利し、会場を沸かせた川副選手。

膠着状態になって1分を過ぎた時、勝負が動く。花田選手が腰を落とし、まわしを引きつけて一気に土俵際まで押し込み、体を預けてきた。だが次の瞬間、俵に足を掛けて踏ん張った川副選手が渾身の力で花田選手を持ち上げ、上体を大きく反らしていくと、スローモーションのごとく浮き上がった花田選手の体は西の土俵下へと放り出された。強靭な足腰を持つ川副選手が得意技とする、見事なうっちゃり。大歓声が湧き、見守っていた選手たちも体で喜びを表したが、すぐさまイェルシン選手らは大将戦に挑む川渕選手に歩み寄り、言葉を掛けていた。拳を突き上げ、土俵を下りた川副選手は「最高です」と逆転勝利に笑みがこぼれた。

大将戦を制して団体戦優勝を決めた川渕選手。

大将戦を制して団体戦優勝を決めた川渕選手。

2勝2敗に追いついて、いよいよ優勝を賭けた最後の大一番。東日本選手権で3位に入った実績を買われ、今大会1年生ながら大将に抜擢された川渕選手は、「プレッシャーはあったが、落ち着いて相撲を取ろうと思った」と、ここまで5戦全勝で役割を十分に果たして来た。
昨年の全国高校選抜大会個人戦では、本学でチームメイトになった草野選手を倒して無差別級優勝、さらに世界ジュニア選手権では個人戦2連覇と大将として日本の団体優勝にも貢献するなど、その力は誰もが認めるところだが、対する日体大の大将・石崎拓馬選手も今大会個人戦3位など、これまで数々の栄冠を手にしてきた実力者だ。
「思い切り、自分の相撲を取ることを考えていた」と、先輩たちの檄に背中を押され土俵に上った川渕選手は、心落ち着かせるように時間をかけて仕切りに入った。はやる石崎選手が2度突っ掛けてきて待ったとなるが、川渕選手は動じない。3度目の立ち合いで両者ぶつかると、川渕選手は195kgの巨体に物を言わせて真っ直ぐ押して出た。たまらず後退した石崎選手は土俵際で投げを見せるが、川渕選手が落ちるより早く、石崎選手の背中が土俵に付いていた(決り手:寄り倒し)。会心の相撲で勝利した川渕選手は、両手を挙げて喜ぶ先輩たちに拳を高く突き上げて応えた。
チーム一丸となって掴み取った通算30度目の優勝は、3連覇した2006年以来14年ぶりとなる大会連覇。新型コロナウイルスの影響で稽古が思うようにできず、苦しい時期を過ごしてきた選手たちにとって、また格別な思いをもたらす勝利になった。

【選手たちのコメント】

■佐藤淳史主将
絶対に優勝する気持ちで今大会に挑みました。予選3試合は、チームの流れをよくするために、前に出る相撲を意識してぶつかっていき、勝つことができたので良かったと思います。
4年間、辛いことの方が多かったですし、今年は特別な状況となって主将としてチームをまとめるのも大変でしたが、優勝して責任を果たせたことにホッとしていますし、報われたと感じています。

■竹内選手
後輩たちが勝つことを信じていました。うれしい限りです。

■宮崎選手
4年間、この日のためにやってきたのでうれしかった。

■イェルシン 選手
今年も優勝したいという思いでやってきました。努力してきて良かったと改めて思いました。

■川副選手
昨年は3-1で優勝が決まっている中での対戦でしたが、今年は逆に1-2で追い込まれた形で回ってきたので、苦労してつかんだ優勝というので喜びもひとしおです。

■石岡選手
自分の調子は悪かったが、チームの雰囲気が良く、2連覇できて良かった。来年に向けて1からチームを作り、3連覇を目指して頑張ります。

■草野選手
去年は大阪の会場で、日大の団体優勝を間近で見ていました。今年は実際にその場に立って、チームに貢献できたことがとてもうれしいです。来年につながるいい相撲が取れたと思います。

■川渕選手
最後は自分しかいないと思って一生懸命やりました。1年生で試合に出してもらえたことはとてもうれしく、指導者の方々や先輩、同級生の支えのおかげで勝つことができたと思います。

胴上げされた木崎監督は、選手たちと喜びを分かち合った。

胴上げされた木崎監督は、選手たちと喜びを分かち合った。

【木崎孝之助監督】
実力的には優勝できるチームだと感じていたので、とにかく気を引き締めて、選手たちが自分の力を試合で出し切れるように指導してきました。決勝の前には、自分の対戦相手のことだけ考えて集中するようにと言葉を掛けて送り出しました。コロナ禍で大変な状況の中、練習だけでなく、普段の生活から例年とは違う環境となりましたが、佐藤主将を中心に皆がよく頑張ってくれたと思います。
1年生の草野・川渕両選手は、高校時代の試合でも、厳しい状況の中でも実績を残してきているので、先鋒と大将の大役を任せましたが、伸び伸びと相撲をとって自分たちの役割を十分に果たしてくれました。若い選手を中心として2連覇できたので、その勢いを持って3連覇という新たな目標に向かっていくことはもちろん、それぞれが日大の伝統の偉大さに挑戦していってほしいと思っています。

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