昨年度、創部史上最高成績である春季リーグ戦準優勝、東日本インカレ第4位という結果を残した日本大学バレーボール部女子。チームの躍進を、両輪となって牽引してきたのが主将の長谷部奈香選手(文理学部)と、副主将の畑葵選手(法学部)。卒業後はともに、昨年10月から新たにスタートしたSVリーグ加盟チームに加わり、プロ選手として厳しい戦いの中に身を置く。大学4年間での成長を振り返りつつ、プロとしてもさらなる成長を誓う2人に、その思いを聞いた。
勝つために行動する覚悟を決めた
−卒業おめでとうございます。大学4年間はどういうものでしたか?
長谷部 人としても選手としても成長できた4年間だったと思います。私は、人に何かを言ったり、指示を出すことが好きではなかったし、相手に対して思うことがあっても言わずに我慢してしまうタイプでした。しかし、主将を務めていく上ではそれではダメだと気づき、自分の気持ちを伝えていくことを意識してやるようになったことで、人としてより成長できたと感じています。プレー面についても、それまであまり考えずにプレーしていましたが、相手が何をやってくるかなどを考えながらプレーできるようになったところが、成長した部分だと思います。
−主将という立場も成長に役立った?

優勝を目指して臨んだ秋季リーグだが5位に止まり、悔し涙を飲んだ長谷部主将。卒業にあたり日本大学学長賞を受賞した。
長谷部 主将をやりたいという気持ちはありつつも、自分にできるのだろうかという葛藤がずっとありました。周囲には「自分には主将は務まらない」と言い続けていたのですが、3年次のある時に、同期の選手から「いつまでもそんなこと言ってられないよ」と言われ、ハッと気づきました。確かに、ここで弱音を吐いていたら、みんなが不安になるだけだから、しっかり覚悟を決めるべきなんだと。その時から「主将をやりたい」という思いが強くなっていきました。部員数が多いのでまとめる大変さもありましたが、コミュニケーションをしっかり取ることを心がけてやってきました。
畑 最初の頃、(長谷部)奈香は自信がないように見えましたし、こちらも少し不安なところがありました。しかし、最後の頃はもう、主将は奈香しかいなかったと思えるほど、強い責任感を持ってやっていましたし、この1年でとても成長したと思っています。
−畑さんはどういうところで成長を感じていますか?
畑 私も人としての成長ができたというところは同じですし、バレーボールについてよく考えた4年間です。高校までは、監督などから言われた通りただやるだけでしたが、大学に入ると選手間で話し合ってやることが多くなり、自分たちで考えて実践することで、バレーの面白さをより知ることができたと思います。例えば、対戦相手の対策など、自分たちで考えてやったことがうまくいった時の楽しさというのを、高校までは知ることができませんでしたし、バレーに対してこれまでとは違う観点、新しい見方をすることができるようになりました。
長谷部 (畑)葵は新チームになってから副主将としてやってきて、いろんな葛藤があったはずで、特に4年生になってからは葵の中でも苦しいことが多かったと思うのですが、それを表に出さないのがすごいなと。苦しいところを見せないから、後輩たちも不安なくついていくことができたのではないかと思います。そういうところが成長した部分かな…ちょっと上から目線ですけど(笑)。

副主将として長谷部主将を支えた畑選手。卒業にあたり日本大学優秀賞を受賞し、卒部式では表彰状を代表受賞した。
−主将・副主将として、チームを引っ張るうえで考えたことは?
長谷部 主将になった当初は、部員45人の全員から信頼されるために「嫌われないようにしよう」と思っていました。同期がこう言ったから、後輩がこう言ったからと、みんなの言いなりになって、操り人形のように動けば嫌われないだろうと…。ただ、そういう姿は逆に頼りないと思われたり、不安がられるのではないかと気づいて、それからは誰にどう思われてもいいし、嫌われてもいいから、とにかくチームのことを最優先に考えて、勝つために動こうという覚悟を決めてやりました。
一度、後輩たちとの間がギクシャクした時があり、誰に相談していいかわからなくなってしまった時がありましたが、そんな時、葵を含め同期の人たちがすごく支えてくれたことが自分にとって本当に大きかったです。その時があったからこそ、この同期といっしょに勝ちたい、たとえ後輩に嫌われてもいいから、とにかく自分はもっと頑張らなければいけないという思いが生まれました。
畑 私は、後輩からは話しかけづらいタイプに見られていたようですが、副主将という立場としても、部員数が多いのでコミュニケーションをたくさん取っていかないといけないなと思い、自分から積極的にしゃべるようにして、プレー中も自分が思ったことは言うし、また言ってもらえるような人になろうと努力しました。
−春季リーグ戦では過去最高の準優勝。秋季リーグ戦に向けて話し合ったことは?

