2022年2月に開幕する第24回オリンピック冬季競技大会・北京2022。その中の注目競技の1つであるスノーボード・ハーフパイプの男子代表に、本学から平野海祝選手(スポーツ科・1年)が選出された。代表内定後に参戦したX Games Aspenでは、五輪2大会連続銀メダルの兄・平野歩夢選手(2022年・スポーツ科卒)に続く3位に入り、兄弟で銀・銅メダル獲得の快挙を達成し、世界で戦える実力を見せつけた。兄の背中を追いかけながら、真摯にスノーボードに取り組んできた平野選手に、北京五輪への思いを聞いた。​(2022年1月・オンライン取材)

北京五輪への出場決定、おめでとうございます。今、どんな心境ですか?
ありがとうございます。内定を頂いてから何日か経ちましたが、まだ五輪に出るという実感はないですね。ただ、出場するという事実は変わらないので、五輪の舞台に自信を持って立てるように、今はアメリカのカッパーマウンテン(コロラド州)で毎日ハードなトレーニングをしているところです。
実感が湧くのは北京に入ってからでしょうか?
どうでしょう、五輪は夢の大舞台なので、行けば行くほど実感がないような感じになるもしれませんね(笑)。でも、公開練習が始まってしまえば現実味が出てきて、周りの選手たちのピリピリ感だとかが伝わってきて、「あぁ、ここが到着地点なんだな」ということが徐々に感じられてくるんじゃないかなと思います。
試合本番まであと2週間となり、気持ちは昂ぶってきていますか?
いや、むしろ出場が決まった時の方がうれしさがすごくて、昂ぶっていたように思いますね。代表選考がかかった4戦のうち、2戦が終わった時点で代表候補6人中の最下位くらいでしたが、自分なりに五輪に出るための戦略みたいなのをしっかり考えていたので、残り2戦で逆転して代表に入れた時はとてもうれしかったです。今は、トレーニングしている中でけがをしたり、コロナに感染してしまったら、五輪に出られなくなってしまうのでとても慎重になっていて、けがをせずにどれだけ効率良い練習をするかといったことを考えながら調整しています。

自分の力で代表入りをつかんだことに自信

五輪代表4枠をかけた戦いでは、序盤戦は成績が振るいませんでした。
自分でやりきって五輪に行けなかったらそれは仕方ないし、出し切って行けたならそれは良いことだし、というスタンスでやっていて、元々ネガティブになることは少ない方なんですが、最初の2戦の結果がダメだったので絶望的というか、ほぼ半分あきらめみたいな感じになっていました。でも、最後の2戦をものにしなければというところで全力でチャンスを掴みに行き、結果につながったので、それが大きな自信になりました。
代表入りを決めたW杯最終戦のラークス大会を振り返ると?
今、ハーフパイプの日本チームはすごく強くて、みんな実力のある選手ばかり。6人いる代表の誰が五輪に行ってもおかしくないし、この試合の結果次第で代表が誰になるかわからない状況だったので、気持ち的にはそわそわした感じでした。ただ、この試合で他の選手が転倒したりしたから僕が上に行けたというのではなく、自分の滑りがしっかりできて実力で上がったんだというのが実感としてあったし、みんなにもそう言われてうれしく思いました。
大技のダブルコーク1440(フォーティーンフォーティ)※1も2回成功しましたね?
予選を通過したあと、決勝ではフロントサイド1260(トゥエルブ)-バックサイド1260※2のコンボをやろうとコーチと話していたんですが、五輪に出るために必要なのはフロントサイドダブルコーク1440だなと自分でもわかっていたけれど苦手な技だったので…。でも、そういう苦手な技も出さないと上手くなれないというのも課題としてあったので、あえてやってみようということになって挑戦しました。公開練習では1本も着地で立てなくて、今回はダメかなと思っていたところ、試合では気合いというかアドレナリンが出た感じで、本気で「立ちに行くぞ」みたいな強い思いで成功できたので、手応えもあったし大きな自信につながった大会でしたね。※1 ダブルコークは縦2回転、1440は横4回転。 ※2 フロントサイドは正面方向に踏み切り、バックサイドは背中側に踏み切る。1260は横3.5回転。
W杯の今季最終戦ラークス大会(スイス)で大技を決め、8位に入り代表内定を勝ち取った。

W杯の今季最終戦ラークス大会(スイス)で大技を決め、8位に入り代表内定を勝ち取った。

北京五輪でも1440を構成に組み込んでいくのですか?
そうですね、さらに高さを上げつつも、1440と1260のコンボを決めることができたら、新しいことにチャレンジしていけたら良いなと。自分としてはエアの方が得意かなと思っていますが、回転しないエアで高さを出そうとすると内側に返ってきちゃったりするので、実は回転する技よりエアの方が難しいんじゃないかと思う時もあるのでなかなか…。W杯を転戦してきて感じるのは、日本人選手も外国人選手も、みんなの滑りがとても綺麗になり、技術も上がってきているので、ちょっとのズレがあっても点数が全然出なかったり、減点対象になってしまっている。だから高さのあるクリーンな滑りができたら、点数を取れるんじゃないかなと思っています。ですが、トリプルコーク1440などの技が出てきたら、また話が変わってくるかもしれませんけどね。
歩夢選手が挑むであろうトリプルコーク1440へのチャレンジは考えているのですか?
チャレンジしてみたいとは思いますが、それだけをやっても、ほかの技につなげなかったりしますし、兄もその壁と戦っています。トリプルコークを決めても他の技で転倒したりすることがほとんどなので…。1回のランに高回転技を多く入れると、空中にいる時は集中してほとんど息をしていないこともあり、最後の方は目がぼやけてきて視界の悪い状況になるのはわかっていますから、やはりトリプルコークを飛ぶ前に1440-1260をパーフェクトに決めることができたら、新たな自分の技としてチャレンジしていければいいなと思っています。それを今、このカッパーマウンテンで練習していて、本番でどうなるかというところですね。

