新型コロナウイルス感染症の対策として例年より規模を縮小し、第73回秩父宮賜杯全日本バレーボール大学選手権大会(スーパーカレッジバレー2020)が2020年11月30日(月)に開幕。全国9学連から出場権を得た36チームがトーナメントで大学日本一を争うことになったが、強豪校を次々と撃破してベスト4に進出した本学男子バレーボール部は、準決勝で敗れはしたものの3位決定戦で順天堂大に快勝。1975年以来、実に45年ぶりとなる全日本インカレ3位という大躍進を果たした。

 

何もかもが異例なシーズンだった。2019年関東大学秋季リーグでは、明治大・東海大など強豪校に勝利して1部5位となり、「旋風を巻き起こした」と言われた。主力メンバーが残った2020年は、さらなる上位進出が期待されたが、コロナ禍により春季リーグは開催されず、練習もままならない状況に。さらに10月、中止となった秋季リーグの代替大会でようやく1試合戦ったのも束の間、再び活動休止の事態に見舞われてしまい、練習再開となった時にはもう、全日本インカレまで残すところ1ヵ月しかなかった。
「1ヵ月でチームを作り直すにもケガ人ばかりで…。満身創痍で試合に臨むことになり、とても不安でした」と、主将でセッターを務める谷越陽介選手(スポーツ科学・4年)は振り返ったが、昨秋のリーグ戦をレギュラーとして戦い抜いたアウトサイドヒッターの下田正明選手(スポーツ科学・3年)、高橋塁選手(商・3年)、水島健選手(商・3年)、ミドルブロッカーの西岡泰成選手(商・3年)をはじめ、選手たちの「日本一を目指す」という強い思いはくじけることがなかった。

12月1日(火)に行われた1回戦で立命館大を3−1で下すと、翌日の2回戦は2018年準優勝、昨年もベスト8に入った第7シード・福山平成大と対戦。セットカウント2-0から追いつかれてフルセットの激戦となったが、最終セットは着実にブレイクを重ねて勝利し、2年ぶりのベスト8へと駒を進めた。
さらに次の日は、2人の日本代表選手を擁する第2シード・東海大との準々決勝で、勝てば45年ぶりのベスト4進出となる。第1セットは前日の勢いのままに本学が25-23で接戦を制したが、その後は互いに得点差をつけてセットを取り合い、2日連続のフルセットとなった。最終セットも中盤まで互角の戦いとなるが、7-9の劣勢から西岡選手のクイック攻撃などで4連続得点を挙げて流れを引き寄せた本学は、そのまま粘る相手を振り切って勝利。その瞬間、熱いものがこみ上げてきた谷越選手は両手で顔を覆った。「入学してから4年間、越えられなかった壁をついに越えての4強入り。これでセンターコートで戦えるぞという喜びに加え、過去の大会で負けたこと、親や卒業した先輩へ良い報告ができると思ったことなど、いろんなことが頭の中を駆け巡って…」と涙の訳を話すも、「まだ次の試合が控えているのだから、我慢すべきでした」と反省の言葉も口にした。

準決勝・日体大戦。〈19〉高橋塁選手と、高い壁として立ちはだかる弟(右)とのマッチアップ。

準決勝・日体大戦。〈19〉高橋塁選手と、高い壁として立ちはだかる弟(右)とのマッチアップ。

12月4日(金)、準決勝の相手は第6シードの日本体育大。京都・東山高ではチームメイトだった本学・高橋塁選手と日体大1年・高橋藍選手の兄弟エース対決が注目を集める中、試合は始まった。「意識したというより、楽しみな気持ちだった」という兄の塁選手が強烈なスパイクを決めて得点を重ねるも、弟・藍選手に連続でバックアタックを決められるなど、序盤の競り合いから徐々に離されていき、第1セットを奪われてしまう。流れを変えることができないまま第2セットを落とすと、第3セットも日体大の強力な攻撃を止めることができずに0-3で完敗。初の決勝進出はならなかった。
「本当に情けない試合をしてしまった。4強に入ったチームがやって良い試合内容ではなかった」と谷越選手は悔やみ、塁選手は「実際に試合をしてみて、その凄さに圧倒された。マッチアップしたときのブロックの高さに驚き、大きくなったなと感じました」と、この試合18得点を挙げる活躍を見せた弟を賞賛した。

