東京五輪に出場した男女5人のオリンピアンを擁して臨んだ第97回日本学生選手権水泳競技大会[2021年10月7日(木)~10日(日)、東京辰巳国際水泳場]。男子チームは総合2連覇を逃した昨年の悔しさを糧に、圧巻のパフォーマンスで2位に大差をつけて2年ぶりの王座に返り咲いた。さらに、昨年5位に終わった女子チームも、エース・池江璃花子選手を中心に得点を重ねて堂々の準優勝。「水の覇者・日大」のあるべき姿をチーム一丸となって体現した、実りと笑顔にあふれるインカレ2021だった。

 

4月中旬、三軒茶屋キャンパスで行われた東京五輪出場選手の壮行会を兼ねた水泳部新入生の入部式。最後の挨拶でマイクを握った上野広治監督は、総勢100名余の選手たちに向けて熱く語りかけた。
「残念ながら、この場に足りないものがあります。それは天皇杯と奥野杯(女子優勝杯)。来年の入部式は、その両方をここに揃えて迎えたい。そのためにはこの夏、多くのライバルたちに勝たなくてはならないし、悔しいと思う気持ちがなければ賜杯を手にすることはできない。これからの1日1日を大事にして、頑張ってほしい」
それから半年、東京五輪の大舞台を経験した日本代表選手と、夏の厳しい合宿を経て成長した精鋭たちは、無観客で行われた4日間のインカレで大いに躍動した。

池江選手から始まったメダルラッシュの快進撃。

大会初日、チームに勢いをつけたのは、やはり池江璃花子選手(スポーツ科・3年)だった。昨年のインカレでは、本来の力には程遠い状態でありながら、50m自由形で4位に入り周囲を驚かせたが、そこから東京五輪出場へと奇跡的な復活劇を見せたのは周知の通り。今大会最初の決勝レースとなる女子50m自由形は、4月の日本選手権で学生新記録を樹立している種目だけにインカレ初優勝の期待が寄せられた。

1・2・3 フィニッシュを決め、拳を突き上げで喜ぶ
池江選手(中央)と、持田選手(左)、山本選手(右)。

1・2・3 フィニッシュを決め、拳を突き上げで喜ぶ 池江選手(中央)と、持田選手(左)、山本選手(右)。

予選トップのタイムで4レーンのスタート台に立った池江選手。その隣り5レーンには同2位・山本茉由佳選手(スポーツ科・4年)、6レーンには同4位・持田早智選手(法・4年)と日大勢3人が並んだ。25秒前後で決着するスプリント勝負は、ラスト15mで加速した池江選手が山本選手との競り合いをタッチの差でかわして待望の初優勝。山本選手に続き、自己ベストを更新する泳ぎで持田選手も3着に入り、見事に本学が1・2・3フィニッシュ。ゴール後、電光掲示板の表示でその結果を確認した池江選手は、驚きの表情を浮かべながらコースロープを乗り越えて5レーンの山本選手の元へ。持田選手と共に「やったー!」と声を挙げながら3人で抱擁し、スタンドで歓喜するチームメイトたちへ何度も拳を突き上げた。
「昨年は悔しい結果だったので、今年は絶対に優勝したいと思っていました」と、インタビューでも笑顔があふれた池江選手。「タイムは良くないけれど、今日は優勝することが目標だったのでうれしい。こうして3人で得点を獲ることができ、初日からチームにいい流れを作ることができたと思います」

続いて行われた男子の50m自由形決勝には、400mフリーリレー代表として東京五輪を泳いだ関海哉選手(スポーツ科・4年)が登場。スタートの反応速度は最速だったが、この種目3連覇を目指す中央大・川根正大選手に0秒16及ばず、惜しくも2位だった。

 

大会2日目は、まさにメダルラッシュになった。
女子400m自由形決勝に登場した東京五輪代表の小堀倭加選手(スポーツ科・3年)は、同じく東京五輪代表の近畿大・難波実夢選手にラスト5mで並ばれ、そのまま同着でゴール。大会新記録となる4分07秒96で両者優勝となり、小堀選手はインカレ3連覇と共に、3年連続の大会新記録樹立となった。

一方、男子400m自由形では吉田啓祐選手(スポーツ科・3年)が快勝。故障の影響により不振だった昨年は出場選手中の最下位という屈辱を味わい、目指していた東京五輪出場も逃したが、吉田選手はその悔しさを晴らすように序盤から積極的に飛ばしていった。ペースが落ちた終盤に詰め寄られたものの0秒40差で逃げ切り、自己ベストを2秒近く上回る3分48秒40の好タイムで2年ぶり2度目の優勝を飾った。また、尾崎健太選手(スポーツ科・4年)も3位に入り、2人で36点を獲得して得点合計でトップに立った。