創部史上初の2位に躍進した春季リーグ戦では、長谷部選手自身も敢闘選手賞を受賞した。【RYU MAKINO】
長谷部 春季リーグ戦は準優勝だったので、秋はしっかり優勝を目指そうと話していましたが、目指せば達成するというものではなく、ただやっているだけでは絶対に優勝できない。春季リーグ戦の後の東日本インカレも歴代最高の4位という成績を残してきたからこその緩みが絶対にあると思っていたので、しっかり課題と向き合いながら進めていくというところ、技術面もそうだし、気持ちとしての緩みが起きないように、毎日自分が言葉をかける場面があるので、そこで引き締めていました。それでも秋季リーグ戦は残念な結果(5位)でしたが…。
−その中でも、個人としてはスパイク決定率でリーグトップとなりました。
長谷部 自分のポジション(ミドルブロッカー)的には、レシーブを上げてくれる仲間、信頼してトスを上げてくれる仲間がいてのことですから、自分だけの賞ではなく、夏の期間頑張ってきたみんなと一緒に取った賞だと思います。その頃は、スパイクの調子が良くて、どんな場面でも自分にトスを持ってきてほしいと思っていましたし、点数がきつい場面ではセッターにそれを伝えていました。自分のスパイクで勝ってやるぞという気持ちも強くあり、そこはセッターを含めチームのみんなと意志の共有ができていたと思います。

サウスポーからの鋭いスパイクでチームの得点源として活躍した畑選手。【RYU MAKINO】
−畑さんはこの1年の自身のプレーをどう評価しますか?
畑 個人的には、4年生となってからの1年よりも、3年生の時の方が点数は決められたように思います。ただ、それは決してネガティブなことではなく、1年生にいい選手が入り活躍したし、他の人が点数を取れたことでチーム全体での得点数は多くなりました。自分としてはもうちょっと決めたいとか、技術のレベルアップをしたいという思いもありましたが、チームとしての相乗効果で、全員で成長できたと思うので、そこは良かったと思います。
【RYU MAKINO】
プロの舞台で、さらに成長していきたい
川崎市出身の長谷部選手は、地元のチームとして特別な思いを持っていたSVリーグの強豪、NECレッドロケッツ川崎(以下、NEC)へ入団。今はプロのレベルの高さを肌で感じつつ、それに順応すべく学びの日々を送っている。

Bリーグ・川崎ブレイブサンダースに入団したバスケットボール部・米須玲音選手は文理学部での友人だという長谷部選手。「チームに貢献して、ともに川崎の街を盛り上げていきたい」
−プロを目指そうと思ったのはいつからですか?
長谷部 もともと私は、保健体育の教員になりたかったんです。高校はスポーツ科でしたが、自分のつながりを広げていくためにも、体育専門の人だけでなく、いろいろな人と関わることができる総合大学を志望し、教員免許も取れる日大進学を決めました。実際、3年生の秋頃から教員試験の勉強をしていたのですが、3年の終わり頃に国際大会へ向けた大学選抜の強化合宿に呼ばれて、より高いレベルのバレーを経験したことで気持ちが変化しました。「もうちょっとバレーをしてみたい」「もう少しバレーを続ける資格があるんだ」と思うようになり、そこからバレーボールでの進路を考えるようになりました。
−NEC入団が決まった時はどんな気持ちでしたか?
長谷部 私の地元のチームですし、高校の先輩も多く所属しているので、ずっと魅力を感じていました。当初、練習に参加させていただいた時は、私のポジションでは人が足りているからということで保留になっていたのですが、その後、大学での試合を見ていただき、ぜひ来てほしいと言っていただきました。高校時代から憧れていたチームですから、オファーをいただいた時はすごくうれしかったですね。
−チームに合流してみて感じたことは?
長谷部 大学でやってきたバレーとは、戦術も何もかもが違うし、今まで培ってきた技術だけでは、この先戦えないと実感しています。今までコート内で3つのポイントを見ていればいいと思っていましたが、他の部分も見ていないと対応できない部分が多くあり、技術はもちろんですが、プレー中の視野や考え方をもっと広げないといけないと思いました。まだ試合に出る機会はないですが、しっかり先輩たちのプレーを見ながら学んで、練習の中で実践していけたらいいなと思っています。
−プロ選手として意識が変わったことはありますか?
長谷部 バレーの技術だけでなく、走り方や立っているときの重心についてなどトレーニングを基礎の基礎から行うチームで、体のケアについても練習の倍以上の時間をかけてやるよう指示されています。1人1人に合わせたリハビリのメニューも考えてくれているので、バレー選手としての自覚を持って自分の体を見つめながらケアに取り組んでいます。1番大きく変わったのは、生活リズムが変わったところ。大学時代は夜型の生活サイクルでしたが、今は夜しっかり寝ないと体がもたないので9時・10時には布団に入り、食事も3食しっかり栄養を考えて食べるようにしています。
−これからは、ファン対応も必要になりますが?
長谷部 最初のうちは恥ずかしさがあって、試合後に出待ちしているファンの方々に、顔を背けるようにしてバスに乗っていたのですが、これじゃだめだなと思い、ファンの方を見ながら挨拶するようにしたら、声を掛けていただくことが増えました。試合に出て活躍する姿を見せて恩返しをしたいですし、ファンと触れ合える機会があれば感謝の気持ちを伝える。しっかり向き合って対応していきたいと考えています。
−将来の夢や目標は?
長谷部 NECの面接の時に、将来に日本代表入りを考えているかと聞かれたのですが、その時、私ははっきりした返事をすることができず、素直に「はい」と言えない自分に悔しい思いがありました。今もまだ言えませんが、これから何年かNECでしっかり練習を積んで技術を高め、代表を目指せる選手として成長していきたいと思っています。
「おらがまちのバレーボールチーム」として地域に根ざした活動を行っている「KUROBEアクアフェアリーズ富山」(以下、KUROBE)で、プロ選手としてのキャリアをスタートさせた畑選手。新たな環境の中で、新たな自分となるためのチャレンジを始めている。

