前回の冬季五輪、平昌大会2018の男子モーグルでは、当時スポーツ科学部1年生の原大智選手(日本スキー場開発スキークラブ)が銅メダルを獲得し、大きな話題を呼んだ。その一方、女子モーグルでの出場に手が届かなかったのが高校3年生だった住吉輝紗良選手(スポーツ科・4年)。本学に入学後の4年間で、世界と戦いながら心身と技術を磨き、さまざまな経験を重ねた末、念願の五輪代表の座をつかみ取った。選手村に入ったばかりの住吉選手に、競技人生の集大成として位置付ける北京五輪への思いを聞いた。(2022年1月・オンライン取材)

北京五輪への出場決定、おめでとうございます。昨日、選手村に入られたそうですが?
ありがとうございます。今はまだ選手村にいる選手の数も少ないですし、ほかの試合と比べて行動制限もあるのですが、選手村に来てから五輪が決まったんだという実感が湧いてきましたし、気持ち的にはすごい楽しみです。
五輪出場が決まった時は、どんな心境でしたか?
4年前、平昌五輪に出られなかった時から、ずっとこの北京五輪に出場することだけを考えていましたし、4年間ずっと気持ちがもやもやして、もどかしさを抱えながら過ごしてきたので、出場が決まった時はそうしたものからやっと解放されたような感じでした。五輪が決まる最後の試合ぐらいからずっと涙もろくなってきていて、決まった時はずっとワンワン泣いていて、コーチも泣いていたのでつられて泣き続けていましたね(笑)。
その4年間で、何をすべきだと考えていたのでしょう?
正直、最初のうちは何をしたらいいのか分からなかったですね。平昌前の時にも私自身では「絶対五輪に出られる」という自信を持てるくらいの練習やトレーニングを積んですべての準備はしていたのですが、そこまでして出られなかったということで、それ以上に何をすればいいのかなって。ただ、それが分からないままにも時間はだんだんなくなってくるので、とにかく練習に打ち込んでいましたが、心の底から自信を持てるということはありませんでした。一方で、この4年間の試合の時にだけできることは、「自信を持っている」と自分に思い込ませて滑るということでしたね。
今は自信を持って試合に臨めそうですか?
そうですね、これまでに比べれば、 “恐怖”を抱えて滑ることはなくなるだろうなという感覚はあります。どれだけ上手く滑っても点数が出ないというような、「滑るのが怖くなる」という感じが今はありません。五輪で滑れるという楽しみしかないので、自信を持って滑ることができると思います。
今シーズンの調子は、W杯で初の表彰台も経験した昨シーズンと比べてどう感じていますか?
滑りの面では、昨シーズンよりも良いものが増えていると感じています。特に五輪に出るためには成績を残すことが必要になるので、最高順位こそ昨シーズンよりも低いですが、この一番難しいシーズンにコンスタントに成績が残せたという点で、昨年よりも良くなったと感じています。
以前、「雪の状況に合わせたターンの使い方」をテーマとして挙げていましたが?
まだまだ技術が足りないところはありますが、このコースは昨年までだったら上手く滑りきるのは難しかっただろうなと感じることはよくありました。
五輪で滑る初めてのコースで、対策はどのように?
コーチが先に見に行かれるので情報を聞いてからになりますが、以前にW杯で中国に来た時に滑ったコースが今回会場になるコースの隣のスキー場なので、雪質とかはだいたい分かっています。気温がマイナス17度とかの中で滑らなくてはなりませんが、今シーズンも寒い環境の中で滑ってきた経験があるので準備はできると思っています。
モーグルにおけるエア、ターン、スピードの要素の中で一番自信があるのは?
私は昔からターンが好きでやってきていたので、そこは自信がありますし、五輪では自分の持てる技術をすべて出し切りたいと思っています。
試合に向けての改善・強化しようと思っている点は?
最近は、ジャッジが上体の安定をよく見ているので、トップクラスの選手たちと比べて遜色ないように安定させることが必要だなと考えて練習しています。ただ、今のジャッジではカービング(カービングターンの質)が必要だと言いながら、カービングの点がよく出ていないというか、カービングについての理解が選手と合っているのかがよく分かっていなくて。それでも私の中に「カービングとはこれなんだ」というものがあるし…板の先端と後端がコブに進入する時に同じラインを最終的に通ってきて、それがタイトな位置で行われるという技術なんですが、いつかはジャッジのカービングの見方も変わってくると思うので、私としては得点が思うように伸びなかったとしても、そこはこだわっていきたいですね。
エアについての取り組みは?
昨シーズンから、難度点を上げるために第1エアを横回転から縦回転に変えたのですが、そこの慣れがだいぶ出てきたと思うし、着地に向けての回転後半の持っていき方を練習してきたので、そこは昨シーズンとは違ってきたと思います。
日本代表としてこれまで世界で戦ってきましたが、そのモチベーション、原動力は何でしょうか?
これまでも世界で戦うのは難しいなと感じることは多かったんですが、私の中で昔から日本で一番になるのは当たり前だと思っていたので、W杯チームに入り続けるというのは、原動力というより最低ラインだったと思っています。
五輪出場が決まってからも地元・俱知安はじめ多くのメッセージが来たと思いますが、プレッシャーとかにはなりませんか?
はい、たくさんメッセージをいただきました。親からも「こんな連絡が来たよ」ということも聞いているので、とてもうれしく思っています。周りからのプレッシャーを感じることも特になかったので、五輪だからといってもあまり変わらない気がします。
「五輪はこれが最初で最後」ということですが、その理由は?
卒業したら競技を続ける予定がないので、五輪は北京が最後になります。競技者としても3月の全日本選手権が最後になると思います。平昌五輪を逃した時のショックが思った以上に大きくて、競技を続けるにしても4年以上先のことは考えられませんでした。この大会がゴールだという思いで4年前から決めていましたし、あと4年間だからここまでやってこれたというのもありますね。
最後の五輪にどんな気持ちで臨みますか?
小学生の頃からずっと「出たい」と言っていた舞台に、こうして出られること自体がとてもうれしくて楽しみしかないし、15年間待っていた場所なので、自分としては成績よりも自分のしたい滑りをすることを楽しみたいなと思っています。ただ、トップ争いに加われる実力はあると思うので、全力で今できる滑り、見せたい滑りをすることが五輪を楽しむということにつながりますし、やるべき滑りをすれば結果はともかく、上位には加わっていけるんじゃないかと思っています。
楽しんで滑ってください、ありがとうございました。

Profile

住吉 輝紗良 ​[すみよし・きさら] スポーツ科学部4年

2000年生まれ。北海道出身。俱知安高卒。小学校高学年から本格的にモーグルを始め、小6で北海道選手権優勝。中学2・3年時にジュニア五輪を連覇。高校1年時からナショナルチーム入りし、3年時に出場した2017年全日本選手権デュアルモーグルで初優勝。2018年も連覇するが平昌五輪出場は逃す。本学入学後は2018年ジュニア世界選手権、2019年冬季ユニバーシアードで優勝。W杯では2019-2020年シーズンに5度の入賞を果たし、総合ランキング8位に入る。2020-2021年シーズンも2021年2月のW杯第4戦の3位をはじめ、国際大会で4度入賞。2021-2022シーズンのW杯最高順位は4位。

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