東京五輪以来、2カ月ぶりの試合だったが、力強い泳ぎを見せた本多選手。

東京五輪以来、2カ月ぶりの試合だったが、力強い泳ぎを見せた本多選手。

さらに、東京五輪200mバタフライ銀メダルの本多灯選手(スポーツ科・2年)が続いた。同種目の予選をトップ通過して挑んだ決勝レース、前半は隣の山梨学院大・田中大貴選手と競り合いながら、五輪時より速いペースで泳いだ。後半に入って先頭に立ち、150mでは0秒44の差をつけていたが、ラスト50mで再び田中選手が肉薄。最後はメダリストの意地を見せてトップでフィニッシュ(1分54秒45)するも、その差はわずか0秒10。「自己ベストに及ばないタイムは悔しいですが、勝ててうれしい」と話した本多選手は、この種目での大会2連覇を達成した。

得点が倍になるリレー種目でも本学の応援席は歓喜に湧いた。
昨年3位に終わった女子4×100mフリーリレーの決勝、1位通過した予選メンバーから小堀倭加選手が加わり、50m自由形を制した池江璃花子・山本茉由佳・持田早智選手と共に、日本代表経験者4人が揃う豪華最強の布陣で臨んだ。
第1泳者の山本選手、第2泳者の小堀選手が順位を上げられず、200mを終えてトップの早稲田大とは1秒01差の4番手。しかし、第3泳者・池江選手が序盤からスピードに乗ると、前を行く中京大・東洋大を一気に抜き去り、50mのターン前には早稲田大を逆転。力強いストロークで徐々に差を広げ、アンカーへつないだ。勝利を託された持田選手は、大会記録も視野に前半から飛ばしていき、2位に2秒以上の大差をつけてフィニッシュ。大会記録にはわずか100分の2秒届かなかったが、この種目では3年ぶり12度目の優勝を飾った。

混戦が予想された男子4×100mリレー決勝には、本多灯選手・関海哉選手の東京五輪代表2人と、昨年のこの種目2位に貢献した石崎慶祐選手(スポーツ科・3年)、尼ヶ崎羽龍選手(スポーツ科・2年)が出場。
3年連続で第1泳者を務めた石崎選手が僅差のトップでつなぐと、第2泳者の本多選手が1つ順位を落とすも、第3泳者の尼ヶ崎選手が0秒72あった差を後半の追い上げで0秒33差まで詰め、アンカー勝負へ持ち込んだ。逆転の期待を背負って飛び込んだ関選手は、最初の25mで中央大をかわし先頭に立つと、最後まで力強い泳ぎを見せて1秒以上の差をつけてフィニッシュ。
実に14年ぶり17度目の優勝、そして4×100mリレーの男女アベック優勝達成に、日大応援席のボルテージは最高潮に達した。
男女10種目の決勝のうち7種目で表彰台に昇った2日目は、女子が81.5点を加え合計134.5点で首位を守り、男は139点獲得で合計162.0点となり総合優勝へ向けて首位に立った。

次々と表彰台に立ち、着々と得点を積み上げた。

大会3日目に入っても本学勢の勢いは止まらない。
男子200m自由形決勝には、前日の400mを制した吉田啓祐選手、予選で自己ベストを出した石崎慶祐選手、眞野秀成選手(スポーツ科・3年)の3年生トリオが登場。昨年の覇者である早稲田大・田中大寛選手と石崎選手・眞野選手が先頭争いをする展開から、150mまで4番手に控えていた吉田選手が次第に上がってきて前を捉えた。残り15mからのスパートで田中選手をかわして先着し、見事に個人種目二冠を達成した。インタビューでは「昨年は得点0で貢献できなかったが、今年は2種目で40点を獲れて良かった」と笑顔。予選に続いて自己ベストを更新した石崎選手が2位、眞野選手も4位に入り、3人で52点を獲得して総合得点で2位との差を一気に広げた。

タイム決勝の1500m自由形は、4月の日本選手権2位の尾崎健太選手が、前半からハイペースで泳ぐ中央大・井本一輝選手を追いかける展開になった。
500mでは6秒以上あった差は、100mのラップを刻むたびに縮まっていき、ついに1000mのターンで逆転。しかし、ここからは粘る井本選手とのマッチレースとなり1400mでは0秒20のリードを許した。残り100m、ギアを上げた尾選手が井本選手の前に出て引き離しに掛かると、その差はみるみる開いていく。最後は1秒67の差をつけてフィニッシュ。インカレ初優勝を飾った尾崎選手が、昨年、吉田惇哉選手(現・自衛隊)が果たしたインカレ3連覇を受け継いで、この種目での日大勢4連覇を成し遂げた。