司令塔として、主将として、コートの内外でチームを牽引した〈1〉谷越選手。

司令塔として、主将として、コートの内外でチームを牽引した〈1〉谷越選手。

その日の夜、「このままでは明日も同じことになる」と危機感を覚えた谷越選手は、主力メンバーを集めてミーティングを開き、3位決定戦のスタメンについても話し合った。どのメンバーで挑めば勝てるのか、チームが安定するのか。様々な意見が出る中で1つの結論を導き出した谷越選手は、最後に語りかけた。
「もう1試合チャンスがある。泣いても笑っても明日が最後、とにかくやってきたことを全て出し切って、勝って終わろう」
主将の言葉に「気持ちをリセットして、まずは4年生との最後の試合を楽しもうと思った」(下田選手)、「主将の決断により皆の意思統一ができ、スッキリした気持ちで試合に挑めた」(水島選手)と、選手たちは再び奮い立った。
そして迎えた順天堂大との3位決定戦。東京・大田区総合体育館のセンターコートに立った選手たちは、5連戦で疲労もピークにあるが、それは相手も同じこと。試合前、谷越選手は「この舞台でバレーボールができることに感謝しよう。今までやってきたことを出し切れば必ず勝てる相手だ。最高の1日にしよう!」と改めてチームを鼓舞し、石渡光一監督も「新たな歴史を作ろう、いい顔をして楽しもう」と選手たちにエールを贈った。

谷越選手のサーブで始まった第1セット、相手のレシーブが乱れてネット上に浮き上がったところを下田選手が中央からダイレクトスパイクを決めて先取点。そこからは両校サイドアウトを重ねていくが、その中で下田選手と共に光ったのが、調子が落ちていた高橋塁選手に代わり、アウトサイドヒッターのポジションに入った秦俊介選手(文理・3年)。準決勝でも第2セット途中から起用され溌剌としたプレーを見せており、「センターコートという舞台は初めてで、ワクワクする気持ちと緊張する気持ちがあったが、チームのために自分の仕事を全うすることだけを考えていた」という秦選手は、前半だけで4得点を挙げ起用に応えた。中盤から終盤に掛けて点を取り合うが、粘る順天堂大に先にセットポイントを許してしまう。たが、下田選手がバックアタックを決めてデュースに持ち込むと、互いに譲らず27-27までもつれ込んだ。しかし、相手の反則でセットポイントを迎えると、最後は秦選手が3枚ブロックの背後にぽっかり空いたスペースへ、柔らかくボールを落として競り合いを制した。
第2セットに入っても、当たっている下田選手にトスを集めて序盤から4連続・3連続で得点を重ね、14-8と最大6点差を付けた。そのまま押し切るかと思われたが、攻めたサーブをネットに掛けるなどのミスが続いてジワジワと点差を詰められ、終盤には連続ポイントを取られて23-22の1点差に迫られる。だが、流れを断ち切ろうと取ったタイムアウト後は、松永龍人選手(文理・2年)を使ったクイック攻撃が2度決まって逃げ切りに成功、セットカウントを2-0とした。

