その日、世界で最も喝采を浴び、最も驚嘆と感動をもたらした兄弟は、間違いなくこの2人だったであろう。2022年2月11日、第24回オリンピック冬季競技大会・北京2022のスノーボード・ハーフパイプ決勝で、「人類史上最高難度」の大技を決めて日本スノーボード史上初の金メダルを獲得した平野歩夢選手(2020年・スポーツ科卒)と、従来の世界記録を塗り替える高さ7.4mの超ビッグエアーを披露した平野海祝選手(スポーツ科・1年)。互いに自分のスタイルを貫いたパフォーマンスで、観衆とテレビ視聴者を魅了した両選手だが、帰国後の慌ただしい日々の中にあっても、その目は早くも4年後のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を見据えていた。

(2022年3月7日取材)

 

2022年3月7日(月)、平野歩夢・海祝両選手は北京五輪の結果報告のため、両親と共に三軒茶屋キャンパスを訪れた。スポーツ科学部の小山裕三学部長と会談し、祝福と労いの言葉を贈られた2人は、続いて教職員・関係者らの大きな拍手に迎えられて会議室で催された祝勝会に出席。その冒頭、挨拶に立った小山学部長は改めて「歩夢君、海祝君、おめでとう。本当にうれしかった」と感無量の様子で語り出し、決勝の試合をテレビ中継した実況アナウンサーが20数年来の友人であり、試合直後にLINEでやりとりしたというエピソードを披露すると、やや緊張した面持ちでいた両選手にも笑みがこぼれた。

さらに花束贈呈のセレモニーで、東京五輪2020女子柔道78kg超級・金メダリストの素根輝選手(スポーツ科・1年)から花束を受け取った歩夢選手は、「小さい頃から追いかけ続けてきた夢をようやく叶えることができました。ここにたどり着くまでの多くの方のサポートと協力、応援があっての金メダルだと思います」と挨拶。また海祝選手は、「たくさんの応援ありがとうございました。今回、兄弟2人で五輪の舞台に立ち、高いエアーを皆さんに見せることができて、本当に楽しい五輪になりました。次の五輪では金メダルを目指し、兄に負けないように頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします」と、感謝の言葉と4年後への決意を述べた。

その後、予定外に始まったトークタイムに、会場は和やかな雰囲気に包まれる。
小山学部長から、世界を魅了した最高難度のトリック「トリプルコーク1440」について「どうしてできるの?」という素朴な疑問が投げかけられると、歩夢選手は「(失敗すれば)死ぬんじゃないかと言われていた技ですし、自分でもそう思っていました」と笑いながらも、「その技だけをずっと練習してきました。五輪前の試合でもずっと失敗が続いていたので、最後の最後、ギリギリのところで完成した感じで、かなり長い道のりでしたね」と返答。さらに2本目のランで得点が伸びなかった時の気持ちを尋ねられると、「まさかの点数だったので『あれっ』と思いました。自分の前の選手の滑りを見ていなかったので、そこで何があったのだろうと…かなり迷いましたね」。納得できていなかったと言うものの、「結果としていつも以上にスイッチが入って集中でき、3本目に向けて良い方向に気持ちが切り替えられました。ただ、それでも紙一重の勝負だったと思います」と振り返った。
 
一方、決勝1本目で世界新記録のビッグエアーを飛んだ海祝選手には、「怖くないの?」と小山学部長。戸惑いながらも「怖いんじゃないですかね」と海祝選手が答えると会場に笑いが起きた。記録は7.4mだが、これはハーフパイプのリップ(上端)から飛び上がった高さであり、北京五輪におけるコースのボトムから測れば実に14.6mにもなる。「着地の際にミスをすると大怪我につながることもありますが、そこはみんなに大技を見せたいという気持ちでチャレンジしていこうと思いました。五輪だからこそできたエアーだったと思います」と誇らしげに語った海祝選手。さらに、試合時にイヤホンで音楽を聴いている理由について質問されると、「気分を高めるということもありますが、観客の声が耳に入るとそちらに気を取られてしまったりするので…。滑っているときは集中していて何も聞こえていませんが、音楽なしで7mを飛んで風の音が聞こえたりすると、気持ちがビビってしまい、高さを出せなかったり突っ込めなかったりするかもしれないので、そういう意味でも音楽が必要だと思っています」という説明に、皆な納得した表情を浮かべていた。
 
最後は、関係者全員での記念撮影を行って閉会となった。

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