この日、最後のレースは、4×100mメドレーリレー決勝。予選(7位)からメンバー3人を入れ替えて臨んだ本学は、第1レーンからのスタートとなった。
第1泳者、背泳ぎの酒井陽向選手が2位、続く平泳ぎの神宮寺怜央選手(スポーツ科・4年)が6位でつなぐと、1時間半前にレースを終えたばかりのバタフライ・石川慎之介選手が混戦の中から抜け出して3位に浮上。トップの東洋大とは1秒93開いていたが、アンカーの関海哉選手は諦めてはいなかった。最初の50mで0秒78差まで縮めて折り返すと、そのスピードはさらに加速。残り5mで東洋大に並ぶと、そのままの勢いで見事に差し切った。大逆転での2年ぶりの優勝に日大応援席は湧き立ち、プールから上がった関選手を迎えたメンバーはガッチリと肩を組んで喜びを噛み締めた。

最後のレースまで、チーム一丸となって。

いよいよ大会最終日。3日目を終えて女子は神奈川大に逆転されて32.5点差の2位と苦しくなったが、男子は2位との差を100点近くに広げて、2年ぶりの総合優勝が見えていた。
その中でこの日も勝負強さを見せたのが、関海哉選手だった。男子100m自由形の決勝には、2レーンに尼ヶ崎羽龍選手、5レーンに石崎慶祐選手も進出していたが、関選手は連日激戦の疲れからか予選6番目のタイムで7レーンからのスタート。初日の50m自由形で関選手に勝った中央大・川根選手がリードして折り返し、尼ヶ崎選手をはじめ5選手が僅差でそれに続いたが、ターンしての浮き上がりからパワー全開となった関選手が前を猛追。残り15mからグイグイと伸びて逃げる川根選手を捉えると、そのままタッチの差で逆転勝利をつかみ取った。関選手は今大会出場した決勝レース4本で優勝3回、準優勝1回と大車輪の活躍だった。また、本レースでは石崎選手が3位、尼ヶ崎選手が8 位となり、男子総合優勝を決定付ける47得点を獲得した。

大会の締め括りは、通称“8継”と呼ばれる4×200mフリーリレー。女子は小堀倭加、伊藤悠乃、持田早智、池江璃花子の4選手で臨んだ。「昨日は800mでもメドレーリレーでも悔しい思いをした。その思いをぶつけようと思った」という第1泳者の小堀選手が、150mで先頭に立って体1つリード。第2泳者の伊藤選手も「チームのみんなに恩返しがしたかった」と、2位に差を詰められながらもトップをキープした。第3泳者は、予選を泳いだ長谷川涼香選手に代わって入った持田選手。「このメンバーなら優勝しかありえない」という自信で、早稲田大の1年生・松本信歩選手に一時リードを許すも、最後は4年生の意地で追いつき、アンカーの池江選手へと思いをつないだ。早稲田大とほぼ同時に飛び込んだ池江選手だったが、浮き上がった時点で体半分のリードを奪い、ゆったり大きなストロークでその差を徐々に広げていく。100mで1秒44、150mで2秒61と突き放して勝負は決し、次は大会記録更新なるかが注目された。泳ぎ終えた3選手が祈るように見つめる中、池江選手は出場32選手中で最も速いタイムで200mを泳ぎ切りフィニッシュ。これまでの記録を0秒66上回る大会新記録を樹立して、この種目での本学初優勝に花を添えた。

2年ぶりの8継優勝を目指した男子は、その時もアンカーを務めた吉田啓祐選手まで、眞野秀成・尾崎健太・本多灯の3選手でつないでいくラインナップを組んだ。「1番で帰ってきてタッチしたかった」と眞野選手が前半から飛ばしていくが、終盤一気に加速した中央大に先行され、0秒14差で第2泳者の尾崎選手へ。近畿大・早稲田大も絡んで混戦となる中、1秒14遅れの4番手で飛び込んだ第3泳者の本多選手が「女子リレーの大会新を見て、やるしかないと思った」と、勢いのある泳ぎで近畿大・中央大を抜き返し2番手に浮上。さらに残り10mで早稲田大を逆転し、0秒39のリードで吉田選手につないだ。最初の25mで早くも体1つ差とした吉田選手は、その後も余裕のある泳ぎでリードを守り切ってゴール。待っていた3選手が拳を突き上げて歓喜し、400mフリーリレーに続く男女アベック優勝の快挙となった。

4日間にわたる全競技が終了し、男女共に創部以来の過去最高得点を獲得。合計491.5点で2位に175点の大差をつけた男子は2年ぶり38度目の総合優勝で天皇杯奪還を成し遂げ、女子は昨年5位からの大躍進で初の準優勝となった。

大会終了後、来年度の新たな主将として男子は400m・800mリレーの2冠に貢献した石崎慶祐選手、女子は50m自由形と400m・800mリレーで3冠を達成した池江璃花子選手が就任することが発表された。
上野監督は言う。「1人が突出するだけのチームでは勝てない。全員が1つになり、全員が責任と自覚を持って試合に臨んで初めて総合優勝が可能になる」
今大会の主力も多く残る来年こそ、新主将を中心にさらに一丸となり、チーム日大のアベック総合優勝を期待したい。

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