勝利まであと1セット。だが谷越選手は、ケガ人が多い中でフルセットでの連戦が続いた状況では、早く決着を付けなければ体力的に厳しいと感じていた。「絶対にこのセットを取らなければいけないと思っていました」という谷越選手のサーブから始まった第3セット。3点を連取して好スタートするものの、2度のブレイクを許して追いつかれ、中盤まで一進一退の攻防が続いた。しかし、12-12から西岡選手がクイックを決めてリードし、続いて水島選手がサーブで崩して返ってきた球を再び西岡選手がダイレクトに打ち込んでブレイクすると、流れは一気に本学に傾いた。秦選手のバックアタックがワンタッチとなり18-14の4点差に広がると、たまらず順天堂大は最後のタイムアウトを要求。谷越選手は「(これまでと)いっしょ、いっしょ。つないで!」とメンバーに声を掛けた。
再開後も秦選手・下田選手のバックアタック、西岡選手のクイックが決まり着実に点を伸ばしていき、秦選手が相手の高さのあるスパイクを1枚ブロックでシャットアウトして24点目、いよいよマッチポイントを迎えた。24-19となり、最後は順天堂大のサーブを秦選手がオーバーレシーブで上げると、ネット際でジャンプした谷越選手が意表を突いたツーアタックを左手で叩き込んで試合を決めた。
「高さが自分の持ち味なので、前衛になった時は常にツーは狙っています。最後のサーブレシーブの時に、西岡に身振りで“ツーをやっちゃえ"と言われて…。最後にいいところを持っていく形になってしまいました(笑)」
谷越選手は、この試合のMIP(最優秀選手)にも選ばれ、「1年生の時から先輩方にお世話になり、4年生になってからは後輩たちに支えられてきたので、皆の代表として頂いたと思っています」とインタビューで感謝を語った。また大会を通じてのスパイク賞に選出された西岡選手は、「身長がないぶん、どのようにスパイクを決めたら良いのかずっと試行錯誤してきましたが、普段の練習からセッターの谷越さんとトスを合わせ、コースの打ち分けの練習をしてきた成果を今大会の試合で出すことができました」と、谷越選手への感謝を口にした。

コロナ禍の試練を乗り越え、バレーボール部の合言葉である「心を一つに」を体現するように、45年ぶりの全日本インカレ3位という快挙を成し遂げた選手たち。だが、彼らの心の中は喜びに満たされているだけではない。
大会後の書面取材では、「ベスト4に入ったことで、また新しいものが見えてきた。今後に向けて貴重な体験になった」(谷越)、「3位という結果は良かったが、満足はしていない。初めてのセンターコートや5連戦を経験し、僕たち同期にも、後輩たちにも収穫があった」(下田選手)、「まだ上へいける可能性をすごく感じた」(西岡選手)と、これからを見据えたコメントが多く見られた。その中でも監督・選手のほぼ全員が同じ言葉を綴っていた。
「来年こそ、日本一」
新主将に選ばれた高橋塁選手を中心に、日大バレーボール部はさらなる高みを目指していく。

【選手たちのコメント】

■谷越主将
今大会は、コートの内外で多くの方々のサポートと応援があったおかげでプレーできたと思っています。楽な試合は1つもありませんでしたが、そんな中でも皆が考え、気持ちを切らさずに戦うことができました。3位という結果は、皆がそれぞれの役割と責任を果たしてくれたからだと思いますが、一方で本当に3位にふさわしいチームになれているかという点ではまだ甘い部分があると感じています。
後輩たちには、日本一を目標にできるステージにやっとたどり着いたので、本気で日本一を狙ってほしいと思います。ここから先の道のりの方がずっと厳しいものになるでしょうが、沢山の人がサポートと応援をしてくれていることに感謝して、日大らしく頑張ってほしいですね。

■沢田選手
インカレ3位という久しぶりの大快挙の時に、最高学年でいられたことをうれしく思います。3位決定戦は出だしから全体的にとても良い状態で、コート内の雰囲気も良かったので、ベンチから見ていて最初から勝てる気しかありませんでした。4年間を通じバレーボールをやり切れたことは自分の自信になりましたが、もっとできたかなとも思うので、後輩たちには4年生になり引退する時に、悔いを残さないよう頑張ってほしいと思います。

■高橋塁選手
開催自体が難しい状況の中、自分たちが活躍できる場を設けてくださったことに感謝しています。今年唯一の試合ということでチームがさらに引き締まり、3位という結果につながったと思います。今大会では、勝った負けただけではなく、連戦の厳しさやずっとコートに出続ける厳しさなども含めて様々なことを経験しました。この経験を活かし、来年はチームのキャプテンとして自ら率先して行動し、部員一人一人と向き合い、勝利をつかんでいきたいと思います。

■下田選手
今大会ではボールが集まってきたので、どのような形であっても1点ずつ確実に取っていこうという意識でやっていました。3位決定戦では、バックアタックが効果的に決まったので、前衛後衛問わずに勝利に貢献できたかなと思います。今年の経験を活かしてチーム力を向上させ、来年もまた、センターコートと日本一を目指して頑張ります。