勇気と感動を与える滑りを見せたい

五輪に出たいと思い始めたのは、歩夢選手のソチ五輪銀メダルを見た時から?
そうですね。小さい頃から父が厳しかったので、兄達も厳しい環境の中でスノーボードをやっているのを見てきました。スノーボードの練習で友達と遊ぶ時間がなかったり、勉強と競技の両立で辛い思いをしているのを身近で見ていたので、なかなかスノーボードをしたいという気持ちにはなれなくて。小学校6年生くらいまでは五輪に出たいという気持ちもなかったんですが、兄が初めて出たソチ五輪で銀メダルを獲った時に、想像以上に「これ、すごいな、やりたいな」という思いを強く心に受けたんです。それで、親に頼み込んですぐにスノーボードを始めました。五輪に出たいと思ったのは、それからです。
これまで国内外の試合で結果を出してきましたが、最も自信を持てた試合は?
ユース五輪での銀メダルや、兄と表彰台に立った全日本選手権3位とかもありますが、やはり今回のX Games Aspenかもしれないです。今が一番自分の中で自信があるというか、調子が良い中で戦って、世界最高峰のX Gamesに初出場して3位に入ることができたので、このまま練習していけば五輪はメダルまで行けるんじゃないかなと思えるくらい、大きな自信につながりました。
では五輪での目標は、表彰台の1番高いところですね?
はい、金メダルを目指して頑張るつもりですが、それよりも、一目見て「わぁ、すごかった」と、みんなに勇気や感動を与えられるような、自分が納得した滑りをして終われることを目標として挑んで、そこに結果がついてくれば良いなと思っています。
金メダルを獲ることイコール歩夢選手を超えることですが、どちらがうれしいですか?
兄と今までいっしょにスノーボードをしてきて、普通だったらライバル心みたいなものもあるのかもしれませんが、僕ら兄弟にはそれがなくて(笑)。兄はいつになっても僕の中ではすごい存在なので、兄に勝ったからどうこうという感じでもないので、みんなを倒すというような気持ちで行きたいなと思っています。
歩夢選手と比べられるようなこともあると思いますが?
自分としては比べられることはそんなに嫌じゃないです。兄のおかげでここまで来られた部分もすごくあるし、すごいことをしている人だと尊敬していますから、そこに近づけるようになりたいと思っています。でも、自分は自分をしっかり持って、兄は兄で自分をしっかり持っていて、お互い違ったスタイルでやっているので、そこは比べようがないんじゃないかとも思います。
高校・大学と歩夢選手と同じ道を辿ってきましたが?
ずっと兄の姿を見てきたので、自分のやりたいことをしながら、しっかり学校にも行ける、というところを選びたいという気持ちがありました。学校に行くことで、やりたいことができなくなったり、夢をあきらめたり、どちらか選択しなければいけないのではなく、両立できるところに行きたいと。それで兄が先に両立できるところに行っていたので、同じようにやってきたという感じです。
歩夢選手がスケートボードで東京五輪2020に出場しましたが、パリ五輪にスケートボードで挑戦するようなことは考えていますか?
二刀流というのは見ていてとてもハードで、兄にしかできないんじゃないかなと思っています。僕の場合は、スノーボードだけで精一杯ということもあるし、学業との両立もある。北京五輪が終わったからといって休むのではなく、4年後の次の五輪(ミラノ・コルティナ大会)に向けて練習に取り組んでいこうと思っているので、そこでいい成績が残せて余裕が出てきたら、そういうチャレンジもしてみたいなという感じです。
最後に、改めて北京五輪に向けての抱負をお願いします。
みんなに勇気と感動を届けられるような、自分のスタイルを貫いたような滑りができるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。
ありがとうございました。

Profile

平野 海祝 ​[ひらの・かいしゅう] スポーツ科学部1年

2002年生まれ。新潟県出身。開志国際高卒。12歳頃から本格的にスノーボードに取り組み始め、2017年のJOCジュニアオリンピックカップで優勝、2018年世界ジュニア選手権3位、2020年冬季ユース五輪で銀メダル獲得と着実に成長。さらに2021年には全日本ジュニア優勝に続いて全日本選手権でも2位の歩夢選手に次ぐ3位で表彰台に立った。また北京五輪代表候補としてW杯カッパーマウンテン大会に初参戦し、2022年のW杯ラークス大会で代表内定を決める。続いて初参戦したX Games Aspenでも銅メダルを獲得して歩夢選手と共に表彰台に立ち、世界の注目を集めた。

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