インタビューの2日前、畑選手は一足早くNEC戦でリベロとして途中出場し、SVリーグデビューを果たした。
−KUROBE入団の経緯は?
畑 私は当初、9人制バレーボールのチームへ行くかどうか迷っていました。それでもまだ、6人制バレーで成長したいという思いがあったので、SVリーグに挑戦しようといくつかのチームのトライアウトを受けました。そうしたところ、KUROBEアクアフェアリーズ富山から合格通知をいただいたので、すぐに入団することを決めました。
−チームには慣れましたか?
畑 黒部は東京と違って自然がたくさんあるところが魅力的な街だと思います。チームには昨年の日大主将だった田邉彩七選手(文理学部卒)がいらっしゃるので心強いですし、先輩方も皆さんよくしてくださるのでだんだん慣れてきました。
−プロのレベルをどう感じましたか?
畑 大学では右のウィングスパイカーをやっていましたが、身長が低いのでSVリーグではそのポジションでやっていくのは厳しいかなと感じました。KUROBEの監督からは、どのポジションもできるようになれと言われているので、時間はかかると思いますが、リベロでもセッターでも、どのポジションに入っても対応できるように練習を頑張っていきたいと思っています。
−意識や気持ちの変化などはありますか?
畑 KUROBEに入団してから、バレーボールについてより深く知れるようになったと感じています。大学時代は、練習によって体が疲れるというだけでしたが、今はすごく頭を使ってバレーをすることが増えたので、頭が疲れます。それは今までにない感覚であって、練習時間は短いのですが、質の良い練習をできているように思います。高校から大学に入って、バレーに対して新しい発見がありましたが、KUROBEに入って、より質の高い発見ができているように感じます。
−ファン対応というのはどうでしょう?
大学と違って、ファンの方たちの支えが本当に大事ということはわかっているのですが、やっぱりまだ恥ずかしいという気持ちがあって…。でも慣れている先輩たちから背中を押されて声援に応えてみたり、私の名前入りのタオルを持って応援してくれる方を見るとすごい嬉しいので、皆さんの思いに感謝しながら、どんどん恩返しをしていきたいと思っています。
−将来の夢や目標は?
畑 具体的な目標はないですが、何でもできる選手になることを目指しながら、自分の価値をたくさん見出して行けたらと思っています。
−後輩の皆さんへメッセージをお願いします。
長谷部 私たちの代はオフェンス特化型のチームでしたが、今の代は逆にディフェンスに特化したチームになっていくと思います。ディフェンスの良さを活かしながら、オフェンスでは誰が攻撃して来るかわからない−−速さがあったり、コンビネーションを使ったりと、見ている人たちも選手自身も楽しめるバレーをしてほしい。そして私たちも先輩方から言われていましたが、周りから応援されるチームになってほしいと思います。
畑 自分たちの結果を超えられたら、すごく悔しいですが、超えていってもらいたい。優勝を目指して頑張ってほしいです。
−今後の活躍を期待しています。ありがとうございました。
「いい選手になるには人間性が必要だと思っている」という長谷部選手は、成長する気持ちを忘れたくないと、高校生の時に知った言葉を今も大切にしているという。畑選手は、「一番強くなれる人は、こつこつ努力できる人間」というKUROBEの監督の言葉に共感し、「努力できる人間になりたい。こつこつとやっていきます」と意気込んだ。
Profile
長谷部 奈香[はせべ・なか]
2002年生まれ。神奈川県出身。川崎市立橘高卒。2025年3月、文理学部卒業。NECレッドロケッツ川崎所属。ポジションはミドルブロッカー。春秋リーグ戦にて数々の個人賞を受賞するとともに、4年次には主将としてチームを牽引し、春季リーグ戦準優勝。自身も敢闘選手賞を受賞した。
Profile
畑 葵[はた・あおい]
2002年生まれ。静岡県出身。静岡県富士見高卒。2025年3月、法学部卒業。KUROBEアクアフェアリーズ富山所属。アウトサイドヒッター。1年次よりポイントゲッターとして活躍し、3年次以降はインカレ5位、春季リーグ戦準優勝、東日本インカレ4位など、チームの成長と躍進に貢献した。