■水島選手
素直に嬉しいです。今大会は長期戦でしたが、オンとオフをうまく使い分けて戦い抜くことができました。練習期間が1ヵ月もない状況でも、チーム一丸となりその時間を有意義に使うことができたのが良かったと思います。来年も日本一を目指し、コロナに気をつけながら活動していきたいと思います。

■秦選手
ベスト4以上という目標を、チーム一丸となって達成できたのでとても良かったと思います。試合前に肩を痛めていたので不安はありましたが、積み重ねてきた練習の成果を、バックアタックという形で発揮できました。今大会では、チームの主力としてセンターコートを経験できたので、この経験を活かし、技術面と体力面の両方をさらにレベルアップして、来年1位となることを目指して頑張っていきたいと思います。

■西岡選手
今回のインカレは、多くの人たちに助けられて出場でき、支えがあってこその3位だと思います。3位決定戦の第1セットは、どのように自分たちのペースに持ち込むかを考えながらプレーしていましたが、3セット目は、いままでお世話になった4年生の顔が頭の中に浮かび、どうしても負けられない、4年生にメダルを掛けてあげたいという気持ちでした。今大会でチームの可能性をものすごく感じたので、来年は今まで以上に頑張って必ず日本一を獲ります!

■神戸選手
インカレ3位は、うれしい気持ち以上に、驚きの気持ちの方が大きいです。大会前の練習は量も質も不十分でしたが、それでも納得のいく結果を出せたので、より上を目指すには練習量や質の向上はもちろん、 “想いの強さ"が大切だと感じました。個人的には、リリーフサーバーという役割の中で、“プレーで変える"という目標を達成しきれなかったので、来年は「もっと良い結果を出したい」という想いを常に忘れず、1年間頑張っていきたいと思います。

■神原選手
目標にしていた日本一には届きませんでしたが、3位という結果は素直にうれしいです。また、これまでお世話になった4年生にメダルを掛けてあげることができたので良かったと思います。試合ではリリーフサーバーとしてコートに入り、納得のいくサーブを打つことはできましたが、相手にうまく切り返されてしまい、悔しさもあります。優勝・準優勝のチームとの力の差を実感しましたが、これから練習を重ねて、来年は日本一になれるように頑張ります。

■松永選手
どんな結果になっても4年生と同じコートでバレーボールができるのは本当に最後だったので、精一杯楽しもうと考えていました。3位となりましたが、まだ通過点だと考えています。しかし、例年に比べて練習できる時間が少なかった状況で、こうして1つの結果が出せたことはうれしく思います。最終的な目標の日本一にはまだまだ届かなかったので、今年見つかった課題等を1つ1つ克服していき、来年こそは日本一を獲ります。

■萬羽選手
勝って終わりたいと思いコートに立っていたので、その点は非常に良かったのですが、まだまだ上を目指せたと思います。序盤は緊張して思うようにプレーができませんでしたが、2セット目以降は攻める気持ちで、楽しみながらプレーしていました。厳しい連戦の中で、自分の持ち味であるレシーブでチームに貢献できたことはとても良い経験になりました。来年は上級生として自分のことだけではなく、チーム全体を後衛からバックアップしていこうと思います。

■仲村選手
チーム全員が「やるしかない」という気持ちで試合に挑めたことが、良い結果につながったと思います。ただ、5試合中1試合しか出場できず、悔しさも残りました。3位決定戦が自身のデビュー戦となり、リベロでの出場も人生2回目でしたが、特に緊張することなく、先輩たちとセンターコートで楽しもう、4年生を笑顔で送り出そうという思いでコートに立ちました。今回は先輩方の力で3位に入りましたが、来年は自分がチームを引っ張る存在になりたいと思っています。

【石渡光一監督】
今回の結果は、谷越主将を中心にチームがまとまったことが大きいと思います。コロナ禍での生活を通じて全部員のベクトルが1つになり、初めて公式戦を全員で観戦してコートと一体となりました。応援も含めて日大に勢いがあったと感じましたし、60人の想いをコートの中の選手たちがしっかりつないで頑張ってくれました。
ただ、チーム全体としてはまだ課題も多くあってまだまだという感じなので、1つずつクリアして成長し、学生日本一を目指していきたいと